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近所のおばちゃんから貴婦人まで 怪演女優・キムラ緑子

 2013年NHK朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』の大阪編で、“最恐キャラ”とまで言われた“嫁イビリ”役によって、一躍その名を全国区に轟かせた女優・キムラ緑子。以後、バラエティやトーク番組への出演も激増し、今期も『偽装の夫婦』(日本テレビ系)と『破裂』(NHK総合)の2本のドラマに同時出演。女優歴30年以上、そのベテランの演技力への需要は尽きず、今や引っ張りだこの売れっ子女優だ。キムラ緑子の実力、魅力に迫ってみたい。

“ヒール役”でブレイク 遅咲きのベテラン女優

 キムラは現在54歳、同志社女子大学在学中から演劇活動に携わり、卒業後『劇団M.O.P.』に参加、2010年の劇団解散まで看板女優として活動したのち、TVドラマなどで活躍し始めたのは2000年以降という、どちらかと言えば遅咲きの女優だ。ドラマのみならず映画、舞台と数多くの作品に出演し、先述のNHK朝ドラ『ごちそうさん』で久しぶりの“ヒール役”として一気にブレイク、以後キムラと言えば“イビリ”役のイメージがつきまとうことになる。役者歴30年以上の演技派女優が、「日本中のお茶の間を敵に回すかもしれない」(TBSラジオ番組『たまむすび』より本人談)との覚悟で演じた迫真の演技だっただけに、それも仕方がないのだろう。

 しかし実際は、『悪夢ちゃん』(日本テレビ系)のしっかり者の信頼できる校長役や、『医龍4』(フジテレビ系)の病院を裏で支えるベテラン看護師リーダー、映画『テルマエ・ロマエ』の上戸彩や『嫌われ松子の一生』の中谷美紀などのヒロインの母親役など、幅広い役柄を演じており、視聴者にしてもキムラとは気づかずに観ていた作品が多数あるのである。

 現在放送中の『偽装の夫婦』では、人間嫌いの主人公・ヒロ(天海祐希)の育ての母でもある叔母役。ヒロが25年前に唯一愛した男・超治(沢村一樹=ゲイ)と偽装結婚するという、ひと癖もふた癖もある人物ばかりが登場する物語だが、そんなクセ者だらけの中で、主人公ふたりに「お見通しなんだよ全部! このふたりが結婚してもうまくいくとは思えませんけど」と言い捨て、タバコを吸いながら魔女のような目をヒロに向けるといった、ぶっちぎりの毒を放つ役どころを怪演している。

 一方『破裂』では、画期的な心臓病の治療法を発表した医大の准教授(椎名桔平)の父でありながら、いっさい認知せずに放置してきた国民的俳優(仲代達矢)の内縁の妻役。仲代をけなげに支えながら、椎名と40年ぶりに再会した父子の仲を取り持つという、明るく聡明な女性を演じており、このまさに両極端とも言える難しい役柄をいとも簡単に演じ分けるところに、キムラの実力のほどが現われている。

演技の幅で魅了 キムラにしかない“凄味”

 自分の個性を消してあらゆる役に入り込むキムラは、“カメレオン女優”との異名も持つ。全国区にキムラの名が知られるまでは、視聴者も「あの意地悪なオバちゃん役の人ね」的な認識をしていたが、それは取りも直さず、キムラがあまりにも自然に役に溶け込み、それぞれの役柄の印象も異なるため、観てる側も女優というよりは役の人物として記憶してしまい、今になって「あの女性はキムラだったのか」と気づくほどなのだ。まさしくカメレオン女優の真骨頂であると言えるだろう。

 テレビ局などの制作側にとっても、キムラは貴重な存在だ。劇団時代から培ってきた演技力は折り紙つき、キレイな熟女から化粧っ気のない近所のおばちゃんまで、主役を食わないようにどんな役でもこなす。しかも、朝ドラの“イビリ役”で広く知られるようになってからは、「キムラが出演しているから、そのドラマを見る」という“キムラマニア”まで出現しているというのだから、引っ張りだこにならないほうがおかしい。

 50代の熟女優の中でも、キムラほど幅の広い演技力を持った女優はそうはいない。ましてや、視聴者が本当に“怖さ”を感じるような演技ができる女優ともなれば、キムラしかいないかもしれない。遅咲きのベテラン女優とも言われるキムラ緑子だが、これからさらに経験と年齢を重ね、ますます“凄味”のある演技を見せてくれることだろう。

(文/五目舎)

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