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美術作品の売買で市場活性化、文化庁の「先進美術館」構想に全国の美術館が「NO!」

「先進美術館」構想を検討している文化庁

文化庁が検討している「先進美術館(リーディング・ミュージアム)」構想に対し、全国の国立美術館や公立美術館、私立美術館、389館(2018年5月17日現在)などで構成する全国美術館会議(建畠晢会長)は6月19日、声明を公表、「美術館が自ら直接的に市場への関与を目的とした活動を行うべきではない」として強く批判した。

リーディング・ミュージアム構想とは今年4月、政府の未来投資会議構造改革徹底推進会合「地域経済・インフラ」第4回会合で提出された資料で明らかになったもの。日本のアート市場の成長を期待し、リーディング・ミュージアムを設置し、美術作品の売買を行うことで市場活性化をはかるという。これに対し、国内の美術関係者からは批判が続出していた。

●「先進美術館」が積極的に作品を売買、市場を活性化

文化庁の資料によると、世界の美術品市場は673億ドル(約6兆7500億円)。これに比べ、日本国内の美術品市場は2437億円の規模で、美術関係のサービスを合わせても3270億円だった。世界の市場はアメリカが約42%、次いで中国が21%、イギリスが20%のシェアとなっており、日本は4%にも満たない。

しかし、日本の富裕層数は世界ランク2位(100万ドル以上の資産がある富裕層)であり、GDPも世界3位であることから、文化庁では「日本のアート市場は成長の余地がある」として、リーディングミュージアムの形成を提案している。仕組みとしては、個人は企業のコレクターに税制上の優遇を行い、リーディング・ミュージアムへの寄付を促す。リーディング・ミュージアムは国内で残すべき美術作品を検討、アートフェアやギャラリーから購入し、一定の作品はオークションで売却して流動化することで、美術作品の価値を高めて市場を活性化させるという構想だ。

政府はすでに、今年度新たに「アート市場活性化事業」として5000万円の予算を確保、今後5年間でアート市場規模の動向調査や有望な日本人若手作家の展覧会実施、アート市場関係者などとの連携協力体制の構築に取り組むという。

また、今年度から美術館や博物館への美術作品の寄託を促し、海外への散逸を防ぐために、税制も改正されている。国宝や国の重要文化財、登録有形文化財に指定されている美術工芸品の保存利用計画を文化長官が認定、美術館や博物館と長期寄託契約が締結された場合、もしその所有者が死亡しても、次の相続人が保存計画と寄託契約を継続することで、一定割合の相続税の納税が猶予される。

●「美術館が自ら直接的に市場への関与を目的とした活動を行うべきではない」

ところが、このリーディング・ミュージアム構想が報道されると、美術関係者からは批判が巻き起こった。美術館や博物館などは博物館法によって、その目的を「国民の教育、学術及び文化の発展に寄与すること」と定めている。資料の収集と保管を行い、公衆の教養や調査研究、レクリエーションのための必要な事業を実施し、あわせて資料の調査研究をする機関であり、市場経済とは一線を画してきた歴史を持つ。この構想についても、その公共性や持続性に対する懸念が噴出していた。

そうした中、全国美術館会議は6月19日、「美術館と美術市場との関係について」という声明文を公表、リーディング・ミュージアム構想を強く批判した。

「美術館はすべての人々に開かれた非営利の社会教育機関である。美術館における作品収集や展覧会などの活動が、結果として美術市場に影響を及ぼすことがありうるとしても、美術館が自ら直接的に市場への関与を目的とした活動を行うべきではない」

また、美術館の役割についても、あらためて言明している。

「美術館による作品収集活動はそれぞれの館が自らの使命として掲げた収集方針に基づいて体系的に行われるべきものである。美術作品を良好な状態で保持、公開し、次世代へと伝えることが美術館に課せられた本来的な役割であり、収集に当たっては投資的な目的とは明確な一線を画さなければならない。

なお、収集活動は購入ばかりではなく寄贈も大きな比重を占めている。将来にわたって美術館が信頼すべき寄贈先と見なされるためにも、この基本方針は重要な意味を持つものである」

これまで政府の行政改革により、国立美術館などは2001年独立行政法人化、来館者を伸ばすなど経営の向上を迫られてきた。また、2003年には企業や民間組織に運営を委託できる指定管理者制度が施行され、学芸員ら職員の非正規雇用の増加も問題視されている。これまでの経緯もふまえ、今回のリーディング・ミュージアム構想についても慎重な議論が求められる。

(弁護士ドットコムニュース)

提供元:弁護士ドットコムニュース

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