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『凪のお暇』ならではの“あっという間”感のなぞ 粋なオープニングとエンディング

 コンフィデンス誌のドラマ満足度調査「ドラマバリュー」で高い数値を更新し続けている『凪のお暇』(TBS系)。今期No.1という声も多い人気作だが、個人的には初回から第8話に至るまで、このドラマにのみ、ずっと感じ続けてきた不思議な違和感がある。それは「1時間の放送なのに、異様に短く感じる」ことだ。

金曜ドラマ『凪のお暇』(C)TBS

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■「楽しい時間は早く過ぎる」だけではない?

 毎回、夜10時きっかりにそのままなだれ込むように本編が始まる『凪のお暇』。夢中で観ているうちに、あっという間に終了し、「あれ?本当に1時間やった?」と不思議に思うことが多々ある。体感的には30分くらいの感じで、キツネにつままれた気分になるほどだ。

 気になってTwitterの反応を調べてみると、自分と同じように『凪のお暇』を異様に短く感じている人たちのつぶやきが多数見られた。
「いつも10分くらいしか経ってない感じするけど1時間経ってるんだよね〜不思議〜笑」「終わるの早すぎる、他のドラマより30分短いんじゃね?ってくらいあっという間」「1時間はなんて短いものなの…最後までじっくり画面と見つめ合うよ…」「1時間はこんなに短いのに1週間はこんなに長いのは何故でしょう…」

「楽しい時間は早く過ぎる」ということは経験的に誰もが知っていること。だが、それにしても楽しいドラマ、秀逸なドラマがみんな短く感じるかというと、そんなことはない。この『凪のお暇』ならではの「あっという間」感は何なのか。

■脚本の巧みさ、緻密な構成から生み出されるカタルシス

 ひとつには、黒木華高橋一生中村倫也市川実日子をはじめとしたメインキャストの巧さがある。また、登場人物が多過ぎないこと。加えて、脇のキャラもみんな個性的ながら、その背景を必要以上に追いかけすぎず、あくまで「凪の目線」をベースとして進んでいく。

 実はこれはけっこう大事なことで、近年のドラマは複数の軸を置き、要素をあれこれ詰め込み、毎週ゲストキャラが出てきて騒動を起こすなど、複雑で濃くてやかましい印象を受けるものが多いからだ。

 といっても、ヒロイン至上主義の物語ではない。見ず知らずのまま度々すれ違っていた脇のキャラたちが、「凪」を接点として結びつき、「過去」が一気につながっていく。そこから人と人との新たな関係性が育まれていく。視聴者側にとっては非常にシンプルで観やすい。しかし、自然と誘われるままに視点が動いていき、気づいたら積み上げられた山の上に到達できていたような快感がある。これは脚本の巧みさ、緻密な構成によるものだろう。

■「ながら観」にならないバランスの良さと小気味よいテンポ

 もうひとつ、音楽や映像の効果も大きいだろう。
 あたたかな色味の画面や、パスカルズによるアコースティックの優しく懐かしい音楽。やわらかな光や、セミの声や風鈴の音、風で揺れる木々や、ヒマワリの花、「貧乏くさいけど、しみる」凪の節約ご飯の数々など、目にも耳にも、想像上の鼻にも優しく心地よいモノが作品内に溢れている。

 そのため、ユルユルした気持ちでリラックスして観ているうちに、あっという間に物語が終わる感覚はある。とはいえ、ずっと心地の良い音楽や映像に触れているだけで、時間を忘れるほどのゆとりは、今の時代にはない。おそらくそれだけなら、退屈し始めて、スマホをイジるなどの「ながら観」が始まるはずだ。

 しかし、『凪のお暇』には恋や仕事、家族など、人間関係をめぐるたくさんの悩みや葛藤、シビアな現実が描かれている。そのバランスは重要で、ずっとゆるい空気だと飽きてしまうし、長く続くストレスにも視聴者は耐えきれない。そうした意味で、本作の「緊張」と「緩和」が交互に繰り返されていくバランスの良さと小気味よいテンポは、放送時間を短く感じさせる大きな理由ではないだろうか。

 その例として、第1話のラストで、「モラハラ元彼」の高橋一生が実は凪を大好きで大好きで仕方ないと号泣するシーンを盛り込んだことが挙げられる。あのシーンがなければ、モラハラの元彼の印象が悪すぎて第1話で脱落した人もいただろう。しかし、ラストシーンにより、緊張しきった視聴者の心は、安心と笑いで一気に弛緩した。そして、続きが気になって仕方ない状態に追いやられたのだ。

■粋なオープニングタイトルとエンディング

 本作が短く感じる理由としてもうひとつ、粋なオープニングタイトルとエンディングを挙げないわけにはいかない。夜10時きっかりに、ど頭から物語が始まり、食い入るように観ていると、不意に現れる『凪のお暇』のタイトル文字にハッとする。

 川沿いの道を走る凪のTシャツの背に、風に揺れる簾に、風鈴の短冊に、扉に、葉っぱに浮かぶ「凪のお暇」のタイトル。毎回趣向を凝らした洒落た演出に見惚れるとともに、「あ、そういえばタイトルまだだった」と気づかされて、時計を見る。すると、そのときすでに開始から10分以上、ときには18分くらい過ぎていた……という事態になる。

 実はこれは「早いっ!」「あっという間!」「こんなにも時間が過ぎていて、ビックリ!」と強く意識させるための仕掛けではないか。さらに、ラストのギリギリまで物語が続いていたかと思うと、凝縮されたクレジットの文字情報が画面を素早く一瞬に流れるエンディングに再び「早いっ!」と驚く。これを毎回繰り返されるうちに「『凪のお暇』の1時間は短すぎる。どうもおかしい」と感じてしまうのだ。もしかして罠ではないかと思うほどに。

 こうして分析してみて改めて感じる『凪のお暇』の“時間泥棒”感。そして残念ながら、次回はもう第9話。つくづく短すぎる……。
(文/田幸和歌子)

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提供元:CONFIDENCE

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