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デビュー30周年の今井美樹が、英国生活を語る

 英国に移住して3年。デビュー30周年を迎える今井美樹が自身の歌手生活の集大成ともいえるアルバム『Colour』を発売した。今作は豊かで深みのある言葉とサウンドに溢れた、カラフルで心躍る作品だが、そんな楽曲を生み出せたのはロンドンで味わう時間=生活のおかげとのこと。紆余曲折を経てここに辿り着いた現在の心境、そしてアーティスト・今井美樹の30年を語ってもらった。

英国に移住して家族の雰囲気が柔らかくなり、自然と家族の会話も増えた

――英国に移住して約3年ですが、ロンドン生活も慣れましたか?
今井 今でもアップアップです(笑)。行ったばかりの頃は「まだ来たばっかりだから」という言い訳も通じていましたが、そこからさらに3年経っても、私はまだまだです(笑)。ただ、英国では“生活者”として過ごしてます。ロンドンは日常の時間の流れが東京とは随分違うので、自然と自分自身の心持ちも視点も変わったというか。呼吸も穏やかになって、深呼吸している気がします。だからこうしてたまに東京に戻ってくると、ちょっと呼吸が早くなっちゃうんですよ(笑)。

――ペースがまったく違うんですね。
今井 やっぱり東京は特別だと思います。みんなが素晴らしく勤勉でマジメで全てがスピーディー。スピーディーであるってことは大きなサービスにもなっていて、それでいろんなことがめまぐるしく回っている。それに比べるとロンドンはゆとりを持った考えが必要になってくる、というか(笑)。 でも怠けているとかグズグズしているわけじゃないんですよ。例えば英国って基本的に、1800年代とか古い住宅を改装して暮らしていることが多いので、水道管とか電気とかいろんなところでトラブルが出てくるのは日常茶飯事です。それで、修理屋さんを呼んでも 、「朝の8時から2時の間に行く」って言われたりするので、その間、ずっと外出もできずに待つことになるんですよ。

――ほぼ半日が潰れちゃいますね(笑)。
今井 はい。最初は本当にイライラしましたがしょうがないんです、みんなそうだから(笑)。近所の商店街も5時半に終っちゃうので、その前にお買い物を済ませなきゃ、という感じ。でも基本的に、仕事はきちんとする、そしてそのあとはちゃんと自分の時間を確保する、要はそれぞれが自分の時間を確保することを大事にしている、ということです。仕事第一で遅くまで働いて儲ける、というよりは、家族の時間や自分自身の生活を大切にするっていうことが基本になっていて、お互いがそれを守り尊重しているので、ある意味フェアではあるんです。

――では、今井さん含め、ご家族のみなさんも時間の使い方が変わりました?
今井 家族の雰囲気が柔らかくなりました。娘に関しては年頃なので別の意味で難しいこともありますが、夫は仕事で出かけても、例えば相手のプロデューサーが夜の7時には必ず家に帰る人だったりすると、自分も帰宅して夕食は家で食べるみたいな。日本だったらスタジオ作業なんて、そのままスタジオで出前とって食べてまた遅くまで続きをやる、とか、仕事の後に飲みに行って夜中に帰るなんてこともありましたが、ロンドンは基本的に遅くまでお店があいていないので、必然的に早く帰ることになります。そうなると、自然と家族の会話も増えますし、いろんなところでムリやり感がなくなって優しくなるというか。何でもない時間もぐっと深く味わえるようになった気がする。そこは東京にいるときとは大きく変わりました。

――ロンドン移住は大正解だったんですね。
今井 そうですね。仕事人として生きて、あれもこれもしなければとあくせくしていたのが東京にいた頃の自分だとしたら、そこまでしなくても別にいいかなって思っているのがロンドンにいる自分。ただ、そこは年齢もあってもし10年若かったら、やっぱりロンドンでもあれもこれも、となっていたと思います。でもこの年代になると、体の都合も心の在り方も変化するので、大切なものの優先順位も変わってくる。だから単に「ロンドンはいいですよ」って言っているわけではなく、あくまで私たちにとってこのタイミングで新しい生活をスタートさせたことは正解だったなと。そして、その生活を楽しんでいる自分がいる。そんな気持ちでいられることが何より幸せなことだなって思います。

今井美樹と布袋寅泰が心躍ったこととは

――6年ぶりのオリジナルアルバムは、そんな現在の今井さんを体現したような内容ですね。豊かで深くて、でもとても軽やかな印象の作品だなと思いました。
今井 もし「今井さんにとってロンドンって何ですか?」って聞かれたら、“カラフル”って言葉ですね。なぜならロンドンは日差しや街路樹、レンガの壁もすべてに“色”がある。しかもさっき言った時間の流れもそうだけど、そこに深みや奥行きがあるんです。そういうものを見たり感じたりできる自分の心持ちもカラフルだなと思って、このタイトルにしたんですが、歌詞もそんな自分が日々思ったことや発見したことを反映させています。作詞をしてくれた岩里(祐穂)さんや(川江)美奈子ちゃんとは「今日、こんなことがあった」とか「こんなこと思った」とか、日常の生活をスカイプでインタビューしてもらうように話して。そこから出てくる言葉が彼女らの触手を刺激するっていう作業をして、生まれてきたものなんです。

――サウンドに関してはどのように? 今回は夫である布袋寅泰さんをはじめ“今井美樹サウンド”を作ってきたこれまでの制作陣に加え、サム・スミスのアルバムを手掛けたサイモン・ヘイルや、シャーデーのコアメンバーであるアンドリュー・ヘイルