宇多田ヒカル、浮かび上がる新たな魅力 10代を魅了する“美しさ”

 宇多田ヒカルが最新アルバム『初恋』を6月27日に発売。初週売上20.4万枚を記録し、7/2付でアルバム首位を獲得した。
 本作は、日本の音楽シーンの金字塔ともいえる1stアルバム『First Love』(99年3月発売)から約20年を経て、再び宇多田が「First Love=初恋」というテーマと向き合った作品で、収録楽曲12曲のうち、実に7曲がタイアップ曲。それも、「サントリー 南アルプススパークリング」CM曲「Play A Love Song」や、実写映画『DESTINY 鎌倉物語』主題歌「あなた」、TBS系火曜ドラマ『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』イメージソング「初恋」、ゲームソフト『KINGDOM HEARTS V』テーマソング「誓い」、TBS系日曜劇場『ごめん、愛してる』主題歌「Forevermore」といったように、CM、映画、ゲーム、ドラマなど、実に多彩なコンテンツと組みながらも、見事にそれぞれ作品の世界観を表現しつつ、タイアップ曲として仕上げている。

宇多田ヒカルは“アルバムで聴きたいアーティスト”

 宇多田のアーティスト力を表す指標の1つにアルバムセールスがある。先述した1stアルバム『First Love』は765.0万枚の売上を誇り、以降も『Distance』(447.2万枚/01年3月発売)、『DEEP RIVER』(360.5万枚/02年6月発売)、『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1』(262.1万枚/04年3月発売)、『HEART STATION』(101.1万枚/08年3月発売)とミリオンヒットを連発。活動休止期間を経て、宇多田ヒカル“第3期”の幕開けとなった前作『Fantome』(16年9月発売)も、CD市場が縮小しているなかで、69.5万枚のヒットを記録。しかも同作は、複数形態での発売や、封入特典を多数用意するなどの付加価値戦略が多数を占めるなかで、1形態のみで発売。それでも2016年の年間アルバムセールスでは、嵐、三代目 J Soul Brothers form EXILE TRIBEに次ぐ、3位を獲得した。
 近年、デジタル配信、特に月額定額制の聴き放題型サービス(サブスクリプションサービス)の普及拡大もあり、CDやDVDといった従来までの、いわゆるフィジカル市場が大きく変化した。日本レコード協会発表による市場レポートでは、2017年のレコード産業全体で、音楽ソフト(シングル・アルバム・アナログディスク・カセットなど)の生産実績は5年連続で減少。その一方で、音楽配信の売上実績は4年連続の増加し、売上規模で見ると、「ダウンロード」は270.9億円に対して、聴き放題型サービスが含まれる「ストリーミング」は263.0億円まで伸長している。

 このような環境変化のなかで、シングルやアルバムの在り方自体も変化し始めており、近年ではシングルはデジタル配信限定で発表し、フィジカルでの発売はアルバムのみというケースも増えている。当然、リスナーの視聴行動も変化してきており、サブスクリプションサービスでは単曲での視聴がメインとなり、“アルバムを聴く”という行為自体も少なくなっている。そうした状況において、継続して高いアルバムセールスを続けている宇多田ヒカルという、“アルバムで聴きたいアーティスト”の存在はより一層際立ってくる。

10代ファンでは“自分がなりたい姿”と重ねる傾向も

 実際、2017年6月に実施したオリコン・モニターリサーチが行った調査において、『Fantome』購入者の音楽に対する意識としては、楽曲が自分のコダワリに合うかどうかを重視する傾向が見られ、過去1年間では83%がCDを購入。さらにその平均枚数は約19枚と、日本人全体より6.3枚も多い結果となった。特筆すべきは、YouTubeなどの無料の動画配信サービスでの視聴がメインとなり、CD購入の習慣が顕著になくなってきている10代でも同様に、アルバム購入の意向が高かった点だ。

