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園子温監督 映画『地獄でなぜ悪い』インタビュー
殺されかけた実体験を盛り込んだ
園今回の脚本を書いていた17〜20年くらい前に、たまたま『丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる』(1989年)を観たんです。そこで紹介される天国の世界=天界は、合掌したり、花を植えたり、とにかく退屈そうなところで。かたや地獄では日夜こんなに恐ろしいことが……、新宿のゴールデン街みたいな場所で、うらぶれた男たちが女の子たちと一緒に酒を呑んでいて。地獄の方がおもしろそうでいいなあって(笑)。
――作中、長谷川博己さん扮する、永遠の映画少年・平田のセリフにも「イヤな感じのする方へ行った方が人生は楽しいのさ」という名言(迷言!?)がありましたね!
園平田は当時の僕の分身です。「俺はいい映画を撮って死にたいんだ」って、あの頃は本気で思っていましたから! まあ20年前の自分なんて、ある意味別人ですよね(笑)。ト書きの書き方から今とは全く違っていて、改めて読むと、我ながら新鮮でした。“へぇ、おまえって意外と真面目なんだな”なんて感覚で、演出も客観的にしていました。青臭いセリフをちょっと恥ずかしく思っても、脚本家の意見を尊重しようと。ストーリーは基本的に昔の台本のままです。今、この映画を撮る意義なるものとして、新たに手を加えたのは、初めて映画製作に乗り出すヤクザが(プロの映画の証である)照明機材や録音機材などの大がかりな準備に右往左往しつつ、35ミリフィルムで映画を撮る一方で、映画館から映写技師が去っていくという、フィルムからデジタルへ映写システムが切り替わる歴史的瞬間を捉えたエピソードだけ。そうそう、星野源くんが演じた、ひどい勘違いから映画監督に祭り上げられてしまう公次もまた、僕の分身なんです。昔、組長の娘と知らずに手を出しちゃって、殺されかけた僕の実体験を盛り込みました。ま、星野くんほどにはビビってなかったけどね(笑)。
――長谷川さん、星野さんをはじめ、友近さん、國村隼さん、堤真一さん、メインキャストには新しい顔ぶれが揃いましたね。
園今回のキャスティングには、意外性が欲しかった。園子温とはまず組まないんじゃないかっていうひとで、さらに“園っぽいね”っていうカラーのない役者と一緒に、映画を作りたかった。そもそも“園ってこういうひとだよね”って言われるのが、いちばんイヤなんです。“園っぽい映画だよね”と言われるその向こう側、もっと先へ行きたいといつも思っています。大好きなピカソのように、タッチがガンガン変わっていく人間でありたい。
責任をもってイメージを壊してあげたい
園二階堂さんともう一度組むのであれば、他の人には絶対に発掘できない、でも僕は知っている、彼女のエロさとか、アクションをやったらカッコいいだろうなっていう部分を引き出したいと考えていました。『ヒミズ』で深刻なイメージを定着させてしまったので、責任をもってそこは壊してあげたい。役者の幅をもっと広げてあげたいなって。この台本を書いたときには、彼女はまだ生まれてさえいなかったわけだけど、世界レベルで王道の役者というか、本当に貴重な存在だと思っています。今回の撮影前に二階堂さんを109へ連れて行き、衣裳をバチッと決めたとき、彼女が「これで役になれる気がする」ってつぶやいたところで、演出の仕事はほぼ終わりました。長谷川くんが着ていたカンヌTシャツも、僕が作ったんです。衣裳はけっこう大切なモチーフですね。
――クライマックスのアクションシーンでは、監督が率先して血まみれになっていたのだとか?
園1週間くらい武家屋敷で撮影しているうちに、血の量がたまっていったらおもしろいなと思い始めて。どんどん血を足していったら、プールみたいになった(笑)。色味にも飛び散り方にも、血にはこだわりましたね。日本映画離れした血にしたかったんで。こう斬られたら、どういう風に血が飛び散るのか? 美学的なつながりを考えていくと、自分でやらないと気が済まなくなっちゃって。美術スタッフに任せるのではなく、自分でまき散らしていましたね。アクションは、ジョン・ウーやジョニー・トーの香港映画の信念で撮り切りました。何度撃たれても蹴られても、生きている! あのふたりの香港映画が存在する限り、平田も絶対に死なないぞ!! って(笑)。3.11以降『ヒミズ』『希望の国』と震災に触れる映画を連作で撮り、被災地で上映すると、被災地の人たちは「映画を作ってくれてありがとう」とは言ってくれるんだけど、どこか悲しそうな表情をしていたんです。そのとき、次に撮る映画は、明るくて楽しくて、何にも考えなくていい、コーラやビールの似合うポップコーン・ムービーを作ろうって。そんな気持ちから始まった映画です。頭を空っぽにして、大音量と大スクリーンで映画を観た後は“楽しかったね! じゃあ飯でも食うか!!”って、そういう映画を作りたかった。
――だから、タイトルこそ“地獄”なのに、とっても楽しい気分になるんですね!
園2年前に結婚した女房(女優の神楽坂恵さん)が、花を生けるとか、傍から見るとちっともおもしろくなさそうなことが好きなひとなんですよ。20年前はたしかに“地獄でなぜ悪い”と思っていたけれど、今はもう“天国でなぜ悪い”って思っています! 女房と一緒にお花畑に花でも植えて、合掌でもしてればいいやーって。僕の場合、私生活がストレートに作品に影響するので、最近は子どもたちに見せたい、かわいい映画を撮りたいなあなんて。楽しみにしていてください(笑)。
(文:石村加奈)
【『地獄でなぜ悪い』3週連続インタビュー】
@ 二階堂ふみ『わがままだったけどそのときできることを』
A 園子温監督『“園っぽい映画”の先へ行きたい』
B 長谷川博己『映画の神様が降りてきたんじゃないかって(笑)』
映画情報
関連リンク
・Vol.3 長谷川博己「映画の神が降りてきた」
・驚愕の血みどろアクション映画予告編
・『地獄でなぜ悪い』公式サイト