![]() シングルやライブDVDリリースなどの音楽活動のほか、テレビCMへの出演等々、2010年度も精力的な動きをみせている福山雅治。しかし、2010年の彼の活動の最大のトピックといえば、やはりNHK大河ドラマ『龍馬伝』での主演につきる。NHKドラマへの初出演にして主役という大抜擢もさることながら、幕末の志士として、その無頼性や大望、将来への先見を含め、普遍的ヒーロー像として憧れる者も多いこの龍馬役は、福山自身の来し方や姿勢、佇まいや、多くの者からの慕われも含め、幾面でオーバーラップする。 そんな彼がリリースした、26枚目のシングル「蛍/少年」。夏の風物詩のひとつ、蛍。その放つ光は淡く、ほのかが故に、出会ったときの喜びや感動、愛しさはひとしおで、幸せや見たことのない素晴らしい景色への暗夜の灯を感じさせる。蛍を育むのはとても難しい。澄んだ空気、きれいな水辺と豊かな緑、それらデリケートな環境要素が揃わないとけっして繁殖することはない。そんななかでのみ生息できる希少性と、その発光する淡い光、夏の特定の時期のみに出会えることからも、蛍は時おり“尊さ”の代名詞としても用いられる。 そんな蛍に出会えた瞬間のような奇跡や感謝、喜びや愛しさ、そして、この先どうそれを育むかを、愛しい人になずらえ、歌った「蛍」。全編に渡り、つま弾かれるアコースティック・ギターのアンサンブルを中心としたサウンドから、いいようのない愛しさが聴き手の心のなかに広がっていく。この曲は、不治の病を抱える主人公・美丘と、その彼女を愛する青年との激しくも切ないラブストーリーを描いた、石田衣良の小説を原作としたテレビドラマ『美丘−君がいた日々−』の主題歌としても起用されている。 命の尊さや儚さ、それらを踏まえての謳歌や刹那、それが上述の蛍の生態や終生とリンクする同曲は、その必要最小限な伝達スタイルでの“傍らで歌われている感”も含め、より発見感や出会えた感、そして、包み込むような愛しさを聴く者に込み上げさせる。古い教会、坂道の通学路など、福山の故郷・長崎の光景も交えたリアリティと、後半に向かうに連れ、とてつもなく広がっていく生命讃歌。そして、その後に待つ安堵は、儚く、おぼろげながらも、温かさや優しさ、柔らかさも交え、何もかもを包み込む、まるで蛍の光のような不思議な包容力を擁している。 ![]() 打って変わり、数多くの楽器によるサウンド演出が施されているのがM-2の「少年」だ。今春より東芝液晶テレビ『REGZA』のCMソングとして起用されていたので、すでに耳なじみの方も多いのではないだろうか。躍動感たっぷりに展開される、歌内容とそのサウンドアレンジは、次へと力強く踏み出される一歩のように、聴く者に活力とバイタリティを与えてくれる。ラストはエターナルささえ感じるほどのゴスペル的エナジーと生命力に包まれ、いやがおうにも生への謳歌を感じさせる。『REGZA』のCMが、実は「蛍」がモチーフになっていたのも、今となってはこの2曲を結びつけていたようでおもしろい。 そして、夏のスプラッシュ的なロックナンバー「Revolution//Evolution」も、現在福山出演の『アサヒスーパードライ』のCMソングとして大量オンエア中だ。ウチコミと生とを上手く融合させ、スカもロックもビッグビートもブラスサウンドも取り込んだ躍動感たっぷりのサウンドは、ライブでの福山の“熱さ”を的確に伝える。彼のライブが待てないという方は、今春発売されたライブDVDとこの曲で、熱いステージを思い返して欲しい。 曲内容やサウンドのタイプは異なるけれど、どれもそこはかとない生命力や謳歌感、愛しさに満ちている、今回の福山のシングル。太く、短く、まばゆく、逞しく、幕末を生命力とバイタリティたっぷりに生き抜いた龍馬の生き方が、ここでもオーバーラップするのは、きっと私だけではないだろう。 (文: 池田スカオ和宏)
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1969年2月6日、長崎県に生まれる。 ![]()
■シングル「はつ恋」特集 |