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Mr.Children、ついに“USB”アルバム発売 ベテランバンドが示した「新しい伝え方」

 Mr.Childrenの約2年ぶりの全国ツアー『Mr.Children TOUR 2015 REFLECTION』が6月4日のさいたまスーパーアリーナをもって幕を閉じた。アルバム発売前に全国ツアーを行い、最終日にアルバムを発売するという試みは、彼らだけでなく音楽業界にとっても大きなトライアルだったと言えるだろう。5月28日の横浜アリーナ公演では、アンコールを含めた全22曲のうち、13曲が新作『REFLECTION』の収録曲となった。もちろん、そういう趣旨のツアーをアリーナクラスの会場で実現できるのがミスチルの凄さなのだが、それ以上に“ここで新しいMr.Childrenを見せるんだ”と言わんばかりの姿勢が強く印象に残った。

『Mr.Children TOUR 2015 REFLECTION』横浜アリーナ公演の様子(写真/石渡憲一)

『Mr.Children TOUR 2015 REFLECTION』横浜アリーナ公演の様子(写真/石渡憲一)

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■発売前のアルバムの収録曲を披露…前代未聞のツアー

 ライブは『REFLECTION』の収録曲「fantasy」からスタートした。生身の音が剥き出しになったバンドサウンド、“何気ない日常のなかにもファンタジーは存在する”というテーマが伝わる歌が響き、早くも大きな感動が生まれる。さらに桜井和寿(Vo&Gt)の鋭いギターフレーズを中心にした「ロックンロールは生きている」、ムードメイカーの鈴木英哉(Dr)の「イエーイ! 横浜、元気か!?」というシャウトとともに披露された「旅人」、サポートメンバーのSunnyのピアノと桜井のボーカルから始まる「fanfare」へと続く。共通しているのは、“ここから新しいスタートを切るんだ”というムードであり、それはそのまま今回のツアーのコンセプトにもつながっていたと思う。

 「レコーディングを2年間くらい、ずっとやっててね。曲ができるたびに“早く聴いてほしい”と思って、やっとこの日が来たよ!」と嬉しそうに話す桜井。「新しいアルバムの曲をお届けしたいと思ってます。聴いたことのないメロディもあるし、“歌詞、何て言ってるかわかんない”ということもあるかもしれない。“つまんない〜”ってならないように万全の準備をしてきました。ときには聴覚を、ときには視覚を、ときには嗅覚を研ぎ澄ませて、僕らのオッサンくささではなくて、人間くささを感じてもらえたらと思っています」というMCのあとは4曲続けて『REFLECTION』の楽曲が演奏された。

 穏やかな旋律を持つミディアムチューン「Melody」、「ずっと何かと戦ってきた人、そして、いまも戦い続けてる人にこの歌を贈ります」という桜井のコメントも印象的だったロックナンバー「FIGHT CLUB」、オルタナカントリー的な要素を反映させた「斜陽」、フォーキーな手触りの「I Can Make It」。それぞれにテイストは異なるが、アンサンブルの中心になっているのはメンバー4人の生々しいバンドサウンドだ。2年以上のアルバム制作のなかで彼らは、自らの音とまっすぐに向き合い、新たなミスチル・サウンドを掴み取ったのかもしれない。

■ミスチル・ナンバーが持つ普遍的なパワー

 ライブ中盤では、「友達や彼氏に連れられ、たまたまこのライブに来たあなたも“あ、これは知ってるよ”という曲をお届けしたいと思います」(桜井)という言葉とともに、アリーナの真ん中に設置されたサブステージに移動し、アコースティックスタイルでヒットチューンを披露。まずは2000年のヒットシングル「口笛」。「アコースティックバージョンと1番をお客さんが歌うというバージョン、2パターン用意してます。イントロが始まって“私たちが歌いたい、俺らが歌いたい”と思った方は手を挙げてください。半数を超えたら、みなさんが歌うということで」と呼びかけたが、曲がスタートすると同時にほとんどのオーディエンスが手を挙げ、すぐに大合唱が生まれる。

 続いては2008年発売のシングル「HANABI」。直前に桜井が「ペットショップの人に“水は常に酸素を取り込んで動かしていかないと、死んでしまう”という話を聞いたことがあります。人の心もいつも動かしていないと生き生きしていられないと思い、この曲が出来ました」というエピソードを話し、イントロが響いた瞬間に「おぉ〜!」「これか!」という声が上がる。サビの<もう一回 もう一回>はもちろん、観客全員が人差し指を掲げて合唱。それはまさに、ミスチル・ナンバーの普遍的なパワーを示すシーンだった。

■既存の形式にとらわれない新たなスタイルを提案

 そして後半は再び『REFLECTION』のナンバーが表現される。楽曲の世界観とリンクした映像ともに披露された「蜘蛛の糸」から、「聴こえてますか、横浜。これが僕らの、新しい足音」(桜井)という言葉に導かれたシングル「足音〜Be Strong」、ダイナミックなスケールを備えた「幻聴」まで7曲を続けて演奏。アルバム『REFLECTION』の世界をいち早くライブで体感してほしい。そんなメンバーの願いが強く伝わってきた。

 アンコールではファンへの感謝の気持ちを込めた「Everything(It’s you)」(1997年のシングル)、イントロが始まった瞬間に大きな歓声が上がった「エソラ」、カラフルなポップチューン「Marshmallow days」で華やかなエンターテインメント空間を演出。そして最後は「未完」。エッジ―でエモーショナルなサウンドと“常識という壁を越え、自由に進んでいこう”というメッセージが融合したこの曲はまちがいなく、アルバム『REFLECTION』を象徴するナンバーのひとつだ。

 アルバム『REFLECTION』は全23曲収録の{naked}、厳選された14曲を収めた{Drip}の2形態。発売前に大規模なツアーで新曲をたっぷり披露したことを含め、そこにはメンバーの“既存のリリース形態、プロモーション、ツアーの形式に縛られず、いまの時代に合ったスタイルを提案したい”という意思が反映されているのだろう。彼らは今回の作品で、今の音楽業界の現状に一石を投じることができるか? モチベーションの高さ、デビューから20数年が経ち、誰もが認めるスーパーバンドになった現在も、常に向上心を持ち続ける。その真摯なスタンスこそが、いまのミスチルのパワーなのだと思う。

(文/森朋之)

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