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平成のコギャル描いた少女漫画『GALS!』が再注目 作者がみつめた若者の“今”

 間もなく幕を閉じる“平成”という時代に生まれた『コギャル』が主人公の少女漫画『GALS!』が今再び、話題を呼んでいる。1998年から2002年まで漫画雑誌『りぼん』(集英社)で連載され、アニメ化やゲーム化もされたヒット作だ。3月に作者・藤井みほな氏が開始したツイッターの公式アカウントに同作を含む原画の数々をアップしたことで当時の読者から「懐かしい!」との声を集め、ツイッタートレンド入り。あっという間にフォロワー数6万人を突破した。(4月24日現在)。新たな元号・令和が始まろうとしている現在、渋谷の街に通い詰め、女子高校生たちの“今”をいきいきと追い続けていた藤井氏に当時の思い出や平成のコギャル文化を振り返ってもらった。

90年台後半〜00年前半のコギャル描いた少女漫画『GALS!』1巻(C)藤井みほな/集英社

90年台後半〜00年前半のコギャル描いた少女漫画『GALS!』1巻(C)藤井みほな/集英社

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■コギャル蔑視の風潮が生んだ物語「きっとその奥底には、悩みや葛藤や、思春期のもがきがある」

 物語が生まれた経緯について藤井氏はこう語る。「当時の世相は、コギャルといえば援助交際、コギャルの集まる渋谷は犯罪の温床、という印象で、どちらもあまり良いイメージを持たれていませんでした。しかし実際に渋谷で彼女達を観察してみると、実に生き生きとしてパワフルで、世間の評価など一向に気にしていない様子。それが私には非常に魅力的に映りました。

 ド派手なコギャルファッションは、彼女達の自己主張でもあり、社会に対する鎧のようなものかもしれないと感じたとき、きっとその奥底には、悩みや葛藤や、思春期のもがきがあるのだろうと思いました。社会はコギャルを一括りにして軽蔑する風潮でしたが、逆に、コギャルひとりひとりの目を通して社会を描いたら、いろんなドラマが生まれるのではないかと思ったのです」。

 そして生まれた主人公がケンカも強く大胆でおバカながら熱血でお人好しのカリスマギャル・寿蘭(ことぶき・らん)。連載開始時は高校1年生だがほぼリアルタイムで時間軸が進み、最終話では高校を卒業する。代々警察官の一家に生まれ、婦人警官となることを親から期待されているが本人はそんな気は一切なし。ド派手なコギャルファッションに身を包んで、渋谷最強のギャルとして青春を謳歌している。

 第1話から蘭はこう叫ぶ。「フザけんなよ。コギャルがみんなウリやってると思ったら大間違いなんだよ!」――まるで世間のコギャルに対するマイナスイメージに反抗するような印象的なせりふだった。楽しいことがイチバンだけど、好きでもない人に身体を売ったりはしない。迷っている人は放っておけないし時に寄り添い、時に本気で叱る。蘭の言動にはいつもコギャルとして生きるポリシーがあって「蘭のようなかっちょいい女の子になりたい!」と読者の心をつかんだ。

 「蘭のような、自己肯定だけでできているようなキャラクターは、私の十八番なので(笑)、わりとすんなりと誕生しました。自信満々で、『今』を楽しく生きることに全エネルギーを注ぐ蘭は、世間に指をさされても全く気にしないコギャルに感銘を受けた時のイメージをそのまま反映させました」と藤井氏。

 「蘭は、言葉遣いが悪く、地べたに座り、行儀も悪く、勉強もしないという、極端なコギャルのステレオタイプなのですが、それよりも、コギャルであることに自信をもち、それを貫き通し、友達を大切にするというコギャルのポジティブさの方を前面に押し出しました。そこに、代々警察官という正義漢の要素をプラスして、ここぞという時に頼りになる、ヒーローみたいな女の子にしました」。

