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(更新: ORICON NEWS

「岩下の新生姜は“漬物の船”から降りなけばならない」 岩下食品社長が全身ピンクに姿を変えたワケ

「ずっと前を向いて忙しく働けているのは、皆様に支えられているおかげ」56歳の誕生日にツイッターのフォロワーへメッセージを伝えた岩下和了氏

「ずっと前を向いて忙しく働けているのは、皆様に支えられているおかげ」56歳の誕生日にツイッターのフォロワーへメッセージを伝えた岩下和了氏

 「社長」=「偉い」――オーソドックスなイメージとしてこれは妥当だ。それでは「社長」=「ピンク」、これはどうだろう…? 全身ピンクのスーツ姿にピンクの髪色、そんなルックスの社長が繰り出すSNSのつぶやきが反響を集めている。『岩下の新生姜』の岩下食品株式会社社長・岩下和了氏(56歳)だ。長く連れ添った妻は「昔はハデなところがない人でしたから」と証言。そんな地味な性格の岩下氏が“どピンク化”したわけとは? ORICON NEWSのインタビューに「威厳はないかもしれないけど有無を言わさない迫力はあるんじゃない?」と岩下氏は笑う。

林家ペー・パー子を見て「負けてはいられない」社長“ピンク化”の背景

 「オフィシャルな場所ではネクタイをしなくちゃいけないとか、そういった社会的決まりごとも、ヒートアイランド現象がひどくなるに従って消えていきましたし、“オフィシャルとはこういうものである”という概念すら崩れ去っていっている。“こうじゃないといけない”という発想だけが、世間の流れからぽつんと取り残されている気がしています。もちろん悪目立ちはダメですし、冠婚葬祭などのTPOはわきまえますが、この全身ピンクの恰好が僕の正装です」(岩下氏/以下同)

 社長がここまでピンク化するのは「お客様に喜んでもらいたいから」。ただそれだけだという岩下氏。ネットではなぜか“やばい”、“狂気”という関連ワードとともに検索される『岩下の新生姜ミュージアム』のオープン時も、館内には新生姜の色にちなんで必然的にピンクのものを増やしていったという。
  • 『岩下の新生姜ミュージアム』外観。正面玄関前で、岩下の新生姜の巨大モニュメントが迎えてくれる

    『岩下の新生姜ミュージアム』外観。正面玄関前で、岩下の新生姜の巨大モニュメントが迎えてくれる

  • 見渡す限り『ピンク』な館内

    見渡す限り『ピンク』な館内

「お客様にはそれを喜んで頂けましたので、そこで私もピンクスーツやスニーカーを身につけるように。単なる“社長”だと、敷居が高いのか、なかなか話しかけてもらえない。ですが、私がピンクになることで、お客様が壁を感じず、気兼ねなく声をかけて下さるようになりました」

 そして2017年11月。『岩下の新生姜』記念日を制定した時にプレゼンターとして訪れた林家ペー・パー子を見て「負けてはいけない」と決意。昨年の7月、ファミリーマートと『岩下の新生姜』のコラボで髪までピンクにして動画コンテンツを配信。その翌月、千葉ロッテマリーンスタジアムで『岩下の新生姜』スペシャルナイターを開催。ピンク色の衣装が特徴的な阿佐ヶ谷姉妹との共演を果たし、ピンク髪を公に初公開した。

「ピンクの人たちを見ると、負けてはいけないという気持ちが沸き上がる。阿佐ヶ谷姉妹もピンクでしたので、完全に私も風景として溶け込んじゃって(笑)。自然に馴染んでお披露目できたのではないかと思っています」
 決して奇をてらったわけではない。そもそも岩下氏は元銀行マンで、ビジネスについては根が生真面目。目立つのも得意ではなく、地味な性格でずっと生きてきたという。「今でも地味ですよ! ただこのファッションをしてからミュージアムでお客様との距離が格段に近くなりました」。

