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文房具の“丸シール”で夜景を再現、点描画作家が明かす「違和感の楽しみ方」
コンセプトを練っておもしろいと思うアイディアを形にしていきたい
大村さん「ある一時、丸に魅了され、素手で丸を描き続けていたのですが、同じ丸をフリーハンドで描くのがだんだん煩わしくなり、貼るだけで綺麗に描ける丸シールに魅力を感じたのがキッカケです」
――いつぐらいから点描画を始めたのでしょうか?
大村さん「20歳の頃には丸シールを使って抽象画などを描いてました。当時はまだ浪人中で、絵画の試験に対応するため色んな技法を模索していくなかで丸シールと出会いました」
――これまでで一番の超大作はどれくらいの大きさですか?
大村さん「3m×4mの大きな作品で、制作には2ヵ月かかりました」
大村さん「基本的には日本にある丸シールは全色購入しています。なので、80色はあるかと思います。1つの作品で使うのは、多くて30種類ほどでしょうか」
――点描画と出会う前はどんな絵を描いていたのでしょうか?
大村さん「大学入学前は油画科に目指していたので、受験のために人物画や静物画を描いていました。また、油画科に入学してからは絵画表現の技を練習していました」
――筆を使って描くことにコンプレックスがあったというインタビューをお見掛けしたのですが…?
大村さん「綺麗な一本の線を引くことよりも、コンセプトを練って人々におもしろいといってもらえるアイディアを考える方が好きなんだと気づいてからは筆を使うことはだいぶ減りました。しかし、絵を描くことがいやになったり挫折したという気持ちで描かなくなったことはありません。今後作品のアイディア次第で絵を描く必要は出てくれば、それに応じて筆を執ることもあると思います」
――最初の頃に描いていた点描画のモチーフはどんなものだったのでしょうか?
大村さん「最初は、モチーフはありませんでした。テキスタイルパターンのように絵画の世界だけで成立する絵遊びのようなもので抽象表現を繰り返していました」
シールだけで表現するために、不要な要素を削ぎ落す作業にこだわり
大村さん「一番最初に描いた夜景は、香港。幼少期に住んでいた家の居間の壁に、大きな香港の夜景の写真が飾られていて、それを毎日眺めて過ごしました。自分がアーティストになりたいなと思うようになってから、この写真を越えるような“自分らしい”作品を作りたいと思うようになり、丸シールでの表現を模索しているときに、あの景色に挑戦できるのでは、と思い立ちました」
――夜景を丸シールで描くコンセプトとは?
大村さん「夜景というと、ゴージャスなイメージがあると思いますが、丸シールという安価で誰しも馴染みのある素材で描かれることで金銭的価値観のギャップを感じさせ、本物の写真と見紛うクオリティによって私たちの視覚情報がいかに曖昧なものかという指摘をしています。そうすることでこれまでなんとなく美しいと感じていたものの違和感や美しさの本質を問いただすきっかけになればとおもっています」
――世の中に注目されたのはいつごろからですか?
大村さん「2012年東京ミッドタウンアワードで入選とオーディエンス賞を受賞してからですね。それから、お仕事として活動させていただいております」
――夜景を作るうえで、特にこだわっている部分はどんなところですか?
大村さん「夜景写真はよくみると背景がくすんでいたり、光として再現不可能な曖昧な部分が多くあります。たとえばビルの影、雲、霧雨など、そういう不要な要素を消してシールだけで絵画として成立できるための整理に一番拘っていますし、この構図作成が一番難しいと感じています」
――ママとアーティストを両立させているとお伺いしました。大変なことはありましたか?
大村さん「大規模な個展を展示2ヵ月前に依頼され、1ヵ月半で作品を10点つくった時がとても大変でした。フランスで初の個展をしたときは、妊娠6ヵ月だったので、おなかが大きい状態で飛行機に乗り、個展のレセプションに参加してトンボ帰りしたときは、心身ともに想像以上に疲れました。また、時には育児や出産の事由が理由で諦めざるをえないご依頼もありました。本来なら諦めるのでなく夫婦で協力して育児して、ご依頼にお応えしたかったのですが……。最近は、アーティスト活動もきちんと行えるように託児場所を定めたり、信頼できるベビーシッターさんの雇用を確保しています」
――ママ兼アーティストになって変わったことはありますか?
大村さん「仕事ができる時間は、子供を託児してもらってるときのみ、と限られているので、時間を無駄にしないようにと、これまで以上に仕事の時間に全力で挑めるようになりました」