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大竹しのぶインタビュー『 “悪女”について思うこと…「愛情を表せないのは切ない」』

直木賞作家・黒川博行氏が実際の事例を取材して執筆し、圧倒的なリアリティで話題を集めた小説『後妻業』を、鶴橋康夫監督がブラックコメディに仕立てた映画『後妻業の女』。婚活ブームに熟年離婚、高齢化に核家族化など、現代日本の世相を背景に、財産を狙ってリッチで孤独な老人の後妻に入り、その財産とときには命までをも吸い上げてしまう主人公・小夜子を怪演した女優の大竹しのぶに、本作への向き合い方、これまでにも演じてきた“悪女”について思うことを聞いた。

シュールに描かれているドロドロしそうな話

――黒川博行氏の原作小説の印象とはガラリと趣が異なって、化け物のように物騒な人々が集う、鶴橋ワールド炸裂! の映画でした。
大竹しのぶ私も鶴橋さんの脚本を読んだときに、原作と全然違うのでびっくりしました。コメディタッチになっていて、黒川先生が怒らないかな? って、ちょっと心配になったんですけど、先生が「小説と映画は全然違うものだから。すごくおもしろかった」って言ってくださったので、安心しました。鶴橋さんの作品に出てくる人って、すごいワルなんだけど、目が離せないというか、応援したくなるような人たちばかり。だけど切なさもある。もっとドロドロしそうな話を、鶴橋さんのオシャレな感じで、シュールに描かれていて。ホント、鶴橋さんの世界だなって思いましたね。

――本作の主人公・武内小夜子を、どのように演じようと思っていましたか?
大竹しのぶ若い頃、鶴橋さんと作ったテレビドラマ(大竹の女優復帰作となった、1990年放送のスペシャルドラマ『愛の世界』)でも、ちょっと悪い女の人を演じたんですけど、どこかかわいくて、どこか哀しいっていうのが、鶴橋さんの世界にはあって。今回も、そういう感じになるんだろうなと思っていました。「チャーミングでなくちゃいけないんだよ、小夜子は!」と言われていたので、“こんなに悪い人なのに”とは思っていたんですけど(笑)。でも鶴橋さんがそういう撮り方で、柏木(豊川悦司)とのコンビもポジティブで活き活きと描かれているので、演じていてすごく楽しかったです。

――小夜子とともに、老人たちを次々と騙していく結婚相談所の所長・柏木亨との関係は、どう捉えていましたか。
大竹しのぶ本当は女として好きだし「あんたのこと、好きやねん!」ってすごく言いたいけど、それを言ってしまうと仕事が成立しなくなるし、お金も入らなくなってしまう。柏木に捨てられるのも怖いから、どこかでそれを言わないみたいな部分は、私のなかにもありました。監督も「過去に一回半くらい、関係があった」みたいなことをおっしゃっていたので(笑)、豊川さんとふたりで、そういう感じでやっていましたね。

――小夜子の顔を自然にさわる柏木の仕草など、ふたりの親密な距離感は現場で作っていったのですか。
大竹しのぶふたりの空気感みたいなものは、自然とできていましたね。もともと(豊川さんとは)新藤(兼人)組で二回一緒だったので、そのときに大好きになって、お互いに信頼し合って。今回はもう「こうしようか、ああしようか」というやりとりがなくても、自然にやっていました。関西弁を話すところは、豊川さんは関西の方なので、いつもとは違う独特の感じでいいなあって。そこに乗せてもらった感じです(笑)。

イメージが悪くなるから監督に言おうかとも思った(笑)

――これまでにも新藤兼人監督の『ふくろう』(2003年/東北地方の開拓村で起きた、母娘による連続殺人事件を描いたブラックコメディ)をはじめ、数々の悪女を演じて来られた大竹さんですが、本作の小夜子は“悪女”だと捉えていましたか。
大竹しのぶいえ、そんなには……。もちろん悪い女なんですけど、面倒を見てあげたから、お金をもらって何が悪いの? という思いはありました。いま思い出したんですけど、『ふくろう』では、水道局員とか、国に仕える人たちを次々に殺して復讐する役だったんです。母娘で、男の人を次々と引きずり込み、1回だけ関係をもって、毒を飲ませて殺してしまい、お金を取っていくっていう……。
 全部で9人を殺す母親の役だったんですけど「どうせ殺すんだったら、関係を持たなくてもすぐに殺せばいいじゃないですか?」って新藤監督に聞いたことがあったんです。そうしたら「それがね、愛なんですね」って。「悪人の愛っていうか、そこはやってあげるんです。それが、この映画の優しいところなんです」っておっしゃっていて、あぁおもしろいなって。小夜子も、少なくともお金をもらうまでは“この人を幸せにしてあげる”という信念を持って接していたから、相手の人も短い時間は幸せだったろうなとは思います。勝手な言いぶんですけど(笑)。
――後半には「ホンマに欲しいもんには、必ず逃げられる」という、悲痛なナレーションもありましたが、小夜子は何を求めていたのだと思いますか。
大竹しのぶ愛ですね。たぶん親からも愛されないままに家を出て、生きるために働いて、お金しか頼るものがなくて、子どもができたけど、どう接していいかわからない。結局、ちゃんと人を愛せないし、愛されもしない。だけど一方では“何があっても、楽しく生きてやる!”みたいな強さやエネルギーもあって。だから人を殺すシーンでさえ全部(演じていて)楽しかったんですけど、子ども(風間俊介演じる岸上博司)とのシーンは“あぁいやだ”ってなってしまいましたね。どう愛していいのかわからないんだけど、どこかで大事なんだっていうことも、わかってる。だけど愛情を表せないっていうのは、切ないなって思いました。

――そういえば、殺人を犯しに行く小夜子は「黄昏のビギン」を口ずさんでいましたが、あの選曲は最初から決まっていたのですか?
大竹しのぶ途中で決まったと思います。あの歌は、山崎まさよしさんとデュエットで歌っているのに(デュエットアルバム『歌心 恋心』に収録)、こんなに悪いシーンに使われてどうしよう? イメージが悪くなるから、監督に言おうかとも思ったんですけど“ま、いっか。それはそれだな”って(笑)。実際に演じてみたら、気持ちよかったです。これから殺しに行くってときに、鼻歌を歌うっていうのは。

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