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『おっさんずラブ』が純度の高い恋愛ドラマを貫き通せた奇跡

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第17回 貴島彩理プロデューサー

20代半ばで『おっさんずラブ』の企画を提出したテレビ朝日の貴島彩理プロデューサー (C)ORICON NewS inc.

20代半ばで『おっさんずラブ』の企画を提出したテレビ朝日の貴島彩理プロデューサー (C)ORICON NewS inc.

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 2016年12月末に「年の瀬 変愛ドラマ第3夜」として単発ドラマで放送された『おっさんずラブ』は、視聴者の熱い思いを受け、その後、連続ドラマ、そして映画化へと大きな躍進を遂げた。“視聴率”という指標のみでみれば、苦戦していた作品が、なぜここまで大きな広がりを見せたのだろうか――。単発ドラマからプロデューサーを務めたテレビ朝日の貴島彩理氏に話を聞いた。

■単発ドラマから連ドラへ

 企画の始まりは、テレビ朝日が若手のトライアル枠として設けた「年の瀬 変愛ドラマ」への応募からだった。当時20代半ばだった貴島プロデューサーは『おっさんずラブ』の企画を提出し採用。2016年の年末に放送されたドラマは「面白いものができた」という自負はあったものの、次のステップに進むだけの広がりを見せることは、この時点ではまったく思っていなかったという。

 しかし、放送終了後、テレビ朝日の視聴者センターには「すごく面白かった」「続きが見たい」という声がたくさん届いた。「どのドラマでも視聴者の声は届くものですが、その量と熱量がものすごく高かったんです」と貴島プロデューサーは当時を振り返る。時を同じくしてテレビ朝日では、若手の企画や自由な発想を具現化する土曜ナイトドラマという枠が生まれた。その枠の企画の一つとして「おっさんずラブ」の連続ドラマ化の声が上がったという。

 「単発ドラマが終わったあと、キャストやスタッフと『連続ドラマになったらいいのにね』と夢を語ってはいたのですが、まさか本当にやらせて頂けるとは思っていなかった」と連続ドラマ化には正直驚いたという。そこからは「連続ドラマにするならば、単発の続きを描くべきか、それとも一から話を作った方がいいのか」という問題に頭を悩ませた。「脚本家の徳尾浩司さんと、一緒にドラマを作ってきた三輪祐見子プロデューサー、神馬由季プロデューサー、松野千鶴子プロデューサーと議論を重ねました」。

 出した結論は「1から連続ドラマを作りなおそう」というものだった。「単発ドラマは1時間のパッケージで悔いなく作った物語。これから全7話作るのであれば、世界観ごと一新して、単発では描けなかったキャラクターたちの周囲の人間関係を深く掘り下げ輪を広げていく方が、奥行きが出ると思いました」。

■視聴率だけでは測れない評価の多様性

 ファンの熱い思いを受けてスタートした連続ドラマ。全力で面白いと思うものを作った…と思っていたのに、初回の視聴率は2.9%という数字だった。「深夜の単発と全く同じ数字でのスタートに、正直チーム一同ドン凹みでした」と貴島プロデューサーは苦笑いを浮かべる。「でも今さらブレても仕方がない。周囲の先輩方も『このまま突き進めばいい』と温かく背中を押して頂いたおかげで、まっすぐ進むことができたのだと思います」。

 その後も、劇的な視聴率の上昇はなかったものの、SNSを中心に『おっさんずラブ』の話題は日に日に増していった。ツイッターのトレンドで世界1位になったり、『ザテレビジョン』が独自集計している「視聴熱」でゴールデンタイムのドラマを抑えて1位になったりと、放送が進むにつれて、確実に盛り上がり見せてきた。貴島プロデューサーも「ドラマのセリフの一つひとつに視聴者が反応してくださったり、劇中で使われている衣装が売り切れになっていたり、公表していないはずのロケ場所が特定されていたり……」と作品の広がりは肌で感じていたという。

