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【連載番外編】SMAPベスト盤を読み解く PART.4 あの頃にしか歌えなかった意外な“反戦ソング”
シングル発売しなかった2004年、“紅白”出場も辞退
「世界に一つだけの花」が“ダブルミリオン”を記録した翌年のことだ。この年、香取慎吾はNHK大河ドラマ『新撰組!』に主演、SMAPがデビューして以来初の“ライブツアーのない1年”であり、「シングルを発売しなかったため、披露する曲がない」という理由から、その年の『NHK紅白歌合戦』出場も辞退している。
とはいえ、個々のメンバーの新しい分野への進出ぶりは目覚ましく、中居正広は同年TBSの五輪キャスターに就任、木村拓哉は、ウォン・カーウァイ監督の映画『2046』が公開され、『ハウルの動く城』でジブリ映画の声優に抜擢された。稲垣吾郎がストーリーテラーを務める『本当にあった怖い話』(フジテレビ系)のレギュラー放送が始まったのもこの年だし、三谷幸喜脚本の映画『笑の大学』では役所広司と丁々発止の会話劇の中で、現在に通じる“コメディセンス”を存分に発揮していた。草なぎ剛は、“僕シリーズ”の2作目、『僕と彼女と彼女の生きる道』(フジテレビ系)をヒットさせ、また全編韓国語の日本映画『ホテルビーナス』も話題となった。
ツアーのない夏。SMAPと一緒にはしゃげない夏。それは、ファンの心にちょっとした空洞感のようなものをもたらした。けれど、でも夏の終わりに、香取主演の映画『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』が公開されたりして、ファンは物足りなさを感じつつも、「来年はきっとすごいお祭りが待っている!」と信じさせてくれるパワーが、それぞれのメンバーには漲っていた。
「世界に一つだけの花」の呪い? 国民的ソング路線とライブの爆発力
でも、7月には宮藤官九郎作詞の「BANG!BANG!バカンス」がリリースされ、ツアータイトルも『SMAPとイク? SMAP SAMPLE TOUR』と遊び心のあるものだったし、シングルとツアーとアルバムの合わせ技で、お祭り的SMAPが帰ってきた嬉しさはあった。シングル曲のように、“1曲”で今のSMAPを表現されても、不満が残ったり、趣味が合わなかったり。大勢の欲望や願望を満たすことは難しい。でも、コンサートでなら、絶対にSMAPは期待を超えるエネルギーや輝きを見せてくれた。
哲学的な“反戦ソング”「Triangle」が選ばれた理由
どうしてこの曲がこんなに上位なんだろうと疑問に感じ(失礼!)、ビクターのサイトで、リクエストした人たちのメッセージを読んでみた。すると、本当に、リクエストした人たちが“この曲と歩んだ物語”が切々と綴られていた。若い世代にとっては、“教科書に載っていた”という事実も、歌と歩む物語を生み出す上での手助けになっていたのかもしれない。とはいえ、あらためて歌詞を読み、歌を聴くと、世の中とそこに生きる人々を見守る視線に含蓄がある。「世界に一つだけの花」が絵画的なイメージなら、こちらはむしろ哲学的で、9.11以降の平和を祈る“反戦ソング”として、さまざまなことを思考させる。情報が溢れ、不寛容が蔓延し、正解ばかりを模索する時代に、“絶対に思考停止をさせないぞ”とでもいうような、力強いメッセージが漲っている。ある意味、この時代のSMAPにしか歌えない曲だったのだろう。彼らは、年末の紅白で、大トリとしてこの曲を披露した。
「Triangle」と「STAY」、誰かの支えとなり特別な意味を持つ
「Triangle」に関する考察から、今度はなぜ「STAY」が1位になったのか。その理由について思いを馳せる。まずは“たったの50年、一緒に”と歌う歌詞が、ファンの祈りに重なったこと。アルバム『SMAP AID』のリクエスト上位曲が『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で発表されたとき、中居が「ディレクターに、木村にAメロ全部歌わせてほしいと頼んだ」という秘話を披露したこと。そして何より、『CDTVスペシャル! 年越しプレミアライブ 2015→2016』(TBS系)で披露されたこと。その3つの要因が重なって、「STAY」はファンにとって特別な意味を持つ曲になった。あの、“CDTV”でのSMAPの姿は、“これがあるから5人の絆を信じられる”という“たしかな時間”だった。外野ではなく、SMAPの声に耳を傾けること。「STAY」をはじめとした、彼らの楽曲と歩んだ物語は、ファンにその信念を胸に刻み込ませた。
ベストアルバム『SMAP 25 YEARS』のジャケットは、Smapの文字が下半分にレイアウトされている。25年は、1位になった「STAY」で歌われる“たったの50年”のちょうど半分。それが、“SMAPとファンの物語は、まだ道の半分だよ”というメッセージに思えてならない。
(文/菊地陽子)