 そしてそんな彼女といつも行動をともにするのが親友である、親の育児放棄のもと育った元不良少女の美由、反対にいつも親に期待され、それに反しまいと優等生として生きてきた綾というタイプの違った女の子。この2人も当時の女の子たちを映し出したキャラクターだという。

 「美由は、もともとは渋谷のチーマー上がりという設定で、怒りや心の傷を社会にぶつけることで自分の正当性を試すようなキャラクターでした。これは、デフォルメしてはいますが、大人達に傷つけられて苦しむ子供達の代表としてのキャラクターです。物語中、彼女は何度も傷つくのですが、友達や彼氏に頼ることで、少しずつ本来の自分を生きられるようになり、心の傷を克服していきます。

綾は、誰かに評価されたり、目に見える形で自分の価値を計れないと自己肯定できないキャラクターです。常に何かの評価に怯え、意志がフラフラしてしまいます。彼女は、大人達の価値基準の枠にはめられて苦しむ子供達の象徴のようなキャラクターにしました。自分の意志の弱さに苦しみながらも、それに向き合って強くなっていきます。

 3人とも、若者の『今』を切り取るような形で生まれたキャラクターで、彼女達が成長していくのを、読者がそれぞれのキャラクターに共感や思い入れを持ちながら一緒に成長していく感じが、とても心強かったですね」。

 渋谷という実在の街を舞台にした作品の中のパワフルで魅力的な架空の女の子たち。だけどそれはきっと渋谷のどこかにいたかもしれない、普通の女の子たちを投影させた姿なのだ。

■リストカット、いじめ…若者の痛みを描き反響 女子高生の内面は「今も昔も同じ」

 『学校へ行こう!』や『めちゃめちゃイケてるッ!』など当時流行っていたバラエティー番組のパロディーの数々も取り入れられたこの作品は、全体的には賑やかでハイテンションなコメディの形をとりながらも、時には援助交際や体罰、いじめ、リストカットなどシリアスな問題も数多く盛り込まれていた。

「反響が大きかったものは、蘭が学校の教師を殴り倒す回ですね。生徒を力でコントロールして虐める教師と蘭が渡り合うのですが、問題教師に説教して殴り倒すというのが、ちょっとしたセンセーションだったようです。賛否はもちろんありましたが、理不尽な大人の支配に屈しない蘭に『よくやった!』と共感する声が多かったですね。また、虐められた女の子がナイフを振りまわす回や、親の虐待でリストカットをする女の子の回も、反響が大きかったです。読者の皆さんは、何かしらの部分で、自分の経験と重ね合わせて共感していたのではないでしょうか。

 若者の痛みを描く上で、どちらか一方に感情移入しすぎないよう、話を作る段階で非常に気をつけました。感情移入しすぎると、誰かの肩を持ってしまったり、社会への批判になってしまったり、描いているうちに辛くなってしまって、若者の『今』のドラマを描くという当初の主旨と違ってきてしまいますから。感情は、作画の時に爆発させるようにしていましたね」。

 その事象に対する批判ではなく、それに直面した若者のヒリヒリとした痛みそのものが成長期の少女たちに深く刺さったのではないか。平成ど真ん中の若者と、令和を迎える今の若者、藤井氏から見てどんな変化を感じるのだろうか。

 「現代は、徐々に『多様性』が認められる時代になってきて、校則や、いわゆる『常識』という枠組みからの自由度は増してきたように感じます。当時からの大きな変化は、SNSの普及で、情報収集やコミュニケーションの手段が格段に広がったことでしょう。『GALS!』の時代の連絡手段はPHSでしたから(笑)。

 だからと言って、現代の女子高生たちの内面が様変わりしたかというとそんなことはなく、恋や友人関係や親や進路などに悩むのは、今も昔も同じです。女子高生を取り巻くあやうさも、たいして変わっていない印象です。現在の、いわゆる“JKビジネス”から援助交際へ発展する様子も、当時からあった光景です。大人が『女子高生』という付加価値を利用して食い物にする構図は変わっていませんね」。

