- ――全国ツアー『坂本真綾 LIVE TOUR 2011“You can't catch me”』が始まりますが、10本やるツアーは初めてですね。
- 【真綾】 おととし『かぜよみ』ツアーをやって、そのときは3公演だけで、“もうちょっとライブをやりたい”という気持ちになりました。思い浮かんだのが、一つは日本武道館のような大きいところで、たくさんの人に観てもらえるライブ。もうひとつが、ライブハウス規模の小屋で数を回るツアーだったんです。
- ――前者が昨年の誕生日に形になって、今回は後者が実現する感じ?
- 【真綾】 本当は「全国40ヶ所ぐらい回りたい」と言ってたんですけど、さすがに(今までの最高本数)3本からいきなり40本はハードルが高いということで(笑)、10本になりました。
- ――単純に、数をこなしたいと?
- 【真綾】 そうなんです。たった3本のツアーでも、どんどん変わっていくことがあって、ライブは育っていくものなんだなと。もっと長く回ったら最初と最後でどう変わるのか、すごく興味がわきました。
- ――その“変わっていくこと”とは?
- 【真綾】 お客さんの反応、表情、間合いとかによって、自分がよく知っている曲なのに、何か違って聞こえる瞬間が出てくるんです。レコーディングは私にとっては個人的な作業。多くの人に向かう意識で歌ったことはないし、独白的な部分があって。それが多くの人の前に立ったら、届いてることを体感できました。“みんな、こうやって私の歌を聴いてるんだ”って。それを感じながら歌うと、詞を歌うというより、言葉にその時々の想いが乗るというか。その日そのステージでないと出てこない何かが、瞬間的にパッ、パッと現れる感覚があったんです。
- ――昔の真綾さんは、あまりライブをやらないタイプでしたよね。
- 【真綾】 初ライブは私が“やりたい”と言って動き出したわけではなく、バンドから何から全部用意してもらったところに立つだけという、ゲスト感がありました。自分のライブなのに。当時はそこに立って歌うだけで精一杯。“CDを聴いてもらったほうが伝わる”とも思っていて。もともと歌を独白と考えている部分があったから、人前で「みんなー!!」みたいなテンションにはならないし(笑)。何もかもどっちつかずのまま終わったのが、その頃のライブだった気がします。
- ――そこから『かぜよみ』ツアーまでに、ライブ観がどう変遷したんですか?
- 【真綾】 1回1回達成感はあって、階段を上がってきましたけど、自分から「ライブをやりたい」と手を挙げる勇気はなくて。それを初めて言ったのが『かぜよみ』ツアー。自分がフロントに立ち、お客さんもバックもスタッフも集める求心力を持つ自信がずっとなかったんですが、長年歌ってきて、やっと“今ならできる”と。でも、もしうまく行かなければ、もうライブはやめればいい――という気持ちで臨んだツアーでした。
- ――そしたら、目覚めたわけですか。
- 【真綾】 そこで私は初めて、ライブというものを理解したんだと思います。デビューから10年、温室で栄養をいただいてスクスク育っていたのが、制作環境がガラッと変わって、自分で外に出て畑を耕すことで精一杯。13年目にやっと“そろそろライブを”という気持ちになったのは、かなりマイペースかもしれないけど(笑)、私のなかでは自然な時間経過だったと思います。
- ――さっきの「みんなー!!」みたいなテンションにならないと――という部分は、今はどう消化しているんですか?
- 【真綾】 武道館ではさすがに「イエーイ!!」とか言わなきゃいけないかと思いましたけど(笑)、いつもの自分で大丈夫だったのは大きな自信になりました。自分が自分としてドッカリしていれば、どんな会場でどんな人数でも平気。無理に何かする気持ちは、もう全然ありません。無理加減が見えたときの恥ずかしさのほうが怖い(笑)。いかに自分らしさを出せるかだけ考えます。
- ――今度のツアーでは、やはりアルバム『You can't catch me』の曲が中心ですよね。
- 【真綾】 そうですね。ツアーを念頭に起きながらアルバムを作っていた部分もあるので。だからバンドっぽい曲も多いんですけど、今回のツアーではどうしてもツインギターにしたくて。その形で再現できる曲を、アルバムでもなるべく入れました。
- ――今の時点で、ツアーの課題や目標と考えてることはありますか?
- 【真綾】 武道館は特別で、サプライズ、派手な衣裳、面白いセッティング……とありましたけど、今回やってみたいのは、そういうことをしなくても特別なライブにできるはずだと。サプライズや演出でなく、音のなかでみんなが満ちていくような。全会場がいい空気で満ちるように、集中力を持って臨みます。
(文:斉藤貴志)