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『紅白歌合戦』Pが明かす、今年の見どころとSMAP出演の可否

“紅白ならでは”と“今年のヒット曲”、双方のバランスを取るのがとても難しい

――今年の音楽シーンは、どんな印象の1年でしたか?
矢島良 今年は、宇多田さんの「花束を君に」を始め、世の中に浸透した曲が、ここ数年に比べてとても多かったように感じます。桐谷健太さんの「海の声」もそうですし、RADIO FISHさんの「PERFECT HUMAN」もそうですね。制作側としては、非常に幸せな状況でした。『紅白』を観て、2016年はこういう年だったなと、いろいろ思い出してもらえたら嬉しいです。

――実際にRADIO FISHさんも出場されます。過去にもお笑い芸人の方が、歌手として出場してきた例もありますが、彼らの起用についての考え方を教えて下さい。
矢島良 RADIO FISHさんは、最初から『紅白』を目指すとおっしゃっていて。「ネタで言っているのかな?」と思いましたが、お話をうかがうと、本気で考えてくださっていて。彼らがYouTubeで動画を公開したときに、みなさんがそれをマネて踊ってくれたことによって広まったと。そのことに対する感謝と喜びが強くあったようで、恩返しの場として『紅白』のステージを本気で考えてくださっていたようです。その気持ちを僕らもしっかりと受け止め、皆さんと一緒に踊れるようなステージをやりましょうというお話になりました。

――あくまでもアーティストとして?
矢島良 もちろんお笑いの部分でも、活躍していただけると思っています。

――YouTubeでは、下半期にピコ太郎さんの活躍が目立ち、ご出場されてもおかしくないとの声も多いのですが。
矢島良 いろいろな方にお声がけはさせていただいています。先ほどもお話をしましたが、テレビやエンタテインメント界を賑わせた方、話題のモノは上手く番組に取り込んで、1年の締めくくりのお祭りにしたいと考えています。いろいろな企画を練っていますので、当日を楽しみにしていてほしいです。

――俳優の桐谷健太さんは、テレビCMとして広まり、口ずさまれた楽曲「海の声」で出場されますが。
矢島良 桐谷さんからお話をうかがったり、さまざまな資料を参考にして調べていくと、カラオケで「海の声」を自分のことのように歌っている方が多いということがわかりました。きっと皆さんが一度は口ずさんだ歌なんじゃないかと思います。それを桐谷さんも熱く受け止めてくださっていて、企画として「自分はこういう風に口ずさんだよ」というエピソードを募集し、ステージを作り上げたいとご提案させていただきました。

――実際に一般の様々な方との共演になるのですか?
矢島良 日本全国からエピソード募集しています。お会いできる方のところに実際に行って、映像を撮らせて頂いております。詳しくは話せませんが、みんなで一緒に歌うステージを考えています。

――桐谷さんがテレビCMで共演されている、菅田将暉さんなどのサプライズ出演にも期待が!
矢島良 そうなったら、すごく盛り上がるでしょうね。実際にそのCMで共演されている、有村さんは司会ですし、AIさんが歌う「みんながみんな英雄」も、同CM曲ですからね。でも、そういういろんな要素が、番組の中でうまく繋がって来ているなというのは、今すごく感じているところです。

――フレッシュな面々も出場する反面、常連の方で出場されない方もいらっしゃいます。出場アーティストの選定は難しかったのでは?
矢島良 そうですね。私どもがお声がけさせていただく方を選ぶときに、3つの要素があります。まずは「今年の活躍」、「世論の支持」、これはアンケートで世論調査をしていますので、そのデータを元にしています。そして、「番組の企画に合致する方」です。この3つで総合的に判断させていただくのですが、まずは2016年の大みそかにお送りする『紅白』を作りたいという想いがあるので、その上で3つの要素に合う方はどなたなのだろう? と考えます。歴史ある番組ですので、“『紅白』ならでは”という部分で期待されるところもあると思いますし、一方で今年のヒット曲を聴きたいという声もあり、双方のバランスを取るのがとても難しいです。

