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プリキュア一強に終止符? 話題の「女児向け特撮ドラマ」担当者に聞く、子ども番組が“守るべきもの”
この番組のプロジェクトマネージャーとして番組当初から関わり、宣伝プロデューサーも担当している佐々木氏は、大学卒業後、広告代理店のADKに就職し、1年目でコンテンツ部門に配属。アニメ制作の部署で『プリキュア』シリーズや「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」を担当。24歳という若さでプロデューサーになった。ADK時代から小学館の現在に至るまで、佐々木氏はずっと女児向けの番組の制作に携わっている。そんな彼女が歩んできた道。女児向け番組成功の秘訣とは――。
災害時、インフラが整った後に人が求めるのは『エンターテインメント』
佐々木小さい頃からエンタメ全般が好きだったのですが、その中でも特に『ディズニー映画』が大好きでした。父がアメリカで仕事をしていた関係で、誕生日にはアメリカからディズニー映画のVHSテープが送られてきたり、お土産でもたくさんDVDを買ってきてくれました。ディズニーキャラクターが好きというよりも“映像”が大好きだったんですよね。だから、子どもの時から『ディズニー』で働きたい、映像を作りたいと本気で思っていました(笑)。
――その想いは大学生になるまでずっと?
佐々木そうですね。海外の配給会社で働きたいという想いはずっとあったので、大学時代にソニー・ピクチャーズエンタテインメントでインターンシップを経験し、東宝の宣伝部でバイトもしました。日本にある外資の配給会社と違って、日本の配給会社は「宣伝」「PR」における全てを社内の人が担当します。そこは大きな違いでした。それに、毎晩飲みに行って社内のコミュニケーションも活発に行われていましたね(笑)。そういった部分も含めて、私には日本企業の方が合ってるなと。学生時代に映画配給会社で働けたのは大きかったですし、映像制作やプロデュースにも興味が沸いたきっかけだったと思います。
――就職活動をして、最終的には広告代理店に?
佐々木そうですね。コンテンツ制作や宣伝に関われる会社を志望していたので広告代理店を受けて、ADKに新卒として入社しました。コンテンツ志望で受けたので、ほとんどの新入社員が営業職に配属される中、私だけコンテンツ部門へ配属に。「営業はやりたくないです」と最初から言っていたので、生意気な新入社員だったと思います(笑)。
――ADKではどういった仕事を?
佐々木『プリキュア』シリーズを担当しました。最初はプロデューサーについてシナリオ作りや打ち合わせの立ち合い、企画から完成までの全てに携わりました。確か24歳か25歳だったと思いますが、20代の私がいきなりプロデューサーに。毎週、視聴率を見る度に落ち込んで、売り上げや視聴率が悪いと全部自分の責任だと思っていましたね。当時は相当悩んで、辞めるくらいまで考えていました。
――かなり落ち込んだんですね。
佐々木そうですね。悩んでいたのが2011年2月だったんですが、ちょうどその次の月、3月に震災が起きました。番組も休止になって、映画のシーン差し替えもあった。その時「エンタメビジネスの人は、災害時には何もできる事がないんだな」って強く感じました。被災地に向けて応援メッセージを作画監督に書いてもらったり、そういうことはできても、直接的な支援は何もできなかった。その時、社外の先輩に言われたんです。「エンターテイメントは、こういう災害があった時にすぐにできることは何もない。でも、人はインフラが整って来ると、必ず次にほしいのは『エンターテイメント』だから、その時を待っていた方がいいよ」と。その言葉を聞いた翌日、新聞記事の一面に、被災地の子どもが『週刊少年ジャンプ』(集英社)を読んでいる写真が掲載されていたんです。それがとても印象的で泣きそうになりました。そこから私自身、大きく変われたと思います。
――どういった部分が変わりましたか?
佐々木今までは、自分がやっていることに“必要性”を感じることが出来なかったんです。振り返って思うと、今までの私はずっと伝書鳩のような存在だったんです。言われたことをただやるだけ。そこに自分の意思がなかったんですよね。でも、そこから突然、人間が変わったように“図々しい人間”になって、スタッフに対しても明確に要望を伝えるようになりました(笑)。最初は「おまえに何がわかるんだ」と言われてもしょうがないんですけど、自分の意思を貫くことで、年上のスタッフの方々も対応してくれるようになりました。結局、「意思なきところに変化はない」ということなんですね。その後、少しずつ『プリキュア』の数字も上がっていきました。シナリオの事、玩具の事、番組に関わることはかなり勉強しましたし、その経験が今に大きく活かされていると思います。
現代の視聴者は「必ず解決する」「必ず勝つ」という“分かりやすさ”を求めている
佐々木私がいる小学館のクロスメディア事業部では、原作を「アニメ・ドラマ・映画化」する際のプロデューサーとしての役割の他に、制作委員会に出資をして、一緒に作品づくりをお手伝いする形もあります。例えば、『ポケモン』のように原作権を持っていないけれど、その作品に出資をしてプロデューサーとして参画しているというのは小学館の特徴です。原作者や、モノを作っている制作者のもっと近くで、作品の為のアウトプットや映像化に関われる。それが小学館に転職をした大きな理由ですね。
――『ガールズ×戦士シリーズ』では、プロデューサーとしてどんな試みを行ってきましたか?
佐々木今作の大きなポイントとしては、制作委員会に、LDHさんが展開するダンス&ボーカルスクールの『EXPG』さんがダンス監修や子どものキャスティングで入っていることです。“歌って踊る”というダンスブームが来ていたのもあって、それを作品の中に取り込み、さらにどうしたらこの玩具が売れるのかをみんなで考えて、シナリオに落とし込みました。
――放送が開始されてから、すぐに反響がありましたか?
