「働き方改革」に取り組む日本にとって、参考になる存在といえば「ワークライフ・バランス先進国」として知られるオランダだ。フルタイムとパートタイムの待遇格差是正や労働時間の短縮実現など、日本が抱える諸課題を解決してきたオランダだが、事ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかったという。かつて「オランダ病」と揶揄された経済の窮状を建て直していったプロセスには、オランダという国を特徴づける“ある文化”が大きく影響していたという。果たしてそれはどのようなものだったのか? オランダ経済に詳しい長坂寿久氏に聞いた。
水を制御することで
生まれた国、オランダ
武田隆(以下、武田) 前回は、「私・共(公共)・公」という三元論で社会をとらえる「公共哲学」による主権論が存在することを前提とした世界観を持つヨーロッパと、「公・私」という二元論で捉えている日本との違いについてお話しいただきました。
日本では育たなかった「公共」という概念が、ヨーロッパ、とりわけオランダで根付いた背景には、オランダという国の成り立ちが関係している。これはどういうことでしょうか?
長坂寿久(以下、長坂) オランダは、ヨーロッパ大陸を流れる3つの川が北海に流れ込む三角州にできた国です。ヨーロッパの人口が増加し、もともと水浸しで住めなかったその三角州の高台にまで入植してきた。そして少しずつ住める場所を増やしていきました。
帆船の時代になると、アムステルという川に堤防(ダム)をつくり、港をつくり、街をつくったのです。
武田 それが現在のオランダの首都、アムステルダムですね。日本で言えば、「黒部ダム」が首都になるようなもので、おもしろいです。
長坂 そうして、自分たちで水を制御して街をつくってきたんです。オランダ最大の空港であるスキポール空港は、「船の穴」という意味を持ちます。スキップが「シップ・船」、それに穴の「ホール」でスキポール。スキポール空港がある場所は、かつて巨大な湖でした。そこで戦いが起こったり、嵐が来たりして、たくさんの船が沈んだ。
武田 船の墓場だったと。...