2013年 年間本ランキング発表!ドラマ&アニメの大ヒットからつながるムーブメント 生み出された爆発的なニーズ

BOOK:圧倒的な存在感の村上春樹、“旬”な百田尚樹と池井戸潤

 発表する作品がことごとくムーブメントを巻き起こす世界的な作家、村上春樹の3年ぶりの新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が2位に14万部近くの差をつけて1位を獲得した2013年の年間 BOOKランキング。発売日の午前0時とともに販売が開始され、それを目当てに書店に大勢の客が繰り出す様は、どこか人気ゲームソフトやiPhoneなどの発売とも重なって見えるが、書籍においてそれほどまでの動員力を生み出せるのは間違いなく稀有な存在であり、村上春樹が日本の文学界をリードする人物であることは疑いようのない事実といえる。

 そして、今回はそこに“謎解き”の要素までが新たに加わった。発売まで作品の内容が一切伏せられていたため、ファンやメディアのあいだでは『色彩を持たない〜』というタイトルからストーリーの推理合戦が展開された。ここからも、「こんなストーリーなら読んでみたい」ではなく「村上作品だから読んでみたい」という強固なまでのブランディングの確立が認められる。新作の発売を“お祭り”にまで高められる村上春樹のパワーをまざまざと見せつけられた1年となった。

 ムーブメントといえば外せないのが、『海賊とよばれた男』で「本屋大賞」を受賞した百田尚樹と、爆発的な人気を集めたドラマ『半沢直樹』で脚光を浴びた池井戸潤の作品群だろう。『海賊と〜』が上巻4位、下巻8位といずれも上半期ランキングからジャンプアップ。池井戸の『ロスジェネの逆襲』に至っては2012年6月発売でありながら、ここまでの半期・年間ランキングともにTOP10にランクインしていなかったものが、一気に7位へと飛び込んできた。いずれも日本人のアンテナが鋭く反応した“旬”な存在といえそうだ。

 上半期ランキングでも触れたように、2013年の特筆すべき傾向のひとつが、2012年までの「ダイエット」本と入れ替わるように並んだ、言葉・文字に関する「コミュニケーション」関連の実用書の台頭だ。2012年の年間2位だった阿川佐和子『聞く力 心をひらく35のヒント』は、3位と1ランク下がったものの売上部数は前年を上回った。深夜のバラエティ番組で注目を集めた書家・中塚翠涛が監修した『30日できれいな字が書ける ペン字練習帳』が上半期から7ランクアップ。『できる大人のモノの言い方大全』が上半期に引き続きTOP10をキープ。CMなどのクリエイター・佐々木圭一の『伝え方が9割』が17位にランクイン。齋藤孝の『雑談力が上がる話し方 30秒でうちとける会話のルール』が20位へ躍進と高い数値を残した。メールやSNSだけでは学ぶことのできない“生”のコミュニケーションを人々は欲しているのかもしれない。

コミック:『進撃の巨人』が大ブレイク!『ONE PIECE』に迫る!?

 ランクインした各作品に触れる前に、それぞれの売上部数の数値に着目してみたい。そこには7桁の数字がずらりと並んでいる。すなわち、TOP20がいずれもミリオンセラーということだ。これは過去に例を見ないハイレベルな上位争いだったことを示している(2009年は12位まで、2010年は17位まで、2011年は15位まで、そして2012年は12位までが100万部以上を記録した)。

 そんなビッグセールスに賑わった2013年のコミックランキングだが、トップはやはり『ONE PIECE』だった。69巻が315万部、70巻が304万部、71巻が289万部、72巻が235万部(いずれも千部以下の数値を四捨五入)とケタ違いの破壊力で、ミリオンセラー群のなかでも頭ひとつリードする人気を博した。

 しかし、2013年最大のエポックは『進撃の巨人』の大ブレイクに尽きるのではないだろうか。2009年9月に創刊された『別冊少年マガジン』で連載がスタートしたこの作品は、早くからコアファンを獲得。漫画賞を受賞するなど高い評価を得ていたが、大きなターニングポイントとなったのが2013年4月にスタートしたテレビアニメだ(放送は終了)。その斬新な世界観とダークファンタジー的なストーリーが放映を重ねるとともに浸透し、一気にファン層を拡大させた。

