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注目の音楽ユニット・三月のパンタシアとは? 日常の“表と裏”を同時に描くリアルに共感

 純粋さと儚さを持った歌声が特徴の三月のパンタシアが注目を集めている。ネットなどでは、「聴くと心が浄化される」「聴いて泣きそうになる」など、その表裏一体な楽曲に若年層を中心に共感を得ているようだ。また、気鋭のクリエイターたちが集まり、ケータイ小説と連動するなど、メディアミックス展開も積極的に行っている彼らの正体と魅力に迫ってみたい。

曲のようなユニット名で顔は非公開……ネットやアニメファンとの親和性が高い

 三月のパンタシアは、女性ボーカル「みあ」を中心に、複数のイラストレーターやコンポーザーが集まったクリエイターユニット。2015年8月にネットミュージシャンのすこっぷが制作した楽曲「day break」をYouTubeで公開し、活動をスタートさせた。2016年4月にアニメ『キズナイーバー』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマ「はじまりの速度」でメジャーデビューし、各配信サイトのチャートで話題を集めた。さらに2ndシングル「群青世界」では、人気小説家・西尾維新の原作OVA『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』のオープニングテーマに起用。2月1日に発売した3rdシングル「フェアリーテイル」は、アニメ『亜人ちゃんは語りたい』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマとして現在も放送中。そして待望の1stアルバム『あのときの歌が聴こえる』を3月8日に発売した。

 三月のパンタシアには、今の時代の10代〜20歳前後の音楽ユーザーにフィットした要素が複数見られる。ひとつはネーミング。SEKAI NO OWARI、水曜日のカンパネラに代表される「○○の○○」や「○○は○○」といった、歌詞のひと節のような文章タイプのアーティスト名で、「何これ?」「どういう意味?」という、良い意味での違和感が生まれ、それがインパクトに繋がっている。これは、人気のラノベやドラマ、コミックなどのタイトルの付け方の傾向とも合致。「セカオワ」「逃げ恥」のように、すでに「三パシ」と省略されて、ジワジワと名前が広がっている。

 もうひとつは、顔が非公開であること。ユーザー側には、聴いた人それぞれの中で、主人公像や物語をイメージできるという自由さが生まれる。10代を中心にした現在の音楽ユーザーは、LINEやネットを介した言葉と絵によるコミュニケーションに慣れ親しみ育っている。同時にボカロやニコニコ動画においては、歌っているその人の顔やバックボーンといった情報に左右されることなく、純粋にその作品に対していかに共感でき、いかに想像力をかきたてられるかということをポイントに聴く傾向にある。そうしたユーザー世代をターゲットにした音楽にとって、顔が非公開であることは、むしろメリットだとも言える。実際に、96猫、EGOIST、ClariSなど写真非公開のアーティスト、みみめめMIMI、パスピエ、暁月凛など、デビュー当初は非公開だったが現在は公開してライブ活動を行っているアーティストも多数いて、ほとんどがネットやアニメのファンとの親和性が高い。

メディアミックス展開を可能にする豪華なクリエイター陣

 また、スマホという箱の中でリアルを感じているユーザー世代の間で、重要なツールとされているのがケータイ小説だ。たとえば、同系のクリエイターユニット・HoneyWorksは、学校を舞台にした恋愛系胸キュン楽曲を数多く発表し、それら楽曲を原作にしたラノベを刊行、アニメ映画化もされた。小説と楽曲とのメディアミックスは、注目されており、三月のパンタシアは、すでにケータイ小説とも連携済みだ。ケータイ小説サイト「野いちご」では、三月のパンタシアの楽曲「ブラックボードイレイザー」をテーマにした楽曲ノベライズを募集し『全力片想い』(田崎くるみ著)が大賞を受賞。三月のパンタシアとしても自身の楽曲「星の涙」をテーマにした小説も連載中で文庫版の出版も予定されている。他の楽曲のノベライズにも、今から期待が高まっている。

 三月のパンタシアには、そうしたメディアミックス展開を可能にするクリエイターが、最初から多く参加している。すこっぷ、ゆうゆ、40mp、n-buna、buzzGなど人気ボカロPが楽曲を提供し、映画化が決定した小説『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)の装丁イラストを担当したloundrawや、『臨床真実士ユイカの論理 文渡家の一族』(古野まほろ著)の装丁イラストなど手掛ける浅見なつが、ジャケットやブックレットのイラスト、ミュージックビデオの絵を担当。前出の小説を手掛けているノベリストのみのりも名を連ねている。この豪華さには「メンツがすごい」などネットでも話題になっていた。

表と裏が同時に存在する歌詞と歌声で、若者のリアルな心情を体現

 三月のパンタシアの生み出す音楽や歌詞の世界観は、ハニワのキラキラとした青春賛歌とは少し違う。1stアルバム『あのときの歌が聴こえる』から感じられるのは、青春時代を謳歌しながらも、その裏側に同時に存在する心の「揺れ」だ。学校では友だちと恋談義に花を咲かせ、家では家族や友だちにも話せない悩みや気持ちをネットに吐露する。そうした表と裏が同時に存在する、今の若者のリアルが、純粋さと儚さを持ったみあの歌声によって、見事に体現されていると言える。

 ネット上にも「『フェアリーテイル』はサビで泣くのでカラオケで歌えない」「バラード調の歌ではないけど、不思議と涙をそそられる。歌詞のメッセージ性に何か自分と通ずるモノでもあるのか…」など、歌声や世界観に対する評価が高い。パンタシア=ファンタジーを意味し、三月という出会いと別れの季節感をファンタジーと捉えた、どことなく醸し出されるモラトリアム感もまた、大人になりきれないネットの音楽ユーザーやラノベのファンの五感を刺激している。

(文:榑林史章)

「フェアリーテイル」ミュージックビデオ

「群青世界」ミュージックビデオ

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