佐々木前作『ミラクルちゅーんず!』は先に音楽から火が付いたんですよね。親御さんは最初、AKBのようなアイドルグループだとか『美少女戦士セーラームーン』のような何かの作品の実写版だと思っていた方が多かった。音楽やダンス、アーティストという側面から火がつきはじめて、それが番組視聴に繋がっていきました。そこから「CDを買うとチェキ券がもらえる」イベントなどもやり、『マジマジョ』になってから、放送時間を朝9時に早めると、視聴率も上がって認知も大幅に上がりました。
――子ども向けコンテンツの宣伝手法などは難しいですか?
佐々木大人と違って、子どもの「コンタクトポイント」はものすごく少ないんです。子ども達がどうやって『マジマジョ』を知ったのか。TVでも雑誌でもなくて、実は「保育園で友達から聞いてきた」というのがかなり多いんですよ。『プリキュア』時代もそうでしたが、保育園や幼稚園で子どもが覚えてくる。テレビCMを15秒を打っても、子どもにはなかなか届かない。そうなってくるとYouTubeの存在は大きいですよね。
――保育園や幼稚園が一番の情報源になって、その後はYouTube視聴に繋がっていると。
佐々木そうですね。だから歌とダンスはとても効果的です。お友達が「マジマジョピュア―ズごっこしよう」と言って、みんなの前で踊るんです。そうすると友達は「なんだろう?」ってなりますよね。家に帰ってお母さんに「マジマジョピュア―ズっていうのがやっているから」と言って、お母さんが検索する。YouTubeやInstagramが多いんですが、検索すると踊っている子どもが出てくるんです。それを見て、子ども達は踊りを覚えて、また幼稚園で披露する。こうした“リアルな場”とSNSをうまく連動して認知を上げていく。今はテレビや交通広告だけでは認知は上がらないので、原作がないオリジナル作品の宣伝は本当に大変でした。そういった意味で歌とダンス、YouTubeなどの施策は効果があったと思います。
製作委員会の仕組みは変わっていくべき「低予算のオリジナル作品でも十分勝算はある」
佐々木『プリキュア』に男の子が登場したのはびっくりしましたね。私が携わっていた時よりもどんどん変わってきていますし、平成生まれの方がプロデューサーになっている。世代交代をしながら変化していくのは、作品が長く愛されるためには必要なことだと思います。
――『プリキュア』のように国民的アニメになりますと、挑戦を仕掛ける一方で、守らなければいけない部分もあるかと思います。
佐々木女児向けの作品で言うと“女の子同士の友情”はとても重要だと思います。それは『マジマジョ』でも全く一緒で、チームメイト同士で喧嘩しないこと、喧嘩しても一話で終わらせるようにしています。今の時代の潮流だと思うのですが、ドラマのストーリーでも1話完結型が多くて、視聴者も「必ず解決する」「必ず勝つ」というのを好んでいますよね。子ども番組も実は一緒で、そこはずっと守らなければいけないものだと思います。
――ネットでの配信なども増え、エンタメ業界もどんどん変わってきました。
佐々木今の映像業界の仕組みは「製作委員会」という形がほとんどですが、今やそのスキームも難しくなってきています。DVDの販売収益が全体売り上げを支えていた時代が大きく変わり、アニメはその影響をかなり受けています。1本の製作費が数億円規模の作品を作れるのは大手企業に限られ、新しいクリエイターや新しい作品がなかなか生まれない。この仕組みは変わっていかなければならないと思っています。
――新しい試みとはどんなものがありますか?
佐々木予算がなくても、5分アニメや配信のみのオリジナル作品、フラッシュアニメでも十分勝算はあります。アメリカのYouTubeオリジナルドラマはとても面白かったですし、配信サイトとして圧倒的です。なので、日本でもルールを守ったうえで、オリジナルコンテンツをYouTubeでやる。これも可能性としてはあるかと思います。そして、名作を増やすためにはもっと多くの作品が世の中に出ていくこと。クリエイターたちの“バッターボックスに立てる数”を増やすことが、すごく重要な事なんだと思います。
――最後に、佐々木さんの原動力を聞かせてください。
佐々木「人を楽しませたい」それが私の明確な原動力です。「誰かに影響を与えたい」「楽しませたい」そう思っていると、どうしても視聴者のリアクションを知りたくなりますよね。『マジマジョ』のイベントでは女の子が歌って踊っている。子どもって恥ずかしがらないので大きな声で反応してくれる。それに、イベントのチケットが取れなくて、泣いちゃう子もいます。そんな姿を直に見ると、どんなに嫌なことがあっても頑張れます。それは子ども向け番組をやっている大きな醍醐味ですよね。あともう1つ、『ポケモン』のような世界に通用する新しいキャラクターコンテンツを作りたいと思っています。ずっと女児向けコンテンツに携わっている私だからこそ作れるものがきっとある。本気でそう、思っています。
子ども達が、どのようにして新しいエンタメコンテンツを知っていくのか。時代の移り変わりとともに、宣伝方法が多種多様になってきた中で、保育園や学校という大きなコミュニティの存在はずっと変わらない。情報は人から人へ。時代の変化とともに、変わるものと変わらないもの。動画配信やYouTubeが主流となった時代に生まれた子どもたちは将来、どんなエンタメを作っていくのだろう。世界に通用する新しい「キャラクターコンテンツ」の誕生には、そんな今の子ども達と寄り添い続ける佐々木氏のような存在がきっと、必要不可欠だ。
企画・取材・文/山本圭介(SunMusic)
「カメラを止めるな!」上田慎一郎監督や幻冬舎の名物編集者・箕輪厚介氏も登場!
◆山本圭介氏のインタビュー連載『エンタメ界の30代』はコチラ→
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