『ワンダフルナイト』というタイトル案も──“ステキ”なタイトルですが、他にも候補はあったんでしょうか? 【三谷】 もうひとつ『ワンダフルナイト』という案があって、スタッフ50人ぐらいに無記名で投票してもらったんですね。結果、『ワンダフルナイト』の圧勝だったんですよ(笑)。最終的に僕の独断で『ステキな金縛り』にしたんですけど、僕を含めて4票ぐらいしか入っていませんでした(笑)。僕としては、『ワンダフルナイト』だと引っかかりがない気がしたんですね。『ステキな金縛り』は“金縛り”の部分が引っかかり過ぎな気もしたんですけど、善かれ悪しかれ印象に残った方が勝ちかなと思って、最終判断しました。 ――幽霊が裁判で証言するという突飛なアイディアが浮かんだのには、何かきっかけがあるんでしょうか? 【三谷】 きっかけはとくにないんですよ。ただ、裁判ものはずっとやりたいと思っていました。法廷というのは、すごく演劇的な空間なんですけど、実際に舞台でできるかというと、難しいんです。裁判長と証人が向かい合っているので、裁判長が正面なら証人は後ろ姿になってしまうわけです。横というのも、両方が正面を向くというのもかっこよくないですよね。だから、やるなら映画だなと。自分が法廷ものをやるとしたらやっぱりコメディなので、どこにおもしろみを置くかなと考えていったら、とびっきり変わった証人を出してやろうということになり、その究極は幽霊だろうという流れでした。 ――キャストの豪華さも目を引きますが、どういう経緯でキャスティングされたんでしょうか? 【三谷】 深津(絵里)さんには最初からこの役をやっていただこうと思っていました。実は、ドラマも含めて、僕の作品で初めての女性の主人公なんですよ。前の映画で一緒にやってみて、彼女の感性とか頭のよさとか、感覚が僕とわりと似ているところとか、いろいろわかっていたので、主人公は深津さんしかいないだろうと思いました。西田(敏行)さんはもう昔から大ファンで、出演していただけるなら自分の作品すべてに出てほしいと思っているぐらいです。『ザ・マジックアワー』のときはわりとシリアスな役柄で、アドリブも禁止してストイックにやってもらったので、今回は落ち武者の幽霊役でハジけてもらいました。 徐々にファンタジー色が強くなっている――監督自身がいちばん笑った西田さんのアドリブは? 【三谷】 西田さんが天国から犬を連れてくるときのアドリブですかね。「すぐに見つかりましたよ」というセリフの後に「ハチ公と並んでました」と言われたんですけど、それは台本にありませんでした。すごくくやしいんですけど、西田さんのアドリブで本当にみんな笑うんですよね。西田さんには自由にやってくださいと言うんですけど、実は西田さんが言いそうなことを全部台本に書いてやろうと思って僕はやっているんですね。そこは僕と西田さんとの闘いですよね。でも、やっぱり上を行かれちゃうんですよ。くやしい反面、お客さんは僕が書いたセリフだと思ってくれるでしょうから、ちょっと得した気分にもなりますね(笑)。 ――幽霊が出てきたことで、これまでの映画よりファンタジー色が強くなったように思いますが、今後はどうなるのでしょうか? 【三谷】 『THE 有頂天ホテル』『ザ・マジックアワー』『ステキな金縛り』とやってきて、徐々にファンタジー色が強くなっているんですよね。僕はいつも、日常なんだけど、ちょっと非日常な感じもする空間を探すんです。ホテルというのがまずひとつ。次に、街ごと架空の場所を作ろうとやってみたのが『ザ・マジックアワー』。それから今回が法廷。そういうところを探し続けてきて、だんだんファンタジー色が強くなってきたとなると、今後は時代劇とSFですかね。いっそのことそこまで飛んでしまうといいのかなって思っているんですけど。 ――時代劇とSFというのは別々の作品で考えているということですか? 【三谷】 別々です。SF時代劇じゃないです(笑)。SFといっても、あまりに世界観が広がっているものは得意じゃないので、大宇宙なんだけど、小さい宇宙ステーションのなかの話とか。演劇をやっているからか、限定された空間が好きなんですよ。結局は人間関係を描きたいというのが根本にあって、それには閉ざされた空間の方が考えやすいからです。過去か、宇宙か、次はどこに行くんだというのは、自分でも気になりますね(笑)。 次のページへ ⇒ 【三谷監督がブロガーからの質問に答える!】 (文:岡 大) PROFILE
三谷幸喜 『ステキな金縛り』【STORY】 |