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主役を食う存在感 “究極のバイプレイヤー”升毅の演技力
重要な役どころが多く、存在感を発揮できるポジションに恵まれていた
升は1955年生まれの59歳。NHK大阪放送劇団出身のベテラン俳優で、『劇団MOTHER』を主宰(2003年に解散)するなど、大阪を拠点に活動していたが、のちに東京に進出。テレビドラマや映画など、出演者の脇を固める役がほとんどだが、実は重要な役どころがわりと多く、存在感を発揮できるポジションに恵まれていたとも言える。『沙粧妙子−最後の事件―』(95年 フジテレビ系)では、浅野温子演じる沙粧の元恋人で、IQ187の超天才。元プロファイリングチームのリーダーだったが、多数の殺人犯と接見するうちに快楽殺人に目覚めてしまうという役で、その猟奇的な演技が話題になった。『インディゴの夜』(フジテレビ系)では強烈なニューハーフ役を演じるなど、極端にキャラの違う役を多数こなし、ドラマや映画の出演本数は数百本にのぼる。NHKの連続テレビ小説にしても、1983年放送『よーいドン』から今回の『あさが来た』まで、計7作に出演しているのだ。
実力に裏打ちされた演技力だからこそ可能な『あさが来た』の父親役
ドラマの関西弁にしても、升本人が中学時代から大阪で暮らしているので、“付け焼刃感”ゼロの流暢なもの。要するに升が、裕福で幸せな典型的な一家の大黒柱を見事に演じて見せているということなのだが、娘のはつ(宮崎あおい)の嫁ぎ先が、姑は超“いけず”(関西弁で意地悪の意)な嫁イビリの鬼・萬田久子、夫は小心者で女嫌いの変わり者・柄本佑という強烈な一家だけに、升の安定感のある演技力が、父親の“いいお父さんぶり”をいっそう際立たせるという構図になっているのだ。これは、ただ卒のない演技をしいていればいいというレベルでは成り立たず、しっかりとした実力に裏打ちされた演技力を備えている升だからこそ可能なことだと言えるだろう。
これまで、持ち前の端正なルックスからか、大企業の重役、官僚、弁護士といったエリート役の印象が強い升だが、実は娘に冷たくされる中間管理職のお父さんといった庶民的な役もフツーに演じてきている。印象の度合いはありながらも、幅広い役柄を確実に次々とこなしていく升は、ある種“究極のバイプレイヤー”と言えるだろう。そうした意味で、先述した“ドラマでよく観る顔だが、名前と顔が一致しない典型的な俳優”といった表現は、役者に対する最大級のリスペクトでもあったはずなのだが、今回の『あさが来た』の好演で、升毅は今後、“誰もが知っている名優”になっていくのかもしれない。
(文:五目舎)