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ヒット続く“殺陣なし”時代劇 現代ニーズに見合う時代劇の新潮流

“殺陣のない時代劇”が人気だ。阿部サダヲ主演の『殿、利息でござる!』が、すでに興収10億円を超え、13億円前後まで数字を伸ばしそうだ。“殺陣なし”ではないが、ドラマ的な側面が強かった昨年の大泉洋主演の『駆込み女と駆出し男』は約10億円。一昨年の佐々木蔵之介主演の『超高速!参勤交代』は15億5000万円を記録した。

現代の生活とも隣接する身近な題材が受け入れられる

 殺陣が大きな見どころとはならない時代劇は、近年では堺雅人主演の『武士の家計簿』(2010年/15億円)あたりから、人気を博したと言える。“裏方”の武士の日常がおもしろおかしく描かれ、武士の家族劇という側面も強調されて人気となったのは、今もまだ記憶に新しい。人間ドラマとしての側面の強い時代劇の人気には、3つの理由が考えられる。そのひとつが、経済的な話が比較的多いことだ。ゆえに、庶民目線ということになる。今の観客にすれば、自分たちの生活とも隣接する身近な題材だと認識でき、すんなり入っていけるのだ。

 話全体に、軽さがあることも重要である。天下取りを目指すとか、主君の復讐を遂げるとか、殺陣がメインの時代劇によくある殺伐とした重々しい感じがない。いわば、肩肘はらず気軽に映画と接することができる。これは、暴力描写の重厚性を嫌う風潮のある今の時代にふさわしいとも言える。

 軽さから通じる笑いの要素も大きい。とくに、『超高速!参勤交代』に顕著だったが、笑いは映画への関心の度合いを高める。泣ける映画とともに、笑える映画もまた、今の観客のニーズに見合うものなのだ。NHK大河ドラマ『真田丸』も、笑いの要素が欠かせない。

歴史劇風時代劇も廃れない一方、今の時代から遠のき始めた古典的な“侍”像

 ただ、野村萬斎主演の『のぼうの城』(2012年/28億4000万円)や大泉洋主演の『清須会議』(2013年/29億6000万円)、佐藤健主演の『るろうに剣心』(2012年、2014年/3作品で累計126億円)といった大型時代劇も一方で作られ、人気がある。今年に入っても、小栗旬主演の『信長協奏曲』は、45億5000万円の大ヒットとなった。

 スペクタクル風、歴史劇風時代劇は、今も廃れてはいない。ヒットのスケールは、こちらのほうが圧倒的だとも言える。ただ、それら大型時代劇にも共通点がある。中身自体が、それほど重厚な感じがしないことだ。主演俳優の個性がそれを象徴している。殺陣にしても、ギラギラとした暴力的な感じの描写が少ない。本来あるべき厳しい上下関係も、それほどの緊張感はない。

 こうした興行的な傾向から、こんなことも考える。殺陣がメインとならない時代劇の人気や、重厚さが希薄になった近年の大型時代劇の健在ぶりは、“葉隠れ”に象徴される日本的な美学や思想を体現してきた侍=武士という古典的な像が、今の時代から遠のき始めたこととも関係しているのではないかと。

年配者人気のドラマ時代劇も“侍”から“サムライ”に変化?

 ストイックな生き方をし、主君に殉じる場合もあるのが侍だ。侍には、家族を超えた組織への忠誠心が、死を賭した緊張感とともに色濃くある。その美学、思想の上に立って、殺陣が存分にある重厚な時代劇は成立してきたのに、今やその中身が変質してきた。それは、侍の古典的な像に対する人々の対応の変化と無関係だとは思えない。

 最近、侍の表記が、サムライというカタカナとなる場合が多くなってきた。重い意味が充満した侍から、軽いテイストを感じさせるサムライへの移行である。侍の古典的な像は、このようにしだいに変質を遂げている気がする。その変化に対応し出しているのが、若者向きを強く意識する大型時代劇(だから興収が高い)はともかくとして、年配者中心に人気のドラマ時代劇であるという点がとくに興味深い。

 時代劇から、本物の侍がいなくなりつつある。その厳然たる事実が、近年の時代劇の底流にはあるのではないか。時代劇の殺陣があるなしにかかわらず、そのこと自体が、今の日本のあり方にも通じる気がしてならない。今後の時代劇の動向に注目したいと思う。
(文:映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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