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「誰でもVRでアニメ制作が可能に」過酷な労働環境や後継者不足の改善も…新たな才能を発掘するアプリとなるのか?

 VR空間で誰でも簡単に1人で短尺アニメを制作できるアプリ『AniCast Maker』が、4月に日本とアメリカで発売された。発売元はエイベックス・テクノロジーズで、その名の通りエイベックスのグループ会社だ。“音楽”のイメージが強い同社が、デジタルアニメに注力する理由とは? そして「誰でも短時間でアニメが作れる」という画期的なツールによって、過酷な労働環境や後継者不足がしばしば取り沙汰されるアニメ制作の現場は改善されるのだろうか? 担当者に話を聞いた。

【動画】『AniCast Maker』デモンストレーション映像

15秒動画に特化したことで、誰でも気軽にアニメ制作が体験できる

 『AniCast Maker』はVR空間にスタジオを作り、演技、カメラ撮影、舞台設定などさまざまな役割を1人で行うことで、最大15秒の短尺アニメを制作できるツールだ。

 ユーザーは「Oculus Quest」あるいは「Oculus Quest2」のVRデバイスをかぶり、目の前に広がるVR空間で制作を行う。初期設定で2体のキャラクターや背景、小道具といったアセット(素材)が用意されており、絵を描く必要はない。また、VR技術を使うことでプログラミングの知識やツールの複雑な機能を覚える必要もなく、ユーザーが体や表情を動かしてキャラクターの演技を付けられたり、背景や小道具を選んだり、カメラワークを行ったりといったアニメ制作の作業がすべて直感的にできる。発売元のエイベックス・テクノロジーズの小牟礼剛さんは「アニメ制作ビギナー向けのエントリーツール」と『AniCast Maker』を位置付けている。

「通常、テレビアニメは1秒間に24枚の絵が使われています。つまり15秒で360枚。これだけの絵を1人で描くとしたら、途方もない時間がかかりますよね。『AniCast Maker』であれば、操作に慣れたら10分くらいで簡単なアニメを制作できます。ご心配される“VR酔い”ですが、開発時にVR酔いに対して慎重に対処しています。これまでに問題があったとの報告はありません。ただしVR酔いは個人差がありますので、長時間連続の作業は控えたほうがいいでしょう」(小牟礼さん)

 機能はあくまでシンプルに、キャラクターの表情や動きを滑らかに動かせること、そして15秒の動画を制作できることに特化して初心者のハードルを下げている。

「誰でも気軽にアニメ制作を体験できるのが『AniCast Maker』のこれまでになかった画期的な点です。そこから一歩進んで映像に効果や音楽をつけたり、あるいは15秒の動画をつなげて長尺のアニメを作りたくなったら、他社さんから出ている映像編集ソフトをお使いいただくのがベストだと考えています」(小牟礼剛さん)

制作費と見合わずアニメ化できなかった“ジャストクオリティ”の作品も制作可能に

 2019年5月に「全人類クリエイター元年」を掲げて設立されたエイベックス・テクノロジーズは、そのフレーズ通り、すべての人がクリエイターとして活躍できるためのテクノロジーの開発と提供を社是としている。事実、近年はYouTubeやTikTokなどの動画投稿サービスの普及で、さまざまな分野で個人クリエイター主導のヒットコンテンツが生み出されており、特に短尺コンテンツの需要が高まっている。『AniCast Maker』で制作した動画はSNSなどに自由に投稿できるため、クリエイターへの第一歩としては最適なツールと言えるだろう。

「今後、『AniCast Maker』では人気アニメやゲームとコラボしたキャラクターモデルや背景などの素材を追加ダウンロードコンテンツとして配信します。二次創作という手法でファンが自己表現をしたり、それを見たファン同士で盛り上がったりといったコミュニティが『AniCast Maker』から生まれて、コラボコンテンツに貢献できたらうれしいですね」(益田直幸さん)

 また現在、映像配信サービスでは、テレビドラマのスピンオフも人気を得ているが、そうしたスピンオフ作品もユーザー独自で制作でき、本編への期待感を募り、相乗効果が得られると言う。

「例えばテレビアニメがヒットすると第2期が制作されますが、放送までに1〜2年のブランクが空くことはよくあります。その間にスピンオフ的な妄想ストーリーなどが『AniCast Maker』でたくさん制作・投稿されたら、第2期を待ち望んでいるファンをはじめ、制作サイドや原作者も作品が盛り上げてくれて嬉しい。そんな形でコラボコンテンツに貢献できるのではないかとイメージしています」(益田直幸さん)

 なおこれらコラボコンテンツは版権元から公式でライセンスを受けているため、ユーザーは自由に創作活動や発表ができる。ただし二次創作の範囲での使用のみが許可されており、商用は不可だ。

 一般に商業アニメは莫大なコストを投じ、多くの労働力の分業によって長時間をかけて制作される。少人数(1人)かつ短時間でアニメが制作できる同アプリの技術を汎用すれば、労働環境の改善になるのだろうか? 小牟礼さんは「将来的には目指していきたい」としつつも、現時点ではすべてのアニメを代替できるとは考えられないという。

「ハイエンドな映像クオリティは、やはり手描きによる細かな線の描き込みだからこそ表現し得るもので、そうしたコンテンツは今後もマンパワーで制作されていくと思います。ただ一方でコンセプトによっては、それほど映像クオリティを追求しなくてもいい作品もあるはず。ところが現状はそうしたカジュアルな作品もハイエンド作品と同様の制作プロセスを取るしかないため、制作費と見合わずにアニメ化できなかった作品はたくさんありました。『AniCast Maker』を使えば制作費はもちろん抑えられますし、商業アニメの世界でもコストとクオリティのバランスが取れた“ジャストクオリティ”の作品が制作できる可能性は大いにあると思います」(小牟礼さん)

新たなクリエイターの発掘も…コンテンツ業界の活性化に繋がることに期待

 なお、現行の『AniCast Maker』ではオリジナルのキャラクターを描いて動かすことはできない。これを可能にしたらユーザーに高い技術レベルを求めることになり、「初心者向けエントリーモデル」にはそぐわないと判断したためだ。

「もちろん『自分のキャラを動かしたい』などさまざまな要望は届いていますので、ユーザーの使用動向を見ながら今後も随時アップデートしていく予定です。ただ、まずは多くの方にアニメーション制作の楽しさを味わっていただくのが本商品の目的。後継者不足が問題視されているアニメ制作現場ですが、ボーカロイドというツールから多くの“ボカロP=音楽クリエイター”が輩出されたように、将来的にそのなかから優れたクリエイターが生まれ、ひいてはコンテンツ業界の活性化に繋がることに期待しています」(益田さん)

 現状はアニメ制作のビギナー向けエントリーツールであるが、新たなクリエイターの発掘や労働環境の改善、良質なコンテンツの量産など、アニメ産業が抱える問題解決の足がかりとなりうる『AniCast Maker』の今後に注視したい。

※「AniCast」は株式会社エクシヴィの商標または登録商標です。

(文/児玉澄子)


◆『AniCast Maker』オフィシャルサイトはこちら⇒(外部サイト)
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