――常連か今年の顔か、どちらにしても様々な意見があると思います。
矢島良 それはそうですね。もちろん多くの方に出ていただきたいのですが、ご出場組数にも限りがあります。あくまでも2016年の『紅白』なので、来年は必要とされる音楽も出演者も変わると思いますし、そこはその年ごとでフラットに考えたいと思っています。ご出場いただく方は素晴らしい方ばかりという自負はありますが、そこに至るまでは悩みに悩んで結論を出すようにしています。

――良い意味での予定調和もまた、『紅白』の良さのような感じもしますが。
矢島良 それもあります。今年もベテランの方にもご出場いただきます。様式美と言いますか、昨年のテーマは「ザッツ『紅白』」でもありましたが、これぞ『紅白』というステージもきちんとお届けしていきたいなと思っています。67年積み上げて来たものがありますので、それはきちんと受け継いで行かないといけないと思っています。ある意味、国民的行事のようなものですから、その部分での期待感にはしっかり応えていきたいと考えています。

SMAPの出場に関して、どちらにしてもお気持ちを尊重させていただくつもり

――ベテランで卒業を発表される方もいますが、そこに対してはどういうお考えですか?
矢島良 我々としては、基本的にお声がけをさせていただくというスタンスで、その方がご活躍される限りはお声がけをさせていただこうとは思っています。ですが、ご卒業を表明された方に関しては、残念ですがお気持ちを尊重するしかないと思っています。

――その流れで言うと、気になるのはSMAPさんです。「最後の最後までオファーを打診します」とおっしゃっていましたが。
矢島良 現状としてはまだお返事をいただいていないので(※12月20日現在)、お返事をいただけるまで待たせていただいています。どちらにしてもお気持ちを尊重させていただくつもりです。もちろんみなさんが気になるお気持ちはわかりますが、『紅白』はそれだけではなく、46組の素晴らしい歌手の方々がいらっしゃいます。そのみなさんの素晴らしいステージをお送りするために、いま全力で準備しています。

――しかし生放送の番組としては、そうした未確定要素があるのは制作する際に難しい面もありますよね。
矢島良 お声がけをしている以上は、ご出場を前提にした演出を考えています。それがどうなるかは、お返事をいただいての判断になると思います。

――大晦日の生放送ということで、“奇跡的な瞬間”が生まれるのも『紅白』の魅力。ご自身でも、これまで現場に立ち会ってそのような瞬間を実感したことは?
矢島良 私がフロアを担当していた当時の経験で……『紅白』は放送時間が4時間半ありますが、リハーサルで7〜8分押したことがあります。段取りの悪さもありますが、それが本番前日でもう顔面蒼白でした。それから段取りを整理しコメントを短くしてと、もう一度知恵を出し合って調整します。本番では4時間半で収まり、「蛍の光」が流れた瞬間に、奇跡を実感した瞬間でした。

――誰々と誰々のコラボによって感動を生み出すとか、そのための準備も必要でしょうし。
矢島良 そうですね。これだけの方々が大みそかに一堂に会するというのも、それだけで奇跡的でしょう。60回のときに矢沢永吉さんがサプライズ出場され、本番を迎えました。そのときは、奇跡だと思いました。また63回にMISIAさんがナミビア砂漠から中継で歌ったのですが、30日の夜にテストで送られて来た現場の映像を見たとき、“何だこれは?”と思うほど、奇跡的な映像で驚きました。そういうことが大晦日に生中継でできてしまうのも、奇跡だなと思います。そういう意味では、1つひとつのシーンがきっと見たことのないものになると思います。

――そうした奇跡は、リハから土台をきっちり作ってこそ生まれるものなんでしょうね。
矢島良 正直すごく大変です。でも、そこで手を抜くわけにはいかないですし、そこにこそ宝物があって、夢が浮かび上がるのだと思っています。奇跡が起きる瞬間を夢見て作っていますので、今年もまた、奇跡的瞬間を楽しみにしていて下さい!

(文:榑林史章)
矢島良(やじま りょう)氏
NHK制作局 第2制作センター エンターテイメント番組部 チーフ・プロデューサー
1994年NHK入局。
これまで『NHKのど自慢』、『NHK歌謡コンサート』などの番組を担当。
現在は『うたコン』の制作に携わる。

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