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高橋優、感情と妄想のギャップを歌い続けた10年「幸い、僕は満たされた経験が少ない」
コロナ自粛が自身と向き合う機会に “人様に見せるのもおこがましいような自分を曲に”
タイトルの“one stroke”は、「いち移動」「ひと羽ばたき」「泳ぎのひとかき」といったニュアンス。自身の「ひと羽ばたき」を言葉に言い換えるとどんな楽曲になるか、ということを考えることから曲作りはスタートした。思い入れが強いのは2コーラス目。敢えて言葉を整えず、自身の想いを解放し、荒削りなまま表現したのだと言う。「ちょっとヒリヒリした言葉が散りばめられたのかなと思っていて。歌っていて感情が乗っちゃう部分でもありましたね」
「自粛中は家でアルバム用の曲作りに没頭していました。そのうち、目線が改めて内面に向いてきて。結果、自分の外側で起きている出来事に対して、内側で渦巻いていたものが表出してきたんです。しかも、これまで向き合ってこれなかった気持ちが。例えば、有名画家のムンクの『叫び』という名作絵画がありますが、不安や恐怖を表現しているものの方が、何か魅力が生まれてきたりするのではないかとも思うんです。デビュー当時から実はずっと持っていた、人様に見せるのもおこがましいような、そんな自分を落とし込んだ曲がたくさん生まれたように思います」
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ヒット曲を出しても、ファンが増えても、過去の自分に満足することなく高橋の目は常に次なる自分を探している。数年前に、デビュー以来初めて曲が書けない時期があったという。その時、「余裕が出てきた自分が怖くなった」と彼は語っている。余裕があれば曲も書きやすいのではないかと安易に想像したが、「むしろ逆」との答えが返ってきた。
1曲を作り上げるのにどれだけの感情とエネルギーを費やすのかは計り知れない。それでも、常に新しいものを吸収し、自他ともに疑問を抱き続けることが、新たな音楽の放出に繋がっている。自身の立場や周囲の評価が変わろうとも、相手が誰であろうとも、普段の生活からその真摯な姿勢は変わらない。
これらの源泉は幼少期にまで遡る。高橋少年は、例えばテストで低い点を取った時、大人の蔑んだ目に気づいた。悔しい。でもそんな想いを抱えていても仕方ない。そこで高橋が取った手段は「自分を褒め称えている人の絵を書くこと」だった。高橋は「気持ち悪い子どもですよね」と自嘲する。
「でも書いていたりすると、次から次へと新しい発見があるんです。自身の考えのディティールが見えてくる。そのうち、思っていたことと書いていることの間にギャップが生まれる。でも悔しいという想いのままで曲を書いていたら、それは悔しい曲にしかならない。おかしな言い方になるかもしれませんが、そこで生まれたギャップが僕の“歌”になるんです。だから自分が思っていたことをそのまま書けることはあまりないんですけどね(笑)」