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(更新: ORICON NEWS

加瀬亮 SPECIAL INTERVIEW 時代も年齢も関係なく共感できる感情がある

『二十四の瞳』など数々の名作を生み出した木下惠介監督の生誕100周年を記念する映画『はじまりのみち』。日本を代表するアニメーション監督であり、木下監督を敬愛する原恵一監督が、自ら手を挙げて実写映画に初挑戦した今作は、製作者側の高い熱量がしっかりと映像につめこまれた映画史に残る名作となった。そんななかで木下監督役を演じたのが名優・加瀬亮。実話をもとにした今作を演じて心に湧き上がった想いとは――。

木下作品への思いを凝縮した青年像になっている

──加瀬さんは木下惠介監督の作品をはじめ、昔の日本映画はよくご覧になるんでしょうか?
【加瀬】 成瀬巳喜男監督や川島雄三監督など、好きな監督の作品は観たりしています。でも、木下惠介監督の作品は5〜6本しか観たことがなくて、今回のお話をいただいてからまとめて観ました。最初に観たのが『カルメン故郷に帰る』と『カルメン純情す』だったのですが、自分の作品なのに続編で前作の世界観を壊すようなものを撮っているということに驚きました。作品によって本当に作風が異なっていて、挑戦的な監督だなという印象です。

──それ以前は木下監督にどういうイメージを持っていましたか?
【加瀬】 以前、山田太一さん原作のドラマに出演させていただいたときに、山田さんの著作をたくさん読んだのですが、そのなかに師匠である木下監督がよく登場するんです。辛辣なところがあるということが書かれていて、少しクセのある人なのかなと思っていました。今回、木下監督役を演じることになって、資料やドキュメンタリー映像、著作、監督について書かれた本、DVDなどでリサーチしましたが、アメリカのジョン・ウォーターズ監督(※)の若い頃に通じるものを感じましたね(笑)。辛辣ですし、クセ者ですし……好奇心旺盛で、挑戦的で、純粋で。ただ、今回いただいた脚本とは合わないようにも感じました。原恵一監督は、もしかしたら木下監督ご本人に忠実に似せることを望んでいないのではないかと思って、確認したんです。そうしたらやっぱり「似せる必要はまったくない」とおっしゃられて。原監督の木下監督への思い、それと木下作品への思いを凝縮した青年像になっているんだと理解できました。いろいろリサーチはしましたけど、結局それは横に置いて、台本から役を考えていくようになりました。
※ジョン・ウォーターズ:『ピンク・フラミンゴ』(1972年)などの過激な作品でコアなファンから支持を受けるアメリカの映画監督

──原恵一監督の第一印象は?
【加瀬】 変わった人だなぁと(笑)。お会いした当初は、言葉数多く話す方ではないので、何を考えていらっしゃるのか読めなくて。本音をなかなか聞き出せない気がしたので、撮影の前に何度か会う機会を作っていただきました。もともと原監督の作品は大好きだったんです。『クレヨンしんちゃん』シリーズ、とくに『戦国大合戦』が好きなんですけど、その後も『河童のクゥと夏休み』や『カラフル』ももちろん観ていました。初めての実写ということですけど、原監督はすばらしい監督だというイメージしかなかったので、不安などまったくありませんでした。原監督は現場で戸惑っていたとおっしゃっていたんですけど、僕にはそういうところはまったく見えませんでした。

自分に当てはめて考えたところがたくさんある

──加瀬さんは兄役のユースケ・サンタマリアさん、何でも屋役の濱田岳さんとの共演シーンが多いですね。
【加瀬】 本当にふたりには助けていただきました。濱田さんは映画のなかだとひょうきんなイメージですけど、実際はすごく真面目な方でプロフェッショナルという感じでした。ユースケさんは現場の盛り上げ役でもあって。「寒い」って言いながら、カイロを20個ぐらいつけて歩いてたりしていました(笑)。