すべては社長の個人アカウントから始動「SNSは戦略ではなく、気持ちを伝えるもの」

 岩下氏といえば、SNSで『岩下の新生姜』について感想を投稿すると、見つけ次第、すべて「いいね」をする人物としても知られている。本来であれば企業アカウントで対応することも、岩下氏の個人アカウントで行っている。SNSに力を入れているのは「新しい層を囲い込みたい意図でも、若者向けの戦略でもない」と岩下氏。

「2000年頃から漬物業界は下降の一途です。減塩志向もありますが、そもそも若者が食べたがらない。『岩下の新生姜』は年配の購買者が多い商品です。しかし、メイン顧客とは言えない若年のSNSユーザーも、世界に向けて好きだと発信してくださっているお客様に変わりはありません。お礼の気持でコミュニケーションを取り、ご意見を反映させていきました。タダで宣伝してくださっているわけですから、お礼の気持ちしかないですよ。また、そもそも私自身、作為的にお客様を動かそうという思考が嫌い。自然に好きになってもらう、その魅力を作り上げていくのが私共の仕事」

 岩下氏がTwitterを始めたのは約10年前。『岩下の新生姜』は元々、日本の漬物業界で『きゅうりのキューちゃん』に次ぐ知名度を誇っていたが、さらに『岩下の新生姜』ファンの客、メイン購買層の中高年、SNSで宣伝してくれるユーザーを大事にした結果、10年前と比べて約2倍の売上を達成することができた。86歳の彼の性格をよく知る母親も、ピンクの息子を見て「一生懸命やっているね」と応援してくれていると言う。

 あまり語られてないことに、これには岩下氏の音楽体験が原風景のように存在する。「実は30代から40代前半は精神的にもきつかった。割と暗黒で、ただ音楽だけはずっと支えてくれた。救いになりました。人間って、すごいものを見た、体験した時に胸の奥から叫びたくなるような衝動がありますよね。僕にもそういった体験があるからこそ、その大事さはよく理解していて、『岩下の新生姜』に関しても私のPRにしても、お客様の感動体験という意味ではまだまだだと思う」

 生真面目すぎるがゆえに商品のクオリティに命をかけ、そして自身もピンクにならざるを得なかった。「このピンク髪、ピンクスーツも、正直どうかと思いながらやっているところはある」。ピンクについては成功か、迷走か、その答えは社長自身、まだ決めきれない。

“漬物”と定義するのではなく、その“本質”を見てPRしていきたい

 岩下氏はこうも口にする。「岩下の新生姜は“漬物”という“船”から降りなければならない」。決して同商品が“漬物”と呼ばれることに抵抗があるわけではない。

「安易に漬物という言葉で表現し、『岩下の新生姜』は漬物だからと考えていると、逆の思考停止が起こることが怖くなったんです。漬物のイメージを離れた時に『岩下の新生姜』の本質が見えてくるのではないか。例えば、妊婦の方にとっては、つわり中でもさっぱり食べられる食品だったり、シンプルに生姜であったり。イメージを取り払うことで、ピンクの可愛い商品、或いは食材という側面・特徴も前に出てくる」

 漬物のイメージから離れる。チャレンジングな表現だが、岩下氏は漬物という伝統食品が置かれている現状を次のように語る。

「単に“漬物”と定義するのではなく、どういう位置づけでどういうコミュニケーションでお客様にPRしていくかが大事だと考えました。伝統食品の場合、そのイメージは非常に狭い価値観のなかで、高付加価値のあるものとして捉えられがちで、それを満たしたとしても、必ずしも世界が広がり、ユーザー層が広がるものでもありません。むしろ、伝統食品という枠から一旦抜け出した方が、広がりのあるチャレンジができる。枠組みから外れたほうが、いろんな可能性があると痛感しています」

全身“どピンク”の姿で生真面目に、地味に、『岩下の新生姜』について熱く語る岩下氏。思考停止的なカテゴライズ・決めつけではなく、重要なのはその“本質”。彼のピンク髪からは現代社会への問題提起の風も感じられた。

取材・文=衣輪晋一

【岩下の新生姜】岩下食品(外部サイト)
岩下和了氏Twitter:@shinshoga(外部サイト)

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