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東大病院長「がん治療の選択、相当数の患者が担当医に方針を任せている」


『ドキュメントがん治療選択』著者の金田信一郎氏のかつての主治医であり、東京大学医学部附属病院の瀬戸泰之病院長。インタビューは2021年5月20日に実施(Photo:HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN)

進行の食道ガンステージ3を生き抜いたジャーナリストの金田信一郎氏が、病院と治療法を自ら選択して生き抜いた著書『ドキュメント がん治療選択』。本書で金田氏が最初に入院し、治療方針に違和感を抱いて逃亡するのが東大病院(東京大学医学部附属病院)です。当時、主治医を務めた病院長の瀬戸泰之先生と“東大逃亡”後、初めて語り合い、治療方針などの疑問をぶつけていきました。第2回はがん治療の選択方法について。瀬戸先生は「実際には相当数の患者さんが、先生にお任せしますと言う」と語りました。(聞き手は金田信一郎)

■東大病院長の「がん治療選択」01回目?「東大病院、開胸しない世界初の食道がんダヴィンチ手術に挑戦したワケ」

――瀬戸先生はウェブサイトで、「放射線治療の進歩や、分子標的薬の導入などにより、手術の役割が相対的に小さくなっていると考える方々が昨今多いかもしれない。手術だけで治すことが難しい方もいるし、様々な手法を組み合わせた集合的治療が必要な方もいる。だから、それらの治療を否定するわけではなく、いかにうまく組み合わせて行うかだ」という内容のことをおっしゃっています。ステージ3ぐらいまでは手術が標準治療になっています。これからも、標準治療は手術でやっていくのでしょうか。

瀬戸泰之先生(以下、瀬戸) そうだと思います。化学療法や放射線治療の専門家も、「手術がなくなることはない」と思っています。それぞれの役割や特性がありますから。患者のみなさんは、「放射線はどうですか」「抗がん剤はどうですか」と聞きますし、私たちも放射線や抗がん剤も実施しています。ただ、それらと手術は役割が異なります。患者のみなさんはつい、これらを混同してしまいがちで、誤解されることも多いように感じます。

抗がん剤をなぜ実施するかというと、それは全身に(薬の効果が)行き渡るからです。目に見えないところまで薬を届けることができます。手術と放射線だけでは、全身に薬を届けることは絶対にできませんよね。

――局所、局部に効果がある治療ですね。

瀬戸 では、手術と放射線では何が違うかというと、放射線は患部を取り出すことができませんから、(組織の)顕微鏡検査はできません。ですから放射線は、基本的にがんのあるところに向かって当てます。それによってがんが小さくなったら、「効果がある」と判定するわけです。ただ放射線は、広範囲には当てられませんから、ポイントに当てるには有力な治療と言えるでしょう。

一方で、手術ではがんの周囲にあるリンパ節も一緒に取り出して、「転移がありました」「ありませんでした」という話ができます。これは放射線ではできません。これらを一緒に考えるから、どうしても誤解が生じてしまうのです。

――それぞれの治療の特性と、患者の状態によって、「これをやるべきだ」というのは変わってくるということですよね。

瀬戸 その通りです。

――私の場合、東大病院で、「抗がん剤3クールやって手術」ということで、1クールを終えたところでセカンドオピニオンによって、がんセンター東病院に移りました。そこで抗がん剤2クール目から再開して手術の直前までいったんですけど、放射線に切り替えて治療を終えました。思い返すと、最初から放射線でやるという選択肢はなかったんですか。

瀬戸 その可能性もあります。患者さんが希望すれば、そういった選択肢もあるでしょう。ただし、放射線治療は患者のみなさんが思うほど、患者さんに優しい治療ではありません。体の中にヤケドを起こすわけですから。

また、手術との最大の違いは、(がんを)取り除くわけではないので、がんがきれいに消えたように見えたとしても、また出てくる可能性があります。たとえコンプリート・レスポンス(完全奏効)で消えたように見えても、私たちが全国調査した結果では、4割程度はまた(がんが)出てきました。患者さんは、「再発したら手術をすればいい」とおっしゃいますが、放射線を当てた後の患部は組織が硬くなっているので、手術が難しくなります。

――リンパ節も剥がしにくいといいますね。

瀬戸 食道は肺に囲まれていますから、手術そのものは大事になってしまいます。ただ放射線治療では肺にも放射線が当たってしまうデメリットがあります。また放射線治療だと「晩期毒性」といって4〜5年たってから後遺症が出ることもあります。放射線を被ばくしているわけですから。つまり放射線と手術では、やはりそれぞれの特徴と役割があるのだと思います。

――そうすると、患者が、最初の段階で「放射線治療をやりたい」と言わないといけない、ということですか。

瀬戸 そうおっしゃる患者さんもいらっしゃいます。ただ我々は、「この段階ではまず、抗がん剤を受けていただいて、手術することをお勧めします」と説明しています。それでも患者さんが「私は放射線治療を受けたい」とおっしゃれば、その思いを尊重して、放射線科を紹介しています。それでも、我々の方針は方針としてきちんとお伝えしています。

――いずれにしても、患者が医療について分かっていないと、できないことになるわけですね。

瀬戸 そこが難しいポイントです。我々が患者さんに「どうしますか」と聞いたら、きっと患者さんは困るはずです。

――最初の段階で、医師が「放射線もあります」と言うと、かえって混乱するという意味ですか。

瀬戸 私たちは、我々の方針を説明しています。金田さんが東大病院に入院して、がんセンター東病院に転院して、最終的に放射線治療を選んだのは、まず抗がん剤治療を受けて、しっかりと考える時間があったからではないでしょうか。

――その通りです。

瀬戸 患者さん一人ひとりに考える時間がないと、難しいですよね。

――そうなんです。考える時間がないと分からないんです。1ヵ月ぐらいだったら、恐らく手術前に仕事を片付けることに必死になっていて、何も考える時間がなく手術を受けていただろうな、と。抗がん剤が3クール9週間あったので、なんとかギリギリ、その間に考えることができた。そもそも自分の病気の状態すら分からなかったんで。その経験から、ほかの患者さんは大丈夫かな、と思ってしまいます。

瀬戸 ただ、患者さんにもいろいろなタイプの人がいらっしゃいます。金田さんのように自分でしっかりと調べて考える患者さんもいれば、「先生に全部任せますよ」という患者さんもいらっしゃいます。そして、実際には相当数の患者さんが「先生にお任せします」とおっしゃるのです。

もちろん、中にはいろいろと勉強をなさって、「放射線という可能性はありませんか」「自由診療でもいいから、もっといい治療はありませんか」と質問する患者さんもいらっしゃいます。そう聞かれると、私たちはそれぞれ対応しています。
(2021年8月18日公開記事に続く)

提供元:ダイヤモンド・オンライン

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