2012年 年間本ランキング発表!ヒット作の定番化――シーンをけん引するキーワードとは!?

「読む」よりも「試す」ものとして活用

 人々にとって本とはどんな存在なのだろうか。時間を有意義に過ごすための相棒、悠久の世界へと誘ってくれる夢先案内人、はたまた人生の岐路で立ち止まってしまった時に明かりを照らし進路を指示してくれる心の友だろうか。時代とともにその価値は変わっていくのだろうが、BOOK部門の年間ランキングから受け取る2012年における存在は「師範」なのかもしれない。

 ここ数年来、常に上位にランクされてきたダイエットおよびエクササイズ系の実用本。その勢いがさらに加速したのがこの1年だったといえる。上半期から引き続いて1位を独走した『寝るだけ!骨盤枕ダイエット』、2011年から市場を席巻し続けている樫木裕実の『カーヴィーダンス』シリーズ、ダイエットの考え方に一石を投じた『タニタ食堂』のレシピという“定番”に加え、新たに注目を集めたのが俳優・美木良介が指南する『ロングブレスダイエット』だ。これらに共通するのは「手軽」であること、「私にもできそう」と思わせる「身近さ」にある。それを強調するファクターである図解やDVDに加え、テレビ番組を用いた「実践」によって誰もが容易に「入門」できるという「トライ感」を生み出し、セールスを伸ばしていく。

 上半期25位から躍進した阿川佐和子『聞く力 心をひらく35のヒント』には、さまざまなメディアで“聞き手”として活躍する筆者流の“コミュニケーション術”が記され、今春に発売し一気に売り上げを伸ばしてきた渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』では、キリスト教のシスターである筆者の言葉が包み込むように癒してくれる。「コミュニケーション」、それは現代人が最も苦手とする分野のひとつではないだろうか。SNSなどを中心としたコミュニケーション・ツールの普及によって、声に出すコミュニケーションや深い思いを共有するコミュニケーションの量が減りつつある。この2冊のランクインからは、「会話」の重要性、生き方の本質を求める読者の実情が伝わってくる。その「師範」となるべき作品たちだ。

 また、「本屋大賞」は完全にヒット作の登竜門となった。2012年の大賞作品、三浦しをん『舟を編む』が7位、2011年の大賞作品の続編にあたる東川篤哉『謎解きはディナーのあとで 2』は11位。小説でのTOP20ランクインはこの2冊のみである。「本屋大賞」のブランド力だろうか。裏を返せば、“冠”や話題性がなければ小説は、多くの人に読んでもらえない状況にあるのかもしれない。小説の復権を期待せずにはいられない。

 BOOK部門に関しては、本が「読む」よりも「試す」ものとして活用されている傾向を強く感じさせる。そのマスター、つまり「師範」たちが現在のBOOKシーンをけん引しているのだ。

「3強」変わらず!次なる「定番」の息吹も

 「定番」は「安心感」を生み出す。決して予定調和ということではなく、「定番」が作り出す世界へすんなりと飛び込んでいける絶対的な「信頼」とでも呼べるもの――それを手に入れた作品は、強い。

 『ONE PIECE』4作品、『NARUTO―ナルト―』3作品、『君に届け』2作品。ランキングに目を転じればわかる通り、2012年のコミック部門TOP10を形成している作品群である(10位に『HUNTER×HUNTER』)。それでは、もう1クリックして2011年のコミック年間TOP10を見てほしい。『ONE PIECE』が何作入っているだろうか。『NARUTO』は、『君に届け』はどうだろうか。言うまでもなく、構成比率は全く同じだ。全巻200万部以上(最終的には300万部以上)という驚異のセールスをたたき出し続けている『ONE PIECE』が上位4つを独占した後ろにもおなじみの顔ぶれが続く。いずれも100万部以上。これを「定番」といわずして何をいうのか。多くの漫画ファンに愛され続けている「不朽の名作」こそ、この3タイトルということになる。2010年以前はここに『鋼の錬金術師』が「鉄板」として並び立っていたが、同作品が完結して以降は、少年漫画の上位陣をかき分けて少女漫画の傑作『君に届け』が躍進してきた構図となっている。読者の「信頼」度は絶大だ。

 となると、興味は俄然、来年以降この「3強」の牙城をどの作品が崩していくのかという1点に絞られる。現状は、上記した通りTOP10の一角を担う『HUNTER×HUNTER』がリードしている形だが、『青エク』の愛称で知られる『青の祓魔師』や、実写映画が驚異的なヒットを記録した『テルマエ・ロマエ』、最終章に突入したとされる『BLEACH―ブリーチ―』、芸能人にファンも多い『進撃の巨人』など、さらなるファン層の拡大が見込める作品もまた上位をうかがっている。

 だが、そのなかでも最も注目したいのが『銀の匙 Silver Spoon』だ。「マンガ大賞2012」やブクログ(Web本棚サービス)の「ブクログ大賞・マンガ部門」でいずれも大賞を受賞するなど内外の評価が高く、アニメ化も期待されている人気作だが、2、3巻ともに、上半期発表時のランクから順位を落としていないというポテンシャルの高さは特筆される(上位20作中、ランク維持はほかに『ONE PIECE』65、66巻のみ)。裾野の広がりという点では傑出した存在かもしれない。次なる「定番」として、目が離せない。

「古書」の世界に打ち出した新機軸が大ヒット

 村上春樹『1Q84』BOOK1〜3の各前後編あわせて6タイトル、『ガリレオ』シリーズを含む東野圭吾の3作品、2012年はテレビドラマも“書き下ろし”た湊かなえの2作品、『フリーター、家を買う。』『阪急電車』の有川浩の話題作、映画化された『ツナグ』『天地明察』ならびに『サマーウォーズ』の監督の最新作として大ヒットを記録した『おおかみこどもの雨と雪』。実にそうそうたる顔ぶれであり、2012年に注目を集めた作家(監督)陣であることは誰もが認めるところだろう。

 そんな強力なラインアップを向こうに回して、文庫部門の年間ランキングTOP10に3作品、しかも上半期から変わることなく1位の座をもブッちぎったのが三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズだ。2012年本屋大賞・文庫初ノミネート、本の雑誌が選ぶ2011年度文庫ベストテン第1位、「ダ・ヴィンチ」2012上半期BOOK OF THE YEAR第3位、第65回日本推理作家協会賞短編部門ノミネート……、輝かしい実績に彩られたそのパワーは、セールス面でも遺憾なく発揮された。

 一歩足を踏み込んだとたんに、日常とは世界が一変、時が止まったかのような独特の空気感と、時代を通り過ぎてきた本が放つ重厚な存在感に圧倒される「古書」の世界。それはデジタルとは対極に位置する世界かもしれない。これまでに紀田順一郎、出久根達郎、京極夏彦、新田一実、さらにBOOK部門で『舟を編む』がTOP10入りした三浦しをんといった作家が、古本屋を営む主人公を作中に登場させるなど、小説の舞台としても人気は高く、読者層の需要は常に見込めた分野だ。『ビブリア〜』はそこに女性主人公を据え、漱石や太宰などの実在の名作を取り上げ、古書のうんちくを綴るなど新機軸を打ち出した。異空間への憧れと知識欲を同時に満たしてくれる“刺激”も与えることで、ファンを獲得していったものと思える。

 2013年1月からは“月9”でのドラマ化も発表されており、『謎解きはディナーの後で』のようなさらなる伸びが期待される。2013年も注目したいシリーズだ。

(文:田井裕規)