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韓国ミュージカル特集『若者文化の発信地、韓国・テハンノで活況を呈する創作ミュージカル』

映画や音楽などで世界にその名を響かせている韓国エンターテインメントだが、この10年でじわじわと育まれ、今まさに韓国国内で活況を呈しているのが、小劇場を中心にした創作ミュージカルだ。これからアジアへ、そして世界へ打って出ようとする新たなエンタメシーン事情を探りに現地入り! ヒット作を連発する新鋭演出家チャン・ユジョンと、日本でもドラマ『蒼のピアニスト』でおなじみの若手俳優チ・チャンウクも直撃した☆

若い才能を続々輩出!先鋭的な演劇文化の発信地・テハンノ

 もともとソウル大学があり学生たちが集っていた若者文化の街、ソウル市内の大学路(テハンノ)。現在ここには50を超える小劇場(200〜300席ほど)が集まり、若いクリエイターたちが演劇を通して新たな芸術文化を発信する街としてにぎわいをみせるほか、オシャレなカフェやショップが集まるデートスポットとしても若者たちを惹きつけている。

 日本でいう東京・下北沢のようなイメージの街だが、圧倒的に異なるのはそこにある劇場の数。街に来てから、ポスターを見たり、実際に劇場周りに足を運んで観る作品を決める多くの20〜30代の演劇ファンは、おもしろそうな作品を探して目を輝かせながら街を散策する。また、デートで街を訪れていた学生たちは、気が向けばふらっと当日券を求めて劇場に入る。人気作品の劇場前には、チケットを求めて観客が行列を作るといった光景が見られ、それぞれの劇場では平日の公演でも満席になる演目が少なくない。常日頃からそんな活気、エンターテインメントへの熱気にあふれているのがテハンノだ。そして、そこに集う若者たちは、そんな距離感で日常的に演劇に触れることで、自然にエンターテインメント感度を高めている。

 そんなテハンノで今活況を呈しているのが、オリジナル脚本による少人数のキャストで上演される小劇場創作ミュージカルだ。キャストは2〜5人ほどが通常で、多い演目でも10人ほど。2〜3人のキャストの演目では、マルチマンと呼ばれる一人で10〜20役ほどを演じる俳優がいるお芝居も多く、そのマルチマンが笑いのポイントになってステージを盛り上げる。また、その劇中では、クイズショーが行われたり、キャストが通路を練り歩いて観客に花を配って言葉を交わしたり、お芝居の歌と踊りを楽しみながら、キャストとのコミュニケーションがあるのも小劇場という空間のなかでのミュージカルならではの楽しみのようだ。

 こうしたテハンノの創作ミュージカルに出演している俳優たちは、ミュージカル俳優と呼ばれ、大学で演劇を学んでいる学生から、俳優としてデビューしてからレッスンを受けてミュージカルを志す人たちまで幅広く、層が厚い。上演されている演目が多いぶん、俳優の数も多いのだが、一部の映画やドラマにも出演している俳優を除けば、ほとんどがこの街でいくつもの演目をかけもちしながら、ミュージカルを中心に活躍している俳優たちだ。

 テハンノには、作品自体に興味を持って劇場を訪れる観客が多いが、なかには特定のミュージカル俳優のファンになって追いかけるようになるひとたちもいる。終演後の劇場外では、出待ちのファンのもとに俳優たちが駆け付け、一緒に写真を撮ったり、サインをしたりと和やかな雰囲気に包まれる。また、夜の街を歩くと、作品をかけもちで出演して劇場を移動中の俳優とばったり出会ったり、居酒屋やバーではクリエイターや演劇関係者があちこちで集まっている。映画祭などで見られる光景だが、ここではそれが日常。日本からも創作ミュージカルを観るためにテハンノを訪れる若い人たちが増えているというが、エンタメに包まれるこの街の独特の空気が、感度の高い若者たちを惹きつけている。

 こうした小劇場創作ミュージカルのチケット代は、演目によるが日本円で3000〜5000円ほど。映画(500〜800円)に比べると割高だが、ライブのミュージカルを観劇できる額としては、若い世代が身構えることなく気軽に楽しめる範囲だろう。

韓国で小劇場創作ミュージカルが活況を呈する背景

 現在、テハンノの小劇場で上演されている演目の約8割が創作ミュージカルであり、残りが舞台(ストレートプレイ)や音楽など。なぜ創作ミュージカルが多いのかというと、韓国ではミュージカル公演の歴史が浅く、ここ10年で急激な成長と発展を遂げてきていることがある。大手映画会社であり、演劇に関しても制作や劇場運営において最大手の1社であるCJ E&Mが、演劇制作を事業として立ち上げたのは2003年。海外ライセンスの大型ミュージカル(『マンマ・ミーア!』)を手がけ、その成功を受けて、2006年からオリジナル脚本による小劇場の創作ミュージカルの制作をスタートさせた。

