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福田靖氏、『先僕』へのこだわりと反省「社会への意義があるオリジナルドラマを作りたい」

NHK大河ドラマ『龍馬伝』など数々の話題作を手がけてきた脚本家の福田靖氏が、『先に生まれただけの僕』(日テレ系)で「第10回コンフィデンスアワード・ドラマ賞」脚本賞を受賞した。オリジナルにこだわり、徹底した取材をもとに新たな学園ドラマを提示した福田氏に、本作を振り返りながら、昨今のドラマシーンへの想いを語ってもらった。

櫻井翔のイメージから作り上げた校長像

  • 『HERO』『ガリレオ』シリーズなど多くの人気作を手がけている脚本家の福田靖氏

    『HERO』『ガリレオ』シリーズなど多くの人気作を手がけている脚本家の福田靖氏

――商社の営業マンが左遷されて私立高校の校長になる本作は、学校運営に企業経営の理念を持ち込み、学校を良くするために教師を変えて生徒を変えるという一風変わった学園ドラマでした。そのなかでは、奨学金制度や教師の労働問題、授業におけるスマホの使用可否など高校が抱える現実の問題を浮き上がらせ、視聴者にそれぞれの問題を考える余白まで残しました。本作は、原案からオリジナルで手がけられていますが、企画の成り立ちから教えてください。
福田靖日本テレビさんと初めて連ドラをやらせていただくことになって、水田伸生監督から「若者の貧困」という難しいテーマをいただきました。それについて勉強をするなかでさまざまな現実を目の当たりにして、その前の段階の高校では、社会のルールやお金のことなど、少なくとも僕は教えてもらわなかったと気づきました。そういうところから、高校を舞台にした先生の話にしたいと提案しました。これまで21年のキャリアで、学園ドラマを書いたことがなかったので、挑戦しようと。それも、生徒役にスターがいなければ、毎回出演するレギュラーもいない。教師という職業を捉えたうえで生徒とどう向き合うか、学校という組織の話で、学校ではあるけど学校では教えないことを取り上げようと考えました。
――櫻井翔さんの校長役というのも話題になりました。
福田靖高校を舞台にしたいと提案した時点では櫻井さんの出演はすでに決まっていて、彼のパブリックイメージを考えときにベストの役はなんだろうというところから始まりました。スーパーヒーローではなくて、ごく普通の営業でがんばっている等身大の会社員。僕は櫻井さんに対してそういう印象を持ちました。ジャニーズのなかの厳しい競争でスキルを磨いてきた一方で、「こんなギャンブルみたいな人生はとても人には薦められない」と話されていて、なんでもできるスーパーマンではなく、破天荒さを感じないでがんばっている人。そんな彼に近いキャラクターにしました。スーパーマンではないけれども、ビジネスの世界で社会の厳しさを知っている人だからこそ、学校との温度差が出てくる。この雛形を強化していきました。

――福田さんの作品は群像劇が多くて、登場人物それぞれが少しずつ際立ってきます。今回の先生たちもそれぞれクセがあっておもしろかったです。
福田靖中高、公立、私立と30人くらいの教師に取材していくなかで、学校を変えるためには生徒を変えるなくてはいけない、生徒を変えるためには教師を変えなくてはいけない、という構図が見えてきました。生徒は商品でありクライアント。企業の感覚を持ち込んだときに教師はどういう反応をするかというのも、各教師にぶつけていくと肯定も否定もあり、さまざまな反応がありました。ドラマの教師たちは、みんな実際にいる教師たちの姿です。

――番組タイトルには校長のキャラクターが反映されています。
福田靖「先生」という言葉に関する本を読んでいくと、「先に生まれただけ」「先に生きている」など、いろいろな解釈があります。今回のタイトルは前者。僕はそんなふうに思っていませんが、もしかしたら若干ネガティブな響きがしたのかもしれません。

なにか失敗した。観てもらえなければ次はない

――視聴者の声にもありますが、続編ができるような物語でした。
福田靖たしかにそれはありますけど……。残念ですけど、この世界は数字ですよね。たとえ評判がよくても数字がついてこなければ続編はない。これは商業的に仕方ない。こうなったのは、やっぱり僕たちはなにか失敗したんです。いろいろ言い訳はありますが、わかりやすいタイトルではないし、校長が35歳なんて、普通に考えれば“とんでもドラマ”。そういうものは始めから視聴者のチョイスから外れてしまう。戦略を失敗したということで、チームとして反省すべきところです。たとえいいものを作ったという自負があっても、観てもらえなければ次はありません。

――いまのドラマシーンの現状は、厳しさが増している気もします。現場に身を置く福田さんはどう捉えていますか?
福田靖やれることはあると思います。ただ、35歳の校長を打ち出さずに、いまの教育や社会をテーマにした教育ドラマにすればよかったのかというと、それは結果論でしかなく、わかりません。僕としてはおもしろいドラマを作るということでしかないんです。当たるドラマを作ってくれと言われますが、そんな方法があるなら教えてほしい(笑)。
 かつてはリビングで家族そろってテレビを観ていて、それが高視聴率につながりました。でもいまは、同じドラマでも家族それぞれの部屋でバラバラに観る時代。社会がそうなっています。そんななかで、ざくっとみんなをつかむのは果てしなく難しい。そこはもうそういう時代になったということを受け入れなければいけない。そのうえで、いいドラマを作ろうという気概、志しを持っていたい。
 漫画原作のドラマがあればキャスティングしやすいかもしれないし、観る人も多いかもしれないけれど、取材はすべて漫画家さんがやっているわけです。脚本家はそれをやらずに書けます。もちろんこれを否定するわけではありません。ただ、作品としては成功するかもしれませんけど、こればかりになったら、テーマは見つけられない、取材もできない、オリジナリティがないといった、レベルが低い脚本家ばかりになってしまうのではないかという危惧があります。エンタテインメントでありながら、説教くさくない程度に社会に対する意義らしきものがある。そういうものを、取材してオリジナルで作っていきたいと思っています。

――職業作家として、オリジナルへの強いこだわりを感じます。
福田靖僕自身は“福田ワールド”と呼ばれるようなものはないと思っているんです。三谷幸喜さんや宮藤官九郎さんのような世界観はなくて。僕のなかにはあるのは、あるテーマを見つけて、取材をして材料を集めて、そのなかからドラマにする鉱脈を書くということだけです。

――そんな時代ですが、今年は国民的ドラマである朝ドラ(『まんぷく』)の脚本がありますね。
福田靖書き始めたところですが、これは本当に老若男女みんなが観るんだと言われると、なかなかプレッシャーがきつくなります(笑)。『あまちゃん』が朝ドラを変えたと言われますけど、そこで開拓した20〜30代をあまり意識すると、メインの50代以上の層が離れます。どこを意識するかが難しいんですが、今作は戦時中からの話になりますから、自分の親世代が観る意識で書きます。ただ、僕が書くものは間違いなく20〜30代の層にも共感される要素が入ってきます。自然にそうなるから、あまり意識しないでいいかなと思っています。作戦とか展望はなくても、なんとかなると信じているんです。そういうタフさは身についています(笑)。
(文:武井保之)

提供元: コンフィデンス

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