ORICON STYLE

最終回 まるで初めての監督作品のようで……

 いよいよ全国でワタシの映画『MY HOUSE』が公開された。たくさんの方にお世話になり、ここまで来た。ずっと温めてきた作品なので感無量であるが、そんな私の事情はどうでもいい。大事なことはひとりでも多くの方にご覧いただき、この作品の「世界」に浸っていただくことだ。

 ゼロ円で工夫を凝らしながら生きる路上生活者、スパーエリート中学生、病的なまでに無菌状態をめざす人嫌いの主婦。この一見、際立って特徴的な(ワタシ的には普通な人々なのだが)主人公たちの「HOUSE」に何を見るか。ご自身のライフスタイルに引きつけて「家」「家族」「金銭」「成績」「食」などをどうお考えいただくか。

 モデルになった隅田川の鈴木さんに会った時、彼の言葉に「生きるレヴェルの高さ」を感じるとともに現代社会へのクールな「失望拒絶」を視た。曰く「家があるとゼロ円じゃ暮らせないからね」「ここは全部タダ」と口調は静かだが、雨露をしのぎ自らを再生産し、家族を擁護し維持し、住民として登録して生きるために、「HOUSE」に血道を上げる我々のライフスタイルへの大きな失望なくして路上生活という実践には出まい。

 失業や不条理な暴力に何らかのきっかけがあるとも聞くが、そもそも日本という巨大なシステムを疑い、たったひとりでも抗う心意気がなければ、東京スカイツリーの真下でのブルーシート暮らしという人生は選択しない。しかし絶望に倒れる訳でなく、変幻自在なやり方で職と食と冨を都市の隙間から産み出し、生き続ける鈴木さんの存在そのものが、我々への批判である。

 もちろん鈴木さんのような例は希有で一般性はないだろう。むしろドキュメンタリーにすべきでは?ともいわれるが、ワタシにはそんな技術もなく、スーパーリアル再現ドラマという表現に徹した。モノクロの映像は、カラーで記憶している先入観を排除したかった。音楽は感情をいくらでも誘導できるので止め。

 ワタシ自身も企画段階、撮影中、作品完成までと段階に応じてずっと考えている。もちろん公開中の今も。この編集でいいのか、あのエピソードは捨てるのか生かすのか、効果音の種類は正しいのか、画面の暗さはこれでいいのか……。まるで初めての監督作品のようだ。

 先行してご覧になった方の感想がばらばら過ぎるのもワタシの作品では珍しく、ありがたいことだと感じる。出来れば映画館に行き、観た方と直接語り合いたい。そんな風に思う作品は初めてだ。本当にやってよかった。坂口さんと鈴木さんには本当に感謝である。
 映画『MY HOUSE』の感想をぜひお寄せ下さい。

※今回、1ヶ月にわたって初となるコラムをご自身に綴っていただきました。堤監督にとって、これまで手がけてきた作品とは異なる特別な想いのこもった1本であること、この作品にかける気持ちがとてつもなく熱いこと、それゆえに公開後の観客の皆さまのご意見、ご感想をかつてないほど知りたがっていらっしゃることが、われわれスタッフにもひしひしと伝わってきています。映画『MY HOUSE』をご覧になっていただきました皆さま、ぜひ下記よりご意見、ご感想をお寄せ下さい!堤監督ご本人にお届けします。[ORICON STYLE編集部]

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プロフィール

堤幸彦 1955年11月3日生まれ。愛知県出身。
1988年、故・森田芳光プロデュースのオムニバス映画『バカヤロー! 私、怒ってます』内『英語がなんだ』で映画監督デビュー。ニューヨークで撮ったオノ・ヨーコ主演の『ホームレス』(1991年)、『さよならニッポン! GOODBYE JAPAN』(1995年)などの映画のほか、テレビドラマやミュージックビデオ、ライブ映像、舞台の演出と幅広く活躍。『金田一少年の事件簿』『ケイゾク』『トリック』などの斬新な演出はその後のテレビドラマに大きな影響を与えた。主な監督作は『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』(2000年)『トリック劇場版』(2002年)『恋愛冩眞』(2003年)『明日の記憶』(2006年)『自虐の詩』(2007年)『20世紀少年』3部作(2008〜2009年)『まぼろしの邪馬台国』(2008年)『BECK』(2010年)『はやぶさ/HAYABUSA』(2011年)『劇場版 SPEC〜天〜』(2012年)など。

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作品情報

MY HOUSE

MY HOUSE 構想から5年を経て、堤幸彦監督が自ら企画から手がけた意欲作を世に送り出す。実在の人物をモデルにした主人公の生活を通して見つける、物にあふれた暮らしのなかで“本当に必要なもの”とは……。

ストーリー:
可動式の家。アルミ缶の換金。社会の枠組みを軽やかに超えていく人々がいる。とある都会の片隅に、見たこともない「家」が建っていた。それは鈴本さん(いとうたかお)とパートナー・スミちゃん(石田えり)が作った組み立て式の、どこへでも自由に移動できる画期的な「家」。鈴本さんはほぼ0円で生活を賄っている。都会に捨てられたアルミ缶を拾い集め換金、不要になったクルマのバッテリーを使って狭いながらもオール電化。目からウロコのアイディアを駆使することで、質素ではあるがそこそこ快適に暮らしていた。都会に生きる自由で不自由な存在。その一方で、エリートコースを目指す中学生・ショータ(村田 勘)がいた。人嫌いで潔癖症の主婦・トモコ(木村多江)がいた。決して交わるはずのなかった彼らの暮らしが、ある事件をきっかけに交錯していく──。

監督:堤幸彦
出演:いとうたかお 石田えり 村田 勘 板尾創路 木村多江

2012年5月26日(土)より新宿バルト9他全国ロードショー
(C)2011「MY HOUSE」製作委員会

予告編  OFFICIAL SITE

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