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(更新: ORICON NEWS

『黒い十人の女』、部外者が騒ぐ“不倫=絶対悪”風潮へのアンチテーゼ?

 お笑い芸人のバカリズムが脚本を務める連続ドラマ『黒い十人の女』(日本テレビ系)がネットを中心に「不倫ドラマは好きではないが、これはコメディになっていて好き」「愛人たちの心の声がオモシロすぎる」などと好評だ。不倫と言えば“ゲス不倫報道”などもあり、とくにここ最近では社会的に“絶対悪”的な風潮で総叩きされることが多いが、その“社会”すら皮肉ったバカリズムの創り出すセリフに「意外と物事の本質をついている」「その視点はなかった」とする声も多い。改めて同作の魅力について考える。

バカリズム版はスラップスティック色漂う壮絶コメディ

 同作の原作は名匠・市川崑監督の映画『黒い十人の女』。2002年にドラマ化され、続く2011年には舞台にもなった傑作だが、バカリズムはそれを斬新な形で現代版にリメイク。主演を務めるのは映画で主人公を演じた船越英二の息子・船越英一郎で、テレビドラマプロデューサーの風松吉(船越)が、妻&9人の愛人の計10股をかけたことから始まる、スラップスティック色も漂った壮絶コメディとなっている。
 愛人たちのキャラクターもさまざまだ。成海璃子演じる久未はテレビ局の受付嬢で風が既婚者と知らず、9人目の愛人となる女性。このあるごとにこの不倫から逃れようと考えるが結局逃れられず、合コンでいい雰囲気になった男も実は既婚者だったなど男運も悪い。舞台女優の佳代(水野美紀)は古くからの風の愛人。悪いのは風だから愛人同士仲良くしようとおせっかいをやく、ちょっとずれているところのある不思議な味わいの女性。アシスタントプロデューサーの美羽(佐藤仁美)は悪知恵が働く小悪党で、風を独り占めしようと画策するも、若い愛人たちに嫌われたうえに返り討ちにも遭う。ほかにも若手女優の志乃(トリンドル玲奈)や久未の友人・彩乃(佐野ひなこ)、脚本家の夏希(MEGUMI)と、美羽をババア呼ばわりして毛嫌いする個性豊かな愛人たちが登場。風を巡ってさまざまな駆け引きを繰り広げている。

「このように風は近場で次々と女性に手を出しており、愛人たちは互いに牽制しあうだけではなく、任侠映画や『キル・ビル』ばりの激しいバトルを繰り広げることも。原作の映画の愛人たちはどこか上品でしたが、彼女たちはチンピラのような口調で『クソババア』など言葉も過激。ブチ切れて顔に水をぶっかけたり、あんかけ焼きそばをぶっかけたりと、その掛け合いややり取りは、もはや“コント”。この愛人が鉢合わせをしてドタバタ劇を繰り広げる皮肉めいた作風は『黒い十人の女』というより、1991年に最も上演されたフランスの戯曲としてギネスブックにも登録された喜劇舞台『ボーイング・ボーイング』を思わせますが、視聴者は成海璃子、水野美紀、トリンドル玲奈らの振り切れたお芝居と同様、原作を尊重しながらも振り切ったバカリズムさんの台本を存分に楽しんでいるように思えます」(テレビ誌ライター)

当事者側が言えないけど言いたい“本音”を代弁している

 これまでにも不倫をテーマにした作品は多い。社会現象にもなった『金曜日の妻たちへ』シリーズ(TBS系)をはじめ、映画も話題となった『失楽園』(日本テレビ系)、松嶋菜々子と椎名桔平ら出演の『SWEET SEASON』(TBS系)、薬師丸ひろ子と内野聖陽ら出演の『ミセス・シンデレラ』、中井貴一、田中美佐子ら出演の『Age,35 恋しくて』、米倉涼子、松下由樹ら出演の『不信のとき〜ウーマン・ウォーズ〜』(共にフジテレビ系)、豊川悦司、夏川結衣ら出演の『青い鳥』(TBS系)、最近では上戸彩、斎藤工らが演じた『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジ系)も記憶に新しい。

 これらのほとんどは、当事者の男女の内面にフォーカスした辛く切ないラブストーリーが多く、なかには後味の悪いシリアス系の作品もあるが、昨今は『せいせいするほど、愛してる』(TBS系)や『ふればなおちん』(NHK BSプレミアム)、『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS系)などライトな味わいのドラマも登場している。そんななかでもバカリズム版『黒い十人の女』は、当事者10人の女性のそれぞれに真剣な姿を滑稽に描き出すことで、人間模様とともにそこに渦巻く愛憎をうまく“笑い”に昇華しており、さらには劇中に名言、迷言も多数飛び出している。
「代表的なのは、ドラマ冒頭の成海璃子さんのセリフ『そう、不倫です。皆さんが大好物の』や、不倫を咎められたときのトリンドル玲奈さんのセリフ『不倫が悪いことはわかっている。それでもやめられない』、別れてくれと迫る男への船越英一郎さんのセリフ『君が僕より彼女に好きになられるしかない』など。これらは、今年とくに多かった芸能人の不倫報道を楽しんでいるかのような世間の盛り上がりや、部外者がわけ知り顔で口出ししては謝罪を求めるような風潮へのバカリズムさんなりの皮肉やアンチテーゼではないでしょうか。軽い言葉ながら不倫の本質のど真ん中をズバリと突いており、当事者側が世の中に対して言えないけど言いたい“本音”を代弁しているようにも思えます」(同ライター)

 社会への不満や疑問、当たり前になっていることを、バカリズムは斜めからの視線で切り取り、おもしろおかしく風刺しているのだ。かつて喜劇王チャップリンはその代表的な映画『ライムライト』のなかで「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」と語った。バカリズムは“喜劇”という形で人間関係を遠くから眺め、照れたりせせら笑いをしたりしながらも、結局は人生の“ど真ん中”を見つめている男なのではないだろうか。本作のバカリズム節は、当事者たちが世の中に声を大にして言えない想いを、ギャグやあり得ない設定や大げさな展開でデフォルメしながらも、最終的にまっすぐな心の声を代弁しているような感もある。それは、昨今の不倫報道にいちいち大騒ぎする部外者(メディアと世の中)へのアンチテーゼにもなっているのではないだろうか。
(文:衣輪晋一)

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