■「『109』に行けば、コギャルの流行の全てがわかった」1話完結に込めたこだわり

 そして、劇中に登場するコギャルファッションの数々も人気を集めたもうひとつの理由だろう。なかでも特に懐かしいと感じているというのがハイビスカス柄や厚底サンダルなどのド派手なファッションで「コギャルのパワーや楽観主義をそのまま表現させたよう」だったという。

 ただ流行り廃りの激しいファッションを月刊誌である『りぼん』の作品では原稿に反映させるにも一苦労。「景色や流行のファッションはどんどん変わるので、連載を1話完結方式にするのが必須でした。月またぎのお話にしてしまうと、1ヶ月後にはもう流行が変わって、古くなってしまうのです。そのため、展開はスピーディーかつ1話ずつまとめる、という方式をとりました。

 ファッションチェックは、サボっているとあっという間に流行に置いていかれるので、『109』に通いつめました。地下から8階までくまなく取材するのですが、ぼさっとした格好でメモを取っていると明らかに怪しいので、『109』のギャル服に身を包み、ギャルになりきって調査しました(笑)。『109』に行けば、コギャルの流行の全てがわかりましたね」。

 そんな渋谷のトレードマークだったSHIBUYA109のロゴも変更。これまでのものが撤去されるなど変化の時を迎えている。「渋谷の街は、平成後半でだいぶ様変わりしたので、過去の原画を見ると、「昔の渋谷」という感じがしてしまいますね(笑)。ハチポリ(渋谷の駅前交番)とハチ公は当時と変わらず存在しているので、渋谷に行くたびに懐かしくなります」。

 私服はもちろん、男子校のスクールバックを持つ文化や腰巻きしたカーディガン、シルバーアクセ、ぬいぐるみやストラップがジャラジャラとついたPHSなど登場人物たちの制服の着こなしも最先端のものが描かれており「近年、『GALS!』のコスプレで、ルーズソックス・ストラップ文化を復活させてくれている女子達がいるので、SNSで見つけては胸をときめかせています(笑)」と喜ぶ。そんな藤井氏は現在、文京区の弥生美術館で開催されている展覧会『ニッポン制服百年史』(〜6月30日まで)に『GALS!』の原画で参加中だ。

 「制服が誕生してちょうど100年になる今年、制服の歴史を実物とともに振り返ることのできる展示は貴重で、実際とても興味深い内容です。制服が年代ごとに陳列される中、コギャルの制服コーデはやはり独特で目立ちます。

 制服の着こなしや、ソックスの長さは、常に女子高生の関心ごとですが、コギャル時代のミニスカート・ルーズソックス・カーディガンの合わせ方は、制服であると同時に、「コギャルファッション」の感覚なのかもしれません。そんなコギャル時代の制服を含め、時代とともに移り変わる制服の概念や流行をつぶさに知ることができる展示ですので、ぜひ多くの方に足を運んでいただきたいです!」とみどころを語る。

 ルーズソックスや渋谷の街に憧れた当時の読者は今や20代後半から30代となり、仕事や結婚、子育てなど新たな“クロスロード”に立っている。

 「当時、『蘭のように、強くておしゃれなギャルになる!!』と宣言してくれていた小学生の読者の皆さんも現在は大人になり、結婚して子供がいる方も大勢いらっしゃいます。彼女たちは、令和の時代を生きる子供達や、若い世代を育てる大人側になるわけですよね。新しい時代でも、子供の頃に決意したギャルの魂を忘れず、おしゃれを楽しみ、今を存分に生きて、子供達の可能性や自由な感性を励まし導けるような、素敵な大人になっていただきたいです!」。

コギャル文化が終わっても、時代が変わっても、いくつになっても、「今」を楽しもうという圧倒的なパワーを与えてくれる作品は世代を越えて愛されていく。

関連写真

  • 90年台後半〜00年前半のコギャル描いた少女漫画『GALS!』1巻(C)藤井みほな/集英社
  • 90年台後半〜00年前半のコギャル描いた少女漫画『GALS!』1巻より本編カット(C)藤井みほな/集英社
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