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井手口と浅野が変えた予選の意味。2017年8月31日は歴史の転換点に。

試合を、つまりW杯出場を決める2点目をゴール右隅に突き刺した井手口陽介。21歳、この衝撃は鮮烈だった。

2017年8月31日の歓喜は、これまでとは明らかに違う種類のものだった。
1998年のフランスW杯出場は、中田英寿を中心に切り開かれた。攻撃のエースはカズこと三浦知良だったが、当時20歳のMFの台頭は驚きでなかった。最終予選途中までチームを指揮した加茂周監督は、前年秋のアジアカップ後にも「新しい選手がレギュラーに食い込んでこなければ、W杯予選突破に苦しむ」と話し、1次予選の途中から中田を起用していた。“ジョホールバルの歓喜”の中心に彼がいたのは、そこへ至るプロセスを考えれば必然だったとも言える。
2006年のドイツW杯最終予選は、'02年の日韓W杯を知る選手がコアメンバーとなった。チームの基本的な陣容は、4年前とほとんど変わらなかった。
'10年の南アフリカW杯への道のりでは、'08年の北京五輪に出場した選手たちが加わってきた。とはいえ、チームの看板選手はベテランの域に差し掛かった中村俊輔であり、中澤佑二だった。
4年後のアジア最終予選は、南アフリカW杯のメンバーがほぼそのまま中核を担った。中村俊、中澤、田中マルクス闘莉王らは抜けたものの、主力と見なされている選手が勝敗に大きな影響を及ぼしていた。

これまでなら、経験や実績に頼る場面だった。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のもとで勝ち取った、ロシアW杯の出場権はどうだったか。ホームでUAEと対峙した最終予選第1戦は、スタメンの10人までがブラジルW杯のメンバーだった。海外のクラブに所属し、W杯本大会も最終予選も体験済みの選手たちが、勝敗の責任を背負ってきた。
勝てばロシア行きを決められる一方で、負ければ予選突破に黄色信号が灯るオーストラリア戦は、紛れもない大一番だった。これまでの日本代表の精神的環境なら、経験や実績を頼りにする局面である。最終予選序盤のハリルホジッチ監督も、例外ではなかった。所属クラブのプレータイムにひとまず目をつぶっても、対外的な影響力の高い選手を起用する一面はあった。

浅野と井手口が決めたことに価値がある。

オーストラリアを2-0で退けた8月31日のスタメンに、本田圭佑、岡崎慎司、香川真司の名前がなかった。キャプテンの長谷部誠が昨年11月以来のスタメンに復帰し、川島永嗣、長友佑都、吉田麻也らとともに経験をもたらしたが、決定的な仕事をしたのは浅野拓磨であり、井手口陽介だった。シュツットガルト在籍のFWは22歳であり、ガンバ大阪所属のボランチは21歳である。
昨夏のリオ五輪に揃って出場したふたりの選手起用には、「抜擢」や「賭け」といった表現も使われた。そこに、この日の勝利の意味がある。
本田でも香川でも岡崎でもなく、最終予選序盤のチームを牽引した原口元気でも、3月の最終予選で2得点した久保裕也でもなく、浅野と井手口が最終的かつ決定的な仕事を見せたところに、はかりしれない価値があるのだ。
5万9千人を超える観衆の集まった埼玉スタジアムでヒーローとなった2人は、個人的に大きな自信をつかんだだろう。代表チーム内での序列はひとまずアップしたが、ハリルホジッチ監督がいつでも、どこでも、彼らにすがることはない。

戦術的な柔軟性は、今すぐ本大会に対応できるレベル。

時にエキセントリックな言動もする指揮官は、特定の個人に寄りかかるようなチーム作りではなく、誰がピッチに立っても機能するチームを作り上げてきた。その先に見据えるのは、もちろん来夏のロシアW杯である。
'14年のブラジルW杯でアルジェリアを率いたハリルホジッチ監督は、試合ごとにスタメンを入れ替える戦略でグループステージを突破し、決勝トーナメント1回戦では優勝したドイツを追い詰めた。
世界のトップオブトップを形成する立場ではない日本も、「自分たちのサッカー」で押し通すには限界がある。揺らぎやブレではなく柔軟性と呼べる範囲内で、戦いかたの引き出しを増やしておくべきだ。それこそは、アルベルト・ザッケローニの日本代表に無かったものであり、戦術的な成熟度を別とすれば、いますぐW杯が開幕しても対応できる──そんなチームになっていると言ったら、少しばかり大げさだろうか。

個人に依存しないチームだが、大迫の替わりはいない。

特定の個人に依存しないチーム作りのなかで、取り替えの効かない選手もいる。
大迫勇也である。背番号15を背負う27歳は、「屈強」という表現を自動的に使いたくなるオーストラリアのDFを相手に、ほぼパーフェクトなポストワークを披露した。サポートが少ないなかでロングボールを受ける局面でも、身体のバランスを崩すことなく、次のプレーにしっかりとつなげることのできるパフォーマンスは、選手同士の距離感や連動性の不足を見事なまでに補っている。彼自身はゴールを奪うことができなかったものの、別格の存在感だった。
最終予選突破の立役者として、酒井宏樹の名前もあげておきたい。
内田篤人が長期離脱中のチームで、この27歳は出場停止だったアウェイのオーストラリア戦を除く8試合に先発している。一つひとつのプレーは必ずしも観る者を納得させるものでなく、ときにため息を誘うシーンはあるものの、右サイドバックのスペシャリストが彼以外に見当たらないメンバー編成が続いたなかで、チームを下支えしたのは間違いないはずだ。

世代交代だけでなく、予選の戦い方の新機軸。

W杯出場を決めるまでは経験を何よりの拠りどころとし、そうした采配を容認する傾向の強かった日本の価値観を、ハリルホジッチ監督は今回の最終予選で覆した。選手起用が失敗につながることはあったものの、黒星スタートのチームはW杯に出場できていない、W杯予選ではオーストラリアに勝っていない、といったデータを打ち破り、新たな世代の台頭をこの段階で促したのは評価されていい。
ロシアW杯へ向けたプロセスでも、不測の事態に直面するかもしれない。そのようなことがあっても、ハリルホジッチ監督のチームはすでに苦境を乗り越えてきた。今回のオーストラリア戦と同じように、意欲的に、勇敢に、大胆に戦うことを、選手は、サポーターは、メディアは、受け入れることができる。求めることもできる。そうした雰囲気は、ピッチに立つ選手たちの自信を強く太くする。
6大会連続6度目のW杯出場を決めたオーストラリア戦は、単に世代交代を印象付けただけでなく。「最終予選をどうやって勝ち抜くか」という意味においても新たなページを開くものだった。
日本サッカーは、歴史の転換点を迎えたのだ。

提供元:Number Web

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