──田中裕子さんとのラストシーンが感動的でした。親子役を演じるために何か特別な交流をされたりしたのでしょうか?
【加瀬】 田中さんはすごすぎて……僕は何もすることがなかったと言いますか、何もする必要がなかったと言いますか。例えば、涙を流すシーンでも、田中さんを見てさえいれば自然に涙が流れてくるんです。本読みをしたときから感じていたんですが、田中さんだけでなく、ユースケさんや濱田さんも含めて、こっちを動かしてくれる演技をされる方ばかりでした。1シーンしか出ていない宮崎あおいさんも、僕とものすごく離れたところにいるんですけど、僕が芝居するときにちゃんと目線の先にいてくれたりして。それだけですごく受け取るものがありますから。

──戦時中が舞台の物語ですが、現代に通じるテーマは何だと思いますか?
【加瀬】 戦時中のことは僕も体験していないので間違っているかもしれませんが、世の中がある方向に画一化されていくなかで、どこか馴染めなかったり、立ち止まったりする状況というのは、時代も年齢も関係なくあると思うんです。台本を読んだときに自分に当てはめて考えたところがたくさんありました。

──木下作品をオススメするならどの作品ですか?
【加瀬】 僕は『お嬢さん乾杯』が好きなんですけど、『陸軍』をはじめ、この『はじまりのみち』で取り上げられている作品はどれも名作だと思います。『お嬢さん乾杯』は、独特の軽やかさがある作品だと思いました。深刻さと軽妙さのバランスが絶妙で、最後にはホッとするような気持ちになれる喜劇です。

──『俺俺』『はじまりのみち』『ペコロスの母に会いに行く』『劇場版 SPEC〜結〜』二部作と公開作が続きますが、加瀬さんの作品選びの基準は何かありますか?
【加瀬】 自分ではこうという基準は決めていないです。出会いかなと思っています。声をかけていただかないとできませんし。今回の原監督もそうですけど、やっぱり挑戦しようとしている方、本気でやろうとしている方、それは本気で遊ぼうとしている方でもいいんですけど、そういう熱を持っている方と一緒にできたらいいなと思っています。今回は原監督だけでなく、プロデューサーを含めたスタッフの思いがすごかったので、スケジュール的には過酷だったんですが、全然大変さは感じませんでした。そういう熱が作品にも表れていると思います。
(文:岡 大/撮り下ろし写真:鈴木一なり)

映画情報

はじまりのみち

 時は戦中。政府から戦意高揚の国策映画つくりが要求された時代。木下惠介が昭和19年に監督した『陸軍』は、その役割を果たしていないとして、当局から睨まれ、次回作の製作も中止されられてしまう。すっかり嫌気がさした木下は松竹に辞表を提出し、脳溢血で倒れた母、たまが療養している浜松市の気賀に向かう。失意の中、たまに「これからは木下惠介から木下正吉に戻る」と告げる惠介。

 戦局はいよいよ悪化の一途をたどり、気賀も安心の場所ではなくなる。惠介は、山間の氣田に疎開することを決め、晩夏、一台のリヤカーに寝たままの母を乗せ、もう一台には身の回り品を乗せ、兄・敏三と、頼んだ「便利屋」と自分の三人で、夜中の十二時に気賀を出発し山越えをする。十七時間休みなく歩き通し、激しい雨の中リヤカーを引く。ようやく見つけた宿で、母の顔の泥をぬぐう惠介。疎開先に落ち着いて数日後、たまは不自由な体で惠介に手紙を書く。そこにはたどたどしい字で「また、木下惠介の映画が観たい」と書かれていた。

監督:原恵一
出演者:加瀬亮 田中裕子 ユースケ・サンタマリア 濱田岳
【映画予告編】 【OFFICIAL SITE】
2013年6月1日(土)全国ロードショー
(C)2013「はじまりのみち」製作委員会

関連リンク

加瀬亮 インタビュー撮り下ろしフォトギャラリー
実話をもとにした感動作―映画予告編
『はじまりのみち』映画公式サイト

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