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33年ぶりに近代史を描く“クドカン大河”どう見る?

 先ごろ、脚本家の宮藤官九郎が2019年のNHK大河ドラマの脚本を手掛けることが発表され、“クドカン”ファンたちをざわつかせている。クドカンといえば俳優・松尾スズキが主催の舞台『大人計画』出身の脚本家で、『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)をはじめ、第29回向田邦子賞を受賞した『うぬぼれ刑事』(2010年/TBS系)など話題作が尽きないが、王道ではなく、どこかサブカル寄りのイメージがあった。だが朝の連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年/NHK総合)の大ヒットにより、その人気はお茶の間のものに。今や国民的脚本家の道を歩み始めているクドカンが描く大河ドラマ、しかも近代史の物語はどのような展開になっていくのか? 注目度は高い。

数々の名作を経て“若者ウケの脚本家”からも脱却

 宮藤官九郎は1970年生まれの46歳。松尾スズキが主催の舞台『大人計画』に所属する脚本家で、愛称はクドカン。ほかにも俳優、作詞家、作曲家、放送作家、映画監督、ミュージシャンなど数々の肩書を持つ。『大人計画』との出合いは、ボランティアスタッフ募集から松尾の舞台に参加。自ら『大人計画』に電話して、同劇団が脚本・演出家を養成する新設の文芸部に入ったのがきっかけだ。

 当時は北野武監督の映画『キッズ・リターン』(1996年)や、ドラマ『二千年の恋』(2000年/フジテレビ系)で俳優としても出演していたが、そんな彼の名を劇的に有名にしたのは、今や盟友となった俳優・長瀬智也主演のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』。その後、『木更津キャッツアイ』(2002年/TBS系)などの脚本を手掛け、阿部サダヲらとのバンド・グループ魂など、その幅広い活動が認められて2003年、ゴールデン・アロー賞特別賞を受賞。2011年には『うぬぼれ刑事』で向田邦子賞を受賞し、2013年『あまちゃん』の大ヒットでは、「朝ドラ人気を復活させた」とまで言われた。「そんなクドカンさんが大河ドラマの脚本を担当するというニュースの驚きは、個人的には斉藤由貴さん主演の昼ドラ『吾輩は主婦である』(2006年/TBS系)以来」と語るのは、長年、クドカンを取材しているテレビ誌のライター。

「クドカンさんはシナリオ教室などに通うことなく、自己流で脚本の技術を学んだ叩き上げ。さらには若者という狭い層に受けるニッチな脚本家と思われていただけに、主婦層が主なターゲットで安定した筆力も必要となる昼ドラでの起用には驚かされました。危ぶまれもしましたが、蓋を開けてみれば同年のギャラクシー賞月間賞を受賞。見事“若者ウケの脚本家”のレッテルから脱却を果たしたのです。その後、朝ドラ『あまちゃん』での成功と成長は言うに及ばず、特筆すべきは2016年の『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)。“ゆとり世代”をテーマにした社会派コメディに挑戦したのですが、ギミックなどを使わなくても充分におもしろいその脚本にテレビ誌の記者たちは唸ったものです。実際、このときのインタビューでクドカンさんは『これまで『木更津〜』の“裏”と“表”のようなギミックのある作品を書くのが好きだったが、『ゆとり〜』では敢えてこれを止めシンプルに描いた。自身にとって初のチャレンジ』と語っています」(同ライター)

小ネタ全開の“クドカン節”が大河ドラマでも展開されるのか?

 そんなクドカンによる大河ドラマのテーマは“オリンピック”。1912年の日本のオリンピック初参加から1964年の「東京オリンピック」開催までの激動の52年間を描く。大河ドラマと言えば、そのイメージは時代劇。舞台となる時代は戦国時代から明治初期までが多く、現代史や近代史が描かれることは稀。だが1984年から1986年までは「近現代三部作」として山崎豊子原作・市川森一ら脚本による『山河燃ゆ』、杉本苑子原作・中島丈博脚本の『春の波涛』、橋田壽賀子オリジナル脚本による『いのち』が放送されており、大河ドラマが近代史を描くのは33年ぶりとなる。

 大河ドラマには“歴史の教科書”的な王道ドラマの印象もあるが、決して史実でガチガチに固められた作品ばかりな訳ではない。とくに当初は歴史“小説”の原作が多かったこともあり、司馬遼太郎原作の『竜馬がゆく』を筆頭に、登場人物を活き活きと描くことに重点を置いた“娯楽作品”または“時代劇の名を借りた青春劇”として成立していた。また実在の人物だけが描かれるわけではなく、大佛次郎原作・岡田茉莉子ら出演の『三姉妹』(1967年)では、初めて架空の人物がヒロインに。1980年にも架空の人物を菅原文太が演じる『獅子の時代』が放送されており、同作では宇崎竜童が音楽を担当。BGMにロック系のギターが流れるというチャレンジングな作品もある。

「権威的、メインストリーム的なイメージがついてしまうと、どうしても挑戦がしづらくなったりフットワークが鈍ったりする。そういった意味で今回のクドカンさんの起用は、大河ドラマが勢いのあった初期〜80年代に立ち返ろうとする狙いも見られます。またクドカンさんは過去のインタビューで『決して新しいことをやることが目的ではない。オーソドックスな作風であっても、自分のなかに“新しさ”があればよい』と語っていますが、同時に『見れば宮藤官九郎の作品だと分かる自分らしさも欲しい』とも話しています。“伝統”という大地の上で、少年のように歌い、踊り、笑い、遊ぶ……そんなクドカンさんらしい、これまでに観たこともない大河ドラマがお茶の間を沸かせることになるのではと期待しています」(同)

 『池袋〜』に熱狂した視聴者ももう40代以上。クドカンというとターゲットは“若者”のイメージだが、実は幅広い層にファンを持っている。そんな彼が『あまちゃん』の制作陣を得て、どのような大河ドラマを描いてくれるのか。小ネタと細かいやり取り全開の“クドカン節”は外せないだろう。『ゆとり〜』のようにギミックなしで真っ直ぐに人間ドラマに向き合うのだろうか。リズム感のある心地よい笑いのなかにじんわりとした心温まる感動が織り込まれる作風が予想できる。

 同じく舞台出身の脚本家で現在放送中の『真田丸』を手がけている三谷幸喜ともその出自、経歴が重なるクドカン。その時代の空気をすくいとったエンタテインメントに仕上げ、幅広い層の共感を得るというウデも似ている。『真田丸』の評判が良いだけにクドカン大河への期待も自然と高まる。1年間という長い期間を通してどのような物語を紡ぎ出すのか、傑作が生まれることを期待して待っていてもよいのではないだろうか。
(文:衣輪晋一)

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