 一方で「それでも数字(視聴率)が低いという事実は変わらなかったので、打ち上げでも『またいつか同じメンバーで作品がやりたい』とあいさつしながら、そのいつかはこの作品ではなく、ぼんやり遠い未来だと思っていました。まさか映画化させていただけるなんて、本当に実現するとは夢にも思わなかったです」と正直な胸の内を明かしていた。

 しかし“低視聴率”と自覚していた『おっさんずラブ』は東宝とタッグを組み映画化まで駆け上がった。貴島プロデューサーは、一つの要因として“評価基準”の多様性を挙げる。「ツイッターのトレンドや視聴熱、配信数値などの新たな指標が生まれたおかげで、視聴率が芳しくなくても、一概に“失敗”と言われなくなった。世間の風潮変化に押し上げていただいた作品だと思います。その一方で忘れてはいけないのは、視聴率が高い番組はやっぱり面白いという事実。ドラマ作りに正解はないけれど、純粋にどんな作品が人々に楽しんでいただけるのか、評価軸が多いほど作り手の自由度も増えて多様性が広がると思います」。

■『おっさんずラブ』という作品がもたらした奇跡

 “映画化”についても夢物語だと思っていたという貴島プロデューサー。タッグを組むことになったのは日本有数の配給会社・東宝だ。「贅沢すぎてびっくりしました」と目を丸くすると「いまご一緒している東宝宣伝チームは、みんなドラマのファンでいてくださって、我こそはと手を挙げてチームに加わってくださった方々。私以上に作品を愛してくださっているのでは、と思うほど熱い姿勢に心を打たれることも。キャストスタッフ含めて、一番の『おっさんずラブ』ファンがいつも隣で一緒に作品作りをしてくだっている、という感覚は、とても幸せなことだと思います」。

 劇場版では、田中圭吉田鋼太郎林遣都らレギュラー陣に加え、沢村一樹志尊淳など豪華キャストも参戦する。「映画らしくスケールアップしている部分もありますが、根本は変わっていない」と映画へのアプローチ方法を述べた貴島プロデューサー。「単発から深夜の連続ドラマ、そして映画化と進んできましたが、一貫して『おっさんずラブ』は王道恋愛ドラマという意識でやってきました。海外ロケがあっても、爆発があっても、その芯の部分は絶対にブレてはいけないと肝に銘じていました。そして今回は、この映画で物語を完結させようという強い意志があったので、各キャラクターの未来をしっかり描こうと思って臨みました」。

 貴島プロデューサーの話を聞いていると、『おっさんずラブ』には奇跡的な巡り合わせがあったと感じられる。まず若手にチャンスの場が与えられたこと。その結果を“視聴率”という数字だけで評価することなく、ブレずに自分たちが面白いと信じたことを自由にやらせてくれる先輩たちが周囲にいたこと。そしてそのものづくりに、田中や林、吉田という実力派俳優が面白がって、愛を持って携わったこと……。こうした奇跡が重なり、ここまで大きな作品になったのではないだろうか。

 貴島プロデューサーも「座長の田中圭さんが、笑顔溢れる現場を大切にしてくださる方で、現場も家族のように仲が良く、笑いの絶えない毎日でした。そのチームの雰囲気が画面を飛び越えて視聴者にも伝わったのだとしたら嬉しいです」と作品が大きく支持された要因を分析する。続けて「自由にやりたいことに挑むことができたのは、環境のおかげ。温かく見守り続けてくださった周囲の先輩方や、誰よりも真剣に作品作りに向き合い続けてくださったキャストや現場スタッフのおかげで、今この作品は映画という舞台に立たせて頂いたのだと思います。」とキャスト、スタッフへの感謝を述べていた。(取材・文・撮影:磯部正和)

関連写真

  • 20代半ばで『おっさんずラブ』の企画を提出したテレビ朝日の貴島彩理プロデューサー (C)ORICON NewS inc.
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会
  • 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』より場面カット(C)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会

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