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音楽プロモーション・メディアとしてのイベントスペース

 “モノ”から“コト”、そして売上へつなげるフリースペースイベント ショッピングセンター( 以下、SC)などでのイベントと言えば、以前から季節ごとの催事やキャラクターショーなどが定番だ。今はそのもうひとつの柱として、無料の音楽イベントが増加している。そしてそれは、集客のためにスペースを提供するSCなどの会場運営側だけではなく、出演するアーティスト側にとっても、見逃すことのできない、重要なイベントとして位置づけられはじめている。

 このような現状が生まれた理由として、まず会場側の状況を考えてみよう。近年、全国的に大型SC が増え、そこで行われる日替わりイベントは、集客に大きな影響を与えている。そのため、新規SC建設時に、イベント開催を前提としたスペースの確保や、PA機器の設置があらかじめ検討されており、音楽イベントが開催しやすくなっている。その裏側を覗くと、現在モノが飽和する時代に突入し、さらにネット通販が拡大する中での、小売店舗の意識の変化が見え隠れする。

 店舗の生き残りをかけ、他店との差別化を図る際に、品揃えや接客といった根本的な要素に加え、「そこに行けば楽しいことがある」という、リアルな体験による付加価値が重視されている。つまり、今のSCイベントは単に集客数の増加だけが目的なのではなく、所有欲を満たす“モノ消費”から体験型の“コト消費”へとシフトし、さらにそれを売上につなげていこうという、新しい方針に基づいて企画されているのだ。

 その中で、音楽イベントに関しては、来場者がCDを購入し、それを聴くことで、イベントを追体験できるという特長がある。「見て楽しかった」で終わってしまうキャラクターショーと違い、物(CD)が売れ、記憶に残り、アーティストの人気が上がるという相乗効果が、結果として、顧客のSCに対する親密性/信頼性を生み出していく。この継続性を持つメリットとして、音楽イベントの需要は高まってきている。

■SC音楽イベントならではの接客業視点によるホスピタリティ性

 一方、アーティスト側がフリーイベントを重視するポイントは、何と言っても観客との距離感。身近にアーティストと触れ合うことで、曲のよさや実力だけでなく、キャラクターを観客に伝えることができる。実際に、ナオト・インティライミは、全国モール・ツアーで支持を集め、デビュー8ヶ月にして日本武道館公演を成功させた。また、クリス・ハートに関しても、“アメリカ人が日本の心を歌う”という人物像抜きに、彼の人気は語れない。それは楽曲(CD)だけで伝えることは不可能であり、フリーイベントが果たした役割の大きさは容易に想像できる。

 また、フリーイベントは、新規ファンの獲得にも有効だ。フリーイベントには、イベント目当てのコアなファンだけでなく、一般の買い物客も多数訪れる。そのような場所で来店者の足を止めさせるために、アーティストの力量が問われるというシビアさもあるが、知名度を広げるには絶好のシチュエーションだ。しかも、日頃はライブに行きたくても行けない小中学生、そして子育て世代など、新規ファンとなり得る層へアピールすることで、現場でのセールスはもちろん、その後の人気に大きな影響を与える。つまり、従来のPR 目的のイベントから、積極的にセールス/観客動員に結び付けるための戦略的プロモーションとして、フリーイベントは、新しい段階に突入しているのだ。

 ただし、フリーイベントが、すべてのアーティストに対して有効かと言えば、必ずしもそうではない。音響面、キャパシティ、照明等の演出などに制約がある状況でのパフォーマンスが、アーティストにプラスに働くのか、マイナスに作用してしまうのかは、事前に十分な見極めが必要だ。しかし、考え方を換えれば、制約がある中、自分たちのファン以外の一般客を前にパフォーマンスすることで、アーティストにはとても良い経験の場となるだろう。

 また、ファンのみが集まる有料ライブと、フリーイベントでは、運営上のノウハウにも根本的な違いが生まれてくる。最大の注意点は、イベントに対するクレームがアーティスト側/SC等の会場側の双方にとって、大きなダメージとなること。そのため会場側は、顧客対応に細心の注意を払っている。それにより観客に気持ちのよい満足感を与え、結果としてアーティスト、そしてSC等の好感度アップにつなげているのだ。

 イベントの時間帯だけでなく、「来店時から、店舗を出る時までがイベントだ」というSCの考え方は、接客業ならではの精神性であり、音楽業界がライブ・エンタテインメントを重視する現在、このようなホスピタリティ性は、大いに参考になるのではないだろうか。そういう視点から言っても、SC等でのフリーイベントは、展開の仕方ひとつで、新たなファン層獲得の起爆剤と成りえる可能性を秘めている。
(ORIGINAL CONFIDENCE 14年4月14日号掲載)



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