 大型ライセンスミュージカルの成功で生まれた新しいマーケットに対して、韓国オリジナルのミュージカルを根付かせようとする制作者側の動きに対して、もともと国立大学に演劇学科を設けるなど俳優やクリエイターの育成からエンタメ振興に積極的だった政府も支援を行った。まず、公演を見せる場所を増やすための劇場の設立に対して支援が行われ、さらに公演活性化事業として政府機関の創作ファクトリーは、若い才能を発掘するためのコンテストを開催し、そこから選ばれた作品、作家に支援を行っている。

 ちなみに創作ファクトリーでは、最初の公募を通過した作品に対して、セリフと歌だけで行うリーディング公演を実施。そこから選ばれた数作品は1000万円ほどの支援を受けて、ダンスや舞台設備も入る2週間ほどのショーケース公演へと進み、そこで商業的な本公演に向けて出資者を募る。この間、劇場やSNSなどでの一般客とのコミュニケーションも図られ、作品は常にブラッシュアップされていく。

 こうしたコンテストは、CJ E&Mをはじめとする舞台制作会社でも行われ、若い才能を発掘しようとする積極的な動きが業界的にあり、クリエイターを目指す学生や若い作家たちにとっては、作品を世に出すための間口が広くなり、チャンスをつかむ機会が多くなる。実際にこうした取り組みからは、先鋭的な作品や気鋭の若手作家が生まれ、後に大ヒットしロングランを続ける名作も誕生している。その代表作となるのが、すでに7回目の再演が行われ、映画化(2011年日本公開)もされている『あなたの初恋探します』。一方、当初はラブコメが多かったところが、現在ではより幅広いジャンルの作品が制作され、朝鮮戦争で孤立した兵士たちの姿をコミカルに感動的に描く『女神様が見ている』や、ロンドンの“切り裂きジャック”を描く『ジャック・ザ・リッパー』などが大ヒットし話題を集めている。

 今、そんな創作ミュージカルシーンで活躍しているのが、韓国ミュージカル黎明期に大型ライセンス作品を観て育った、30代のプロデューサーや演出家たちだ。テハンノのコンテストから才能を見出された彼らがオリジナル作品を世に放ち、その作家性の高い作品が若い世代の観客を呼び、時代の流れとともにシーンは大盛況をみせている。

 テハンノには、国のバックアップもあり、クリエイターにとっての充実した創作環境が整っている。そしてそこには人々が気軽に演劇を楽しむ文化が根付き、エンタメ感度の高い観客たちは自然とクオリティの高い作品を求めていく。制作者側はそれに応えるべく、整ったシステムのなかで新しい才能を発掘して育て、既存のものを打ち破る新しい作品を作り出し続ける。それが繰り返され、ここ数年のテハンノの活況ぶりは今やアジアから注目を集めている。今テハンノのクリエイターたちは、国内だけでなく海外進出も視野に入れた作品つくりを模索しているが、そこから生み出された作品のいくつかは、すでにシンガポール、中国、そして日本にも渡り、そこでも評価を得ている。

売れっ子演出家、人気キャストによる話題作が日本上陸!

 日本では、この4月から東京・六本木のアミューズ・ミュージカルシアターでこうした韓国の小劇場創作ミュージカルが上演されている。現地のミュージカル俳優がそのまま演じる公演は、もともとのファンに加えて、日本における新たなエンターテインメントとして注目され、エンタメ感度の高い層を劇場に集めている。

 現在、4演目目となる『兄弟は勇敢だった?!』が上演中だが、同作は今もっとも注目されている若手の売れっ子作家チャン・ユジョンが演出を手がけ、韓国で大ヒットした作品。さらに、現在日本で放映中のドラマ『蒼のピアニスト』(TBS系)でも人気のチ・チャンウクがメインキャストのひとりとして出演。普遍的なテーマである、家族の確執と愛を描く感動的な物語は、韓国創作ミュージカル初心者にもわかりやすく、今アジアが注目するそのクオリティとおもしろさを体感することができる。さらに、人気のミュージカル俳優たちをその目で確かめることができる絶好のチャンス!
(文:武井保之)


公演情報

兄弟は勇敢だった?!

韓国ザ・ミュージカル・アワードのベスト小劇場ミュージカル賞受賞作品。これまでに5回の再演を重ね、観客が選ぶ一番人気のあるミュージカルにも選ばれている。

ストーリー:
 兄のソクボンと弟のジュボンは父親の訃報を聞き、3年ぶりに安東の実家に帰ってくる。久しぶりの再会にもかかわらず、2人は会うや否や口げんかを始める。葬式が行われる日の夜、美しく神秘的な女性オ・ロラが兄弟を訪ねてくる。法律事務所から来たというロラは、亡くなった父親が宝くじの1等を当て、実家のどこかにその当選券が隠されていると告げる。

 見つけたものが賞金を独り占めしてもいいという遺言に、事業に失敗したソクボンと、就職に失敗したジュボンは、人生の逆転を夢み、宝くじとロラを手に入れるため壮大な兄弟げんかを繰り広げる。やがて2人がみつけた真実とは……。

作・演出:チャン・ユジョン
出演:キム・ドヒョン チ・チャンウク <7/30(火)〜 8/15(木)>
   キム・ジェボム チョ・カンヒョン <8/16(金)〜 9/1(日)>

公演スケジュール、チケット情報など詳細は【公式サイト】へ
(C)AMUSE

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