中学教師が実際に行っていた「美術の授業」を再現した『13歳からのアート思考』。「ものの見方を広げる力」や「自分なりの答えを見つける力」など、現代に必要な力を育むことができると教育関係者のみならず、多くのビジネスパーソンからも熱い注目を集めています。
最終回となる今回は「日常生活のなかで、簡単にできるアート思考の磨き方」について聞いてみました。ほんの少し意識を変えるだけで、世の中が変わって見えたり、「自分のなりの視点」を持つことができるようになる、とっておきの方法です。
(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/小杉要)
純粋に「作品だけ」を味わうのに
うってつけなアート作品とは?
――アート思考にとって大切なのは、作品そのものではなく、アーティストがそれを完成させるまでに至った探究過程だと伺ったばかりで恐縮なんですが、少しだけ作品のことについてもお伺いさせてください。まず、末永さんご自身がいちばんお好きな絵は何なのでしょうか?
末永幸歩(以下、末永) それはときどき聞かれるんですが、私はまず特定のアーティスト以前に、「子どもが描いた絵」が好きですね。教員として軽度知的障害の特別支援学級で働いたこともあるんですが、そういった人たちが描く絵にもすごく心惹かれます。
『13歳からのアート思考』でも書いたのですが、たとえば「らくがきをしてみてください」と言われたら、たいてい大人は「何を描こうか……」と考え込んでしまいます。無意識に「『何か』を描かなければいけない」と思い込んでいるからです。
同様に、子どもが描いた絵を見たときに「これは何を描いたの?」「お花?」「お家?」などと聞いてしまうでしょう。
でも、「何か、具体的なイメージが描かれているもの」だけが絵画かというと、そんなことはありません。実際には子どもは「何か」を描こうとしたわけではなくて、ただ手を動かしているだけってことも多いですよね。そういう子どもの絵には、ものすごく解釈の余地がある。見方によってとてもおもしろくなる奥深さを秘めています。
本のなかでも一つのテーマとして取り上げているのですが、「作者が何を意図して描いたのか」という、いわゆる「背景とのやりとり」ではなく、そこにある作品だけを観る「作品とのやりとり」という鑑賞方法をするときには、子どもの自由な絵がうってつけですね。...