 その結果が、既刊11巻すべてが年間ランキングTOP20にランクインするという快挙へと結びついた。それも、怪物『ONE PIECE』に続く2番手として、それ以外の作品を一切挟むことなく11巻が並ぶという壮観なランキングを見せつけてくれた。今回の年間ランキングに直接影響する2012年12月以降に発刊された9〜11巻までが5〜7位を形成したのは当然ながら、すでに2011年の年間(1巻が27位、2巻が31位、3巻が17位、4巻が24位、5巻が30位)、2012年の年間(6巻が15位、7巻が20位、8巻が25位)にランクインしていた2012年までの既刊巻が、新たに2013年の年間にも顔を出したことが裾野の広がりを強く感じさせる。

 上記のアニメをパッケージ化したDVD、ブルーレイが高セールスを残し、オープニングテーマを担当したLinked Horizonが『NHK紅白歌合戦』への出場を決めるというトピックもあった。すでに実写映画化も発表されており、その“進撃”に陰りは認められない。今回のランキング結果によってますます注目度は上がると思われるし、上記のリンホラの紅白でのパフォーマンスがプラスに働く公算は大きい。2014年に『進撃の巨人』が『ONE PIECE』へどこまで迫っていくのか、大きな楽しみが生まれたランキングとなった。

文庫:やはり映像化作品が席巻!2013年刊では東野圭吾が健闘

 2010年7位、2011年22位、2012年50位。百田尚樹の『永遠の0』がここまでに辿ってきた年間ランキングの推移である。ある意味順当というか、むしろ2009年に文庫化された作品(単行本は2006年に刊行)が、3年後の年間ランキングTOP50にランクインという息の長さのほうに驚かされたほどだ。そんな動きを見せてきた作品が2013年、いきなり跳ねた。188万部という、近年の文庫のなかでも突出した売上を叩き出し、さらには湊かなえの『告白』を抜いて歴代の文庫ランキングNo.1セールス記録をも塗り替えるなど、まさしく2013年の文庫シーンを席巻する1作となったのである。

 その背景にあるのはもちろん作者・百田尚樹の「本屋大賞」受賞。受賞作『海賊とよばれた男』がBOOKランキングで上下巻そろってTOP10入りしたことは触れたが、こちらはそのTOP10入りした上下巻の合計売上数を上回る数字を記録している。文庫本という求めやすさ、上下巻に分かれた『海賊と〜』と比べると全1巻というボリュームの軽さ(それでも590ページあるが)、2010〜2012年にかけての漫画化、2013年年末の映画化など、さまざまな要素が人々を“まず”『海賊と〜』ではなく、『永遠の0』に向かわせたのだろう。これによって百田作品のおもしろさに心を動かされた人が『海賊と〜』や、同じく文庫ランキングTOP10入りを果たした『モンスター』、さらには次回作へと流れていく可能性は極めて高い。

 また、テレビドラマというファクターを通してその作家の存在に気づき、人々が一気に作品へと群がった例が、池井戸潤の『半沢直樹』シリーズである。シリーズ第1作に当たる『オレたちバブル入行組』がミリオン突破で2位、第2作の『オレたち花のバブル組』が3位と、上半期ランキングの圏外からそれぞれ大躍進を遂げた。2013年屈指の流行語「倍返し」の原点となった池井戸の作品だが、意外にもこれまでに年間ランキング上位にはほとんど登場していない。直木賞受賞作である『下町ロケット』が2011年のBOOKランキングで35位を記録したくらいだ。それが文庫で2作、BOOKで1作のTOP10入りである。裏を返せば、何かのフックがあれば爆発的なニーズが生み出せることを証明しているともいえるだろう。池井戸潤の動向も2014年のキーポイントと考えてよさそうだ。

 ただ、残念なのは、これらの躍進組がすべて2010年以前の発刊であったこと。すなわち2013年刊の“新作”は、TOP10の常連・東野圭吾の『真夏の方程式』を筆頭に4位以下にとどまってしまったことだ。それも上位に並んでいるのは、ドラマや映画などの映像化がなされたものがほとんど。人気作家の作品が映像化されるのはある意味当然の流れかもしれないが、ストーリーテリングの妙だけで、ランキングを駆け上がる作品の登場も見てみたいというのは贅沢な願いだろうか。

(文:田井裕規)