心が自然と躍動してしまうような、音楽がかけてくれる魔法のような時間の空間。それをまっさらな気持ちで享受できることの幸福感。鳴り響くその音声や声色が純白であっても漆黒であっても、美しい艶とキラキラとした輝きは放たれ続けている――\それは、
世界の終わりにしか創り出せない音楽時空間であるということを、改めて深く体感できたひととき。ツアーファイナルの場となった東京・C.C.レモンホール(12月23日)には、“掛け値なしに掛け替えのない、大切な何か”が、確かに存在していた。
甘ったるい絵空事ではなく、現実としてできる最良のことを謳った「ファンタジー」で幕を開けたステージ。深瀬がハンドマイクで歌いながら軽快なフットワークでステージ上を動き回るこの楽曲は、やはり広い場所が良く似合う。瞬時にコミュニケートできる人懐っこい歌は、向き合う人が多ければ多いほど、その力を発揮できるから。そして、カラフルなライティングとメンバー4人の表情が映し出されたビジョンが彩りを添えた「虹色の戦争」で、ライブは早くも最初のハイライトを迎える。ポップミュージックの凄味、というものを見事に体現したパフォーマンスは、圧巻!のひとことに尽きた。\r
しなやかさと凛々しさを兼ね備えた藤崎のピアノプレイが主軸となり、深瀬と中島がツインボーカル的なアプローチで臨んでいた、新曲「夢(仮)」。クラシカルな重厚さ、軍隊の行進にもマシンガンの音にも聴こえる不穏なリズムトラック、そしてエキセントリックなギターソロが、生々しいメッセージをグッと浮き彫りにした「世界平和」。アルペジオの弾き語りから滲むような音風景が静かに広がり、鳴り止むと同時にスーッと心が洗われるような感覚を味わえた、「白昼の夢」。楽曲のカラーはそれぞれ異なるが、この3曲である種のスペクタクル的なシーンを創り上げていたことに対しては、素直に唸らされた。披露される楽曲の数だとか、かける時間だとか、そんなところにライブの本質があるわけではない。大事なのは、充実した1曲1曲をどういうフォルムで聴かせられるか――\その証明が、ここにはあったから。
だからこそ、次に披露された「天使と悪魔」が特別に突出したものにならなかったのだろう。彼らが大きく世に、幅広い層に知られるきっかけとなったこのナンバーが、他の楽曲と同じ温度のなかで迎えられたのは、1つひとつの作品を丁寧に大切に鳴り響かせることを4人が心がけているからこそ。そして、ここに集ったオーディエンスがそのことをちゃんと知っているからこそ、なのだ。
淡いトーンと浮遊感。そこに藤崎のピアノがフックを織り込んでいく、「死の魔法」。余韻まで浸らせてくれたこの曲に続いて披露されたのは、深瀬によると“「死の魔法」のアンサーソング”であるという、未発表\曲「不死鳥」だった。中島のシャッフル系のリフを基調としたリズミックなナンバーで、表裏であり鏡であり対であろう「不死鳥」と「死の魔法」が、ひとつの流れのなかで揃ったときに映し出す世界には、強く心を惹かれずにはいられなかった。\r
そして、そこに綴られた思いを共有することは難しい(安易に“できる”と言ったら、それは嘘になる)けれど、紡がれた音楽には聴けば聴くほど共鳴度が深まる、特異な存在の「幻の命」から、ライブはついにラストの「青い太陽」へ。スペーシーなイントロダクション、アッパーなエレポップ・サウンド、DJ LOVEのボコーダー・ボイスがめくるめくようなトリップへと誘い、オーディエンスの高揚感は最高潮へ。グルーブがカラフル、というのは、世界の終わりのミュージック・スケープの大きな魅力のひとつだろう。
“ライブで弾くのは初めて”と言葉を添えて、アコースティックギターを抱いた深瀬がピアノをバックに歌い出したのは、新曲「眠り姫」。楽曲を構築するセクションのコントラストがかなりはっきりとした、緻密かつ大胆なアレンジメントが光る作品で、いうならばコンパクトな組曲風。バンドの進化が明確に伝わってくる楽曲を、アンコールというちょっぴり特別なシーンで聴くことができるのは、音楽ファンとしてたまらない瞬間だ。\r
そしてオーラスを飾ったのは、軽やかなビートと“ポップでキュートなセカオワ・メロディー”がまさに炸裂する、「インスタントラジオ」だ。ハピネス満開!の清々しい、大団円。DJ LOVEのタネもシカケもあるイリュージョンで、最後の最後をチャーミングに締めくくった、この日のライブ。初のホールワンマンとあって若干の緊張もうかがえたが、それも世界の終わりの新たな始まりを示すものなのかもしれない。
開演前のアナウンス(秀逸なセンス!)から、彼らが姿を消すその瞬間まで――\愛しく尊い、幸福を内包した楽しさを堪能できた、そしてさらに未来への期待もますます強く深く抱かせてくれた、一夜だった。\r