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『天気の子』で感じる視点の進化 『君の名は。』から「脱皮」した新海誠監督

初日3日間で興収16億円を突破した『天気の子』(C)2019「天気の子」製作委員会

初日3日間で興収16億円を突破した『天気の子』(C)2019「天気の子」製作委員会

 興収250億円超えの空前の大ヒットとなった『君の名は。』に続く新海誠監督作品『天気の子』が公開中だ。『君の名は。』最大のトピックは、老若男女を問わぬ広い広い観客層に受け入れられたことだった。スタジオジブリ作品やディズニー作品をのぞけば、劇場用アニメーションがあれだけ幅広い層の人々に愛されるということは、我が国においてはほぼなかったと言っていい。

ほぼ完成の域に到達していた作家性に固執しなかった

 もともと、新海誠のアニメは万人受けするものではなかった。ナイーヴで情感たっぷりの世界観が大好きな人もいれば、逆に「どうにも気恥ずかしい……」と敬遠する人もいた。それくらい趣味性の強い映画作家だったのである。

 とりわけ『ほしのこえ』から『秒速5センチメートル』までの初期作品。エモーションを拡大引き伸ばしにして、心模様をスローモーション化していく独自の情景創出は、乗れる人と、乗れない人を、はっきり分ける「少し変わった乗り物」だった。そんな新海アニメに大きな変化が生じたのは『星を追う子ども』だった。

 当時、一般観客向けの試写会の後におこなわれたティーチインで、監督のトークのお相手をつとめたことがある。新海は観客から、ジブリ作品との類似について問われたとき、「自分はジブリからも影響を受けている。それってダメですか?」というニュアンスのことをかなりカジュアルに語っていて、その潔さに驚いた。

『秒速5センチメートル』までの新海作品には唯一無二のオリジナリティがあった。だが、新海は、ほぼ完成の域に到達していたその作家性に固執せず、より広大な地平に挑もうとしていた。そのためには「ジブリ的なるもの」も援用してもいい。そんな覚悟に貫かれた発言に思えた。
(その少し前だったと思うが、細田守監督にインタビューした際、「劇場アニメは、ジブリ、ディズニーだけではない。それを自分の作品で示したい、という想いもあります」と語っていたことと対照的で、印象に残っている。もちろん、細田も、自分の作品をより多くの観客に届けたいという希望においては、新海と完全に一致しているわけだが)

大きな視野とひたむきな野心が大成功につながった『君の名は。』

 つまり、新海には、たとえば「新海ワールド」と形容される世界観を継続・深化させるだけではない、大きな視野とひたむきな野心があった。そして、その実践が結実したのが『君の名は。』であった。

 ヒットの要因は様々な分析が可能だろう。だが、新海のキャリアについてだけ考えるなら、明快なドラマツルギーの導入があった。簡単に言えば「わかりやすさ」、もう少し突っ込んで表現すれば「大きな物語」でラッピングして、「少し変わった乗り物」を「誰でも乗りこなせる乗り物」に変化させた。

 だからこそ、年配の観客にも無理なく受け入れられたのである(タイトルで往年の名作日本映画を想起した方々も多かっただろうが、それだけではない作品的な「受け取りやすさ」がはっきりあった)。

 新海ならではの情緒はある。だが、かつてのようなエモーションの拡大引き伸ばしではなく、淡々と既存のドラマツルギーを踏襲してエモーションを構築していく真っ当さがあった。この真っ当さこそが、多くの観客を無理なく惹きつけた。ぶっちゃけた言い方をすれば、『君の名は。』はベタだった。だから愛された。

 だが、そのベタは、前述したように、覚悟を決めた上でのベタだった。『星を追う子ども』のときのような、ジブリ作品からの影響はもはや感じられない。より広大な人々に届ける語り口とは何か。それを徹底的に推し進めた結果、彼ならではのオリジナルなベタを完成させたのである。

フォーマットそのものをベタな形状に完成させた

 新海誠的な要素よりも、フォーマットそのものをベタな形状に完成させることが、そこでは至上命題となっていたように思う。

 これはあくまでも私見だが、『君の名は。』は、ずっとインディーズで映画作りをしてきた少年が、試行錯誤の果て、ついにメジャーの地平にふさわしい「大人の振る舞い」を獲得した一作ではなかったか。
 唯一無二の作家性を単純に前進させるのではなく、「物語ること」に徹底的にこだわることで、従来の新海作品に充満していた、ある種の「気恥ずかしさ」が中和した。そう、ベタは、濃厚な情緒を和らげ、「乗りやすくする」潤滑剤たりていた。

 だから、新海誠という監督名をそれまで知らなかった人々にも『君の名は。』は、突き刺さった。そして、それは、この作家が望んでいたことでもあっただろう。

 だが、フォーマットの完成度に較べ、盤石なドラマツルギーを基調としたことで、観る者の気持ちがスローモーション化するような独自性は若干薄れた。いや、だからこそ、あれだけの動員となったわけだが。

提供元: コンフィデンス

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