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遅咲きアーティストの秦 基博、10年目にして叙情性溢れる歌が評価
デビュー当時から業界内で評価が高く、“逸材”と言われてきた
また、杏子や山崎まさよし、スキマスイッチ、元ちとせなどの実力派が名を連ねるオフィスオーガスタに所属することからも、実力の高さがうかがえる。決して派手に活躍するタイプではないが、寡黙に「いい曲」を作り続ける姿勢と楽曲のクオリティには、その先輩たちも太鼓判を押す。それは他のアーティストからも同様だ。
秦への評価が高まるきっかけは、昨年8月に発売された映画『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌「ひまわりの約束」。郷愁に溢れたメロディと切なくも清々しい歌声が、多くの人の胸を掴んだ。最高位10位とランキングは振るわなかったが、映画のヒットと共に楽曲は一般のリスナーへと幅広く広まってロングセールスを記録するに至った。その後は、河瀬直美監督の映画『あん』主題歌の「水彩の月」、映画『天空の蜂』の主題歌「Q & A」が続き、一躍彼の名前は誰もが知るところとなった。それは業界も同様で、映画『あん』では、河瀬直美監督が彼の本物の歌声に惚れ込んでの直々のオファーだった。実際にアルバム『青の光景』収録曲の約半数には、何かしらのタイアップが付いている。このことからも、様々な業界が彼の歌を高く評価していることがうかがえる。
デビュー10周年を目前にしてのブレイクは必然
そんな「本物」が味わえるライブは、非常に人気が高い。10年でオリジナルアルバム5枚の発売に対して、2枚のライブアルバムと配信限定で3作、さらにライブ映像作品などライブに関わる作品を多く発売しているのも、そうしたファンの声の反映だろう。なかでもアコースティックライブは人気で、静まりかえった会場の真ん中にポツンと佇み、スポットをライト浴びながら聴かせるバラードは天下一品。歌声ひとつで観客を引きつける魅力を持っている。ライブの良さが、徐々に口コミで広まっていったことも、今年の活躍につながっている。
この10年について秦は「あっという間でした」と言う。「特に最初の5年は早かった。そこから地に足をつけて、これからどうするんだ? って、いろんなことを試行錯誤し始めたので、全体的にはあっという間ですが、後半の5年は長かったです」。今後については「より好き勝手にやりたいです」と、世の中の評価などどこ吹く風といった様子で、実にマイペースだ。決してブレることなくストイックに音楽と向き合って来た秦 基博。流れの激しい音楽業界にあってそれを維持することはとても難しいことだが、それができたのは彼の中に、「本物」が備わっているからこそ。その本物に対する正当な評価がなされたことは、実によろこばしいことだ。
(文:榑林史章)