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海外展開を後押し 国立最後の音楽イベント「JAPAN NIGHT」プロジェクト

 5月28、29日に開催される現国立競技場のファイナルイベント『SAYONARA 国立競技場 FINAL WEEK JAPAN NIGHT』は、近年、活発になっている音楽アーティストの海外での活動を後押しするプロジェクト「JAPAN NIGHT」のキックオフイベントでもある。実行委員会メンバーの日本音楽制作者連盟の大石征裕氏に、プロジェクトのビジョンを聞いた。

「JAPAN NIGHT」プロジェクト実施プロセス

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■アーティストの海外ライブは増加傾向

 ここ数年、海外でライブが行われる事例が増加してきた。過去3年で見ると、2011年に海外でライブを行ったアーティスト数は88組であったが、13年では217組と約2.5倍になっており、そのうちワールドツアーを開催したアーティスト数は23組に上っている(「Sync Music Japanレポート」より)。今年に入って、すでに多くのアーティストが海外公演を実施もしくは発表しており、昨年の実績を超えることは容易に想像できる。

 80年代、日本のテレビドラマが台湾、香港、シンガポール等で若年層の間でブームを起こし、それがフックとなって日本の音楽も人気を集めていた時期があった。しかし、それに取って代わる形で00年代に入ってからは、韓流ブームがアジア諸国を席巻した。そのパワーは今も健在である。

 しかし、日本コンテンツも、新たにアニメやゲーム、ファッション等が呼び水となって、海外市場において再び関心を集めている。その追い風にのって、音楽アーティストも海外での活動に積極的に取り組み始めている。それが前出の数字となって表れている。

 この状況を受けて、このほど日本音楽制作者連盟は関連業界・省庁等とともに、継続して国内外での音楽ライブと日本ブランドを融合させたイベントを実施する総合プロジェクト「JAPAN NIGHT」構想を打ち立て、そのキックオフイベントが、5月28日、29日に開催されることになった。現国立競技場のファイナルイベントとな『SAYONARA 国立競技場FINAL WEEK JAPAN NIGHT』がそれにあたる。

 28日は“Yell for Japan”をコンセプトとして、これまで様々な形で日本にエールを送ってきたアーティストが登場する。翌29日は“Japanto the World”をコンセプトに、近年海外での活動に意欲的に取り組むアーティストが参加する。

 音制連では2年前より「JAPAN NIGHT」構想についての話し合いが行われていた、理事長の大石征裕氏は語る。

 「海外で日本の音楽のEXPOみたいものを、小規模でもいいから継続して行いたいという話は以前から持ち上がっていました。今回、偶然にも国立競技場でそのキックオフイベントが開催できることになり、このプロジェクトを推進するうえで非常にラッキーなことだと思っています。なぜなら、建て替えられた新国立競技場のオープニングを飾れるような、全世界で認知されたアーティストを育成していくのが、本プロジェクトの目的のひとつにあるからです」

■日本音楽のムーブメント作りに必要な「拠点」

 海外とくにアジア市場では、欧米や韓国アーティストと比べて、日本アーティストや楽曲の知名度は相対的に低い。近年、海外コンサートやプロモーションイベントの回数自体は増えてはいるものの、いずれも単発に終わっているため、日本音楽のムーブメント形成にはつながっていないのが実情だ。認知やファン層の拡大には、何よりも継続的な働きかけが必要となる。そのためには、コンスタントに情報発信を行う拠点を作ること。そして、アーティストが安心して海外での活動を行えるための環境作りも、次のステップに進むため欠かせない要素である。
「JAPANNIGHT」プロジェクトは、単にイベントを実施するだけではなく、継続させるためのシステム構築も行い、今の個々の動きを線、そして面に広げる役割を担っていく。

 「ここへきてようやく海外展開を行うプロダクションが増えたため、関係者の経験やノウハウが共有される状況になりつつあります。課題は共通していて、とくに海外プロモーターとの契約慣行の違いなどで苦労しています。また、ファンの動員数やグッズ販売の予測など、個々の取り組みには限界があります。そこで、互いのノウハウや経験を共有し、プロモーターやメディアとの信頼関係を構築していき、プロモーションのフォーマットを作っていく。それによりビジネスリスクは軽減できます。それがひいては継続的な海外展開につながります。国立競技場でのイベントを第1フェーズとするならば、海外主要都市の拠点作りは第2フェーズとなります」(大石氏)

 その構想の概念図が、「「JAPAN NIGHT」プロジェクトの概念図」である。現地の有力パブリシストと業務委託して、各地の放送局をはじめとするメディアに直接働きかけていく。「言わば、各国に日本アーティストのプロモーターを置くイメージ」なのだという。そうやって、ライブやその他の日本コンテンツ・文化紹介のイベントを開催するほか、海外の放送局と共同で音楽番組の制作・放送等も行っていく。いずれは、音楽だけでなく、ファッションや食の発信とも連携した「立体的な」取り組みに
発展させたい考えだ。

 また、海外展開において、ファン層獲得の効果を最大限に得るためには、テレビ放送に加え、SNSを活用したプロモーションは欠かせない。国ごとに効果的な手法を探るための現地の動向調査も併せて行い、その情報も共有化していく。

 「アーティストの認知を高めるためには、海外の様々な放送枠やIP網で音楽利用が促進されるよう、音源の権利処理の円滑化を図ることが不可欠です。一方で、日本は世界に類を見ない、音楽産業が成立している国ですから、国内マーケットを壊さないように、WIN-WINの関係も模索しなければなりません。難しい課題ではありますが、成功事例を積み重ねていくことで道は拓けてくると思っています」(大石氏)

■海外での活動を目指す人が集うオープンな場に

 「JAPAN NIGHT」プロジェクトでは、海外での取り組みの強化期間(第2フェーズ)を3年、そして、4年目以降はインバウンド、つまり国内に日本コンテンツのファンを呼び込む期間とする計画を立てている。時間はあまり残されていない、と大石氏は言葉を強める。

 「コンテンツ自体の収益のみが目的ではありません。日本の音楽を媒介にして、日本国、日本製品のプレゼンスを上げる役割を担えればと思っています。10年後の目標は、日本のアーティストがアリーナクラスでワールドツアーを組めて、かつ収益性が高まっていること。そして、直近は日本の音楽産業のグローバル化です。今は音制連に所属するプロダクションを中心としたプロジェクトですが、我々はクローズドにする気は全くありません。海外を目指す人が集うオープンな場となり、もっと海外に興味を持つきっかけになれればと思っています」

 日本のコンテンツが海外展開を行ううえで、今が最大のチャンスであることは疑う余地はない。点から線、そして面へと広げていくためにも、今はノウハウを持ち寄り、一致団結する時期にきている。「JAPAN NIGHT」プロジェクトは、日本の音楽の行く末を占う上での試金石なのである。
(ORIGINAL CONFIDENCE 14年5月19日号掲載)

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  • 「JAPAN NIGHT」プロジェクト実施プロセス
  • 「JAPAN NIGHT」プロジェクトの概念となるイメージ図。プロモーターやメディアとの信頼関係を構築し、ノウハウや経験を共有しながら海外市場におけるプロモーションのフォーマットを作っていく

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