 そこで10代の『Fantome』購入者を、オリコン・モニターリサーチが独自に導き出した“音楽意識”の指標「Music Compass」(下図参照)上で見ていくと、10代平均と比較し、「ドリーマー」の構成比率がやや多く、音楽を常に聴いている傾向も高い。また、好きな音楽は自分の個性を表現する大きな手段の1つと考えており、周りの人と違った音楽を好む傾向が見られた。さらに楽曲だけでなく、アーティスト本人への関心も高く、アーティストを憧れの存在、自分がなりたい姿と重ねる傾向も見えてきた。こうした音楽意識がより深くアーティストや作品と向き合いたいという意識にも繋がり、アルバムの購入意向に至ったと思われる。

アーティストイメージでは“美しい”が44.6%に

 この調査は1年前のもので、その後、宇多田は、前述しようにドラマやアニメ、CMからゲームまでさまざまなタイアップを通じて、さらに多くのリスナーに楽曲を届けている。そこで今回、改めて宇多田のイメージ調査を実施した。10代ファンの傾向を、1年前の『Fantome』購入者に向けた調査と比較すると、顕著に違いが出たのが「美しい」「可憐だ」「エレガント」といったワードが増加した点だ。「美しい」は前回調査時では16.7%だったが、今回調査では44.6%まで伸長。また、「可憐な」も10.4%→23.9%に増加しており、さらに「エレガント」も12.5%→22.8%へと増加した。

 その一方で、「宇多田ヒカルの好きなところ」という設問ではこれまでと変わらず、「声」「歌詞」「メロディー」「歌の上手さ」といった項目が目立っている。つまり、アーティストイメージで、従来までの「センスが良い」「実力がある」といったワードとともに上記のようなワードが伸長したのには、容姿への憧れということではなく、彼女の生み出す“楽曲”に対して、これまで以上に「美しさ」や「可憐さ」を感じ取っているのだと思われる。

 また、10代女性層に、ドラマ『花のち晴れ〜』のイメージソングで、アルバム表題曲にもなった「初恋」のイメージを聞いてみると、「ドラマが好きで初めて聴いたが、1度聴いただけでも頭に残るくらい素敵」、「初めて聴いた時、凄く感動して泣いてしまった」「ドラマの途中で流れてくるとより感動する」と、絶賛のコメントが並ぶ。さらには「宇多田ヒカルを聴こうと思ったきっかけがこの曲」というコメントも見られるなど、10代においては、ドラマ×「初恋」がきっかけとなり、新規ファンが広がり、この層が特に、宇多田に対して“美しい”というイメージを持っているということも予想される。

2017年と2018年で変化した宇多田ヒカルのアーティストイメージ

“第3期”宇多田ヒカルに備わった独自の美しさ

 実はこうした傾向は性別や世代だけでなく、ゲームやアニメといったジャンルごとのファンにおいても同様で、「誓い」に対する感想コメントでは、「キングダムハーツと宇多田ヒカルのコラボは鉄板」(男性30代/神奈川県)、「曲が美しい」(男性40代/神奈川県)、「キングダムハーツといえば宇多田ヒカル」(女性40代/埼玉県)など、ゲームファンからも非常に高い評価を獲得。冒頭でも述べたように、数々のタイアップを通じて、こうした新規ファン層がさらに広がり、それが宇多田のアーティストイメージにも変化をもたらしていることがわかる。

 宇多田ヒカルといえば鮮烈なデビューから、高い歌唱力やメロディーセンスといった“才能”によって、グイグイとリスナーを惹きつけていく、ある種の力強さが魅力の1つだった。そこから20年が経ち、30代に入った宇多田は、その間、さまざまな経験を重ね、ある種の“美しさ”が備わった。アルバム『初恋』に収録された多彩なタイアップ楽曲にも、彼女だけが持ちえた“美しさ”が通底しているからこそ、1つの作品としても見事にまとまっており、“アルバムで聴きたい”と思わせるのだろう。今回の調査から浮かび上がった“美しい”というワードこそが、“第3期”宇多田ヒカルをもっとも的確に表しているのかもしれない。

提供元: コンフィデンス

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