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“日本語ラップの先駆け”いとうせいこうが語る「永遠のアマチュアリズム」と「HIP HOP脳」とは?

日本語ラップの先駆者だから、裏をかくやり方も何となくわかる

――30年前『建設的』を作った頃のいとうさん自身、そして音楽業界はどんな感じだったんですか?
いとうせいこう アルバムを出した85年はいわゆる輸入盤のレコード屋が出てきたぐらいで、インターネットもYouTubeもないから、新しい音楽になかなか触れられない。だから僕の場合、FENっていう米軍が聴いている放送の中でHIP HOPを初めて聴いたんだけど、なんの音楽なのかよくわからなかった。でもすごい良かったっていう印象だけはあって、そこから“想像”をするし、それを元に“創造”して変なことが起こる時代だった。だから『建設的』は想像と創造の産物なんです。ちなみにこのアルバムの前に作った『業界くん物語』の中で、3人のDJがスクラッチしている曲があるんだけど、これは当時としては画期的なスタイル。多分、日本に6人ぐらいしかスクラッチをできる人がいなかったんじゃないかな。

――“スクラッチ”って言葉すら誰も知らなかったですよね。
いとうせいこう そうそう、何やってんの?って(笑)。で、やるほうはどうやれば針が飛ばないとか、マイクの音とDJの音が混ざらないんだろうとか、いろいろ差し替えてみたりして。

――まさに黎明期。
みうらせいこう だから手探りなんですよ。しかも音楽に日本語を乗せられない。それを“こんな風に乗せてみたらいいんじゃない?”ってやってみたら、日本語ラップが一気にできちゃった。そういう意味では幸福でしたよね。自分たちの前に誰もいないから、誰かに勝たなきゃいけないっていう意識も全くなかった。逆に今は誰かを越えなきゃいけないとか、他人のやり方を知っているぶん、大変ですよね。だから僕は誰もやっていないジャンルをやったほうが簡単に出て来れるんじゃないのって思う。そういう裏をかくやり方も何となくわかるしね。

――でもたいていの人はそれがわからない。
いとうせいこう 僕の場合は抜け方が知っているからズルいんだけど、それを長年やってきているし、未知の部分を探しにいくのがすごく好きだし楽しい。そのためならどんなマイナーなアーティストのライブも観に行くし、ライブの日にバラエティ番組の収録が入っても断っちゃう(笑)。でもそれを観に行っておくことが後々、大事なんです、この世界は。やるほうは僕が来ているかどうかちゃんと見ているし、それが信頼に繋がってそこから何かが生まれてくる。そういう“勘どころ”っていうのは必ずあるんですよ。

日本のHIP HOP界を自分がサポートしたい、それが僕の役目で編集者としての視点

――才能やセンスだけではなく、人の心を掴む勘どころですね。
いとうせいこう 裏切らないっていうのは大事。だから今回のフェスもいろんな人が来てくれるんだと思います。「せいこうがやるんじゃ仕方ない」「いとうくんの30周年を断ったら評判が悪くなるよね」ってなっちゃうから(笑)。で、あとはもう(いとうと)関わっていると、なんかおもしろいことが起こってきたよねっていう共通認識だと思うんですよ。そうやってお互いに目配せというか、これはいつもと違うな、これはメモリアルだなっていうのがわかってくれている。

――メモリアルならではのレアな場面やパフォーマンスもありそうですし。
いとうせいこう MCでは、僕も忘れていたエピソードがいっぱい出てくるでしょうね。で、楽屋でウルっとくるみたいな。かと思うと言わなくてもいいことを暴露するバカもいたりして、それが誰かもだいたい目星がついている。きたろうさんとか(笑)。

――では最後に、いとうさんが思う今後の日本のHIP HOP界への希望的観測は?
いとうせいこう 今はフリースタイルも高いレベルで使いこなせるヤツが出てきていて、それを聴いて育った10代が、20代・30代になったときにどのくらいまで行くのかなっていうのが楽しみ。それを日本文化の中でのひとつの位置づけとして、自分がサポートしたいなって思う。それが僕の役目であり、編集者としての視点なんですよね。

――いろんな活動をされていても、やはりいとうさんの中でHIP HOPが全てのベースなんですね。
いとうせいこう 僕の場合、ミュージシャンじゃなかった人間が音楽をやったわけですからね。でもそれって文明の流れというか。まさにアマチュアリズムで、『建設的』を出した当時はアマチュアがセンスだけでプロより上にいっちゃうっていう時代の始まりだったと思うんですよ。僕はそれが革命みたいで好きだから、自分はずっとそっち側の人間でいたい。そういう荒々しい無知というか、どうしようもない素人臭さみたいなものが僕の中でひとつの興奮要素になっているんですよ。例えばバラエティ番組でも、作家が考えてないところで誰かがボケてみんながツッコんで、それが後々名物コーナーになることもあるじゃないですか。それが好きで、あの即興ジャズっぽい感じを求め続けていきたいです。

――HIP HOPから最後はジャズへ(笑)。
いとうせいこう 結局、ブラックミュージックの魂が好きなんでしょうね。


(文:若松正子)

いとうせいこうフェス〜デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会〜

【開催日時】
9月30日(金) 開場 17時30分/開演 18時30分
10月1日(土) 開場 15時30分/開演 16時30分
【会場】東京体育館

【9月30日 出演】
有頂天/Aマッソ/鬼ヶ島/かせきさいだぁ&ハグトーンズ/ロロロ/須永辰緒/ダイノジ/田中知之(FPM)/DUBFORCE feat.Usugrow/東京パフォーマンスドール/中村ゆうじ/バカリズム/DJ BAKU/BOSE(スチャダラパー)/ホフディラン/真心ブラザーズ/みうらじゅん/DJやついいちろう+/いつか(Charisma.com)/RHYMESTER and more
【10月1日 出演】
上田晋也(くりぃむしちゅー)/蛭子能収/大竹まこと・きたろう(シティボーイズ)/岡村靖幸/かせきさいだぁ&ハグトーンズ/勝俣州和/ゴンチチ/サイプレス上野とロベルト吉野/Sandii/水道橋博士/スチャダラパー/須永辰緒/高木完/高橋幸宏/竹中直人/田中知之(FPM)/テニスコート/東葛スポーツ/ナカゴー/久本雅美/藤原ヒロシ/細野晴臣/みうらじゅん/MEGUMI/やや/ヤン富田/ユースケ・サンタマリア/LASTORDERZ and more

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