海外で人気の“逆輸入”覆面ユニット・AmPm 「日本での実績も海外展開に必要」
海外進出するためには、ローカライズも必要
右 サブスクを中心にたくさんのリスナーに聴いてもらうということに関しては、想定以上の成功だと思っています。ただ、それゆえに変化のスピードに対応しきれていないのも事実です。現在は、体制を整えたうえで再スタートを切るための準備期間ですね。
――現時点での最大の課題というと?
右 AmPmは海外を視野に入れて立ち上げたユニットですが、実際に海外のアーティストやレーベルとコミュニケーションを取るなかで、「AmPmは日本でどれくらいの影響力があるのか?」と質問されることが増えてきました。例えばコラボするときも、相手は“日本のマーケットに進出したい”という狙いがあり、お互いにメリットがないと成立しない。私たちは先行して海外に飛び出したので、日本での実績はまだまだ少ない。それは大きな課題だと思っています。
――エイベックスとアーティスト契約を結んだのも、日本での実績を積み上げるための施策なのでしょうか?
右 そういう部分もあります。エイベックスは1990年代からダンスミュージックに強く、それを日本向けにローカライズすることで広めてきた企業です。ローカライズに特化しすぎると、AmPmの軸がブレてしまうので、そのバランスは難しいところです。ただ、日本にもAmPmの音楽を聴いてくれる方はいますし、楽曲リリース、メディアへの露出以外にファンとの接点を適切に広げることが肝要かなと思っています。パフォーマンスや演出のクオリティを上げることも大きなポイントです。
左 それとマッチングも重要視しています。ミュージシャン同士のコラボレーション、事業や企業との協力もそうですが、自分たちの音楽プロジェクトを何かとつなげることによって、新しいもの、おもしろいものを生み出すことが必要だと考えています。楽曲のクオリティを担保したうえで、いかに他のアーティストとは違うアプトプットができるかが大事ですね。
サブスク発展の要は、メディアとアーティストによる違法アプリ禁止に対する啓蒙活動
右 AmPmとしてはいつも通りの制作進行で、ボーカルがV6ということだけが新しいことですが、シングルがリリースされてから影響の大きさを実感しています。SNSのフォロワー数が増えたり、“いい曲をありがとうございます”というメッセージをいただきました。
左 最初は日本語の歌詞を考えていたんですが、V6のメンバーから「英語詞にしたい」という要望がありました。この曲のトラックやメロディーには英語詞のほうが合うので、いい着地ができたと思っています。
右 サビのパートにボーカルが乗らない構成もそうですが、かなり攻めた楽曲です。ファンの方もそれをわかっていて、「この曲をきっかけに、ファン以外の人にも届いてほしいです」という声もありました。ファンの皆さんの熱量も高く、今回のような楽曲をメジャーアーティストがリリースすることで、少しずつ日本のシーンも変わっていくんじゃないかなと思っています。
――日本の音楽シーンの課題の1つに、サブスクのユーザーが増えないことがあります。サブスクが浸透しない理由についてはどう思いますか?
右 やはり違法ダウンロードアプリの問題は大きいでしょうね。アプリストアの音楽カテゴリの上位に違法アプリが入っていて、若いユーザーはそれが違法だと知らないまま使っているケースも多い。リテラシーの問題を含めて、根本から改善する必要があると思います。アーティストやメディアが“違法アプリを使うことはカッコ悪い”と伝えることも大事なことです。
左 サブスク解禁を進めるためには、トップ・アーティストの動きも重要でしょう。そのためには捨てなくちゃいけないものもありますが、音楽シーンの先を見据えて、影響力のあるアーティストがサブスクに参入してほしいと個人的には思っています。
――海外志向のアーティストも増えていますが、グローバル展開を実現させるためにもっとも必要なものは?
右 なぜ海外に出ていきたいか、その大義名分だと思います。それが明確でないと、“日本人なんだから、日本でやっていればいい”ということになるし、“マーケットが大きいから”とか“海外で活動すればハクが付く”みたいな浅はかな理由では、熱い気持ちを持って世界中から集まっているミュージシャンたちに勝てないので。そのことをアーティスト自身が自分の言葉で語られることも大事です。
左 “コライト”もキーワードでしょうね。海外に出て、いろいろなミュージシャンとつながり一緒に制作をする。その楽しさや広がりは、国内にいるとわからないと思います。山下達郎さん、竹内まりやさんの1980年代の音楽が海外で評価されていますが、AORやソウルミュージックと日本語の歌と組み合わせるスタイルも、コライトの考え方に通じているんじゃないかなと。
右 そういう音楽の基本軸は変わらないかもしれないですね。新しいものに飛びつきがちですが、トレンドの変化は速いし、それを追いかけていては間に合わない。まずは原点回帰しつつ、本質を追求することが大事。それをどのタイミングで、どうリリースするかに関しては、マーケティングも必要です。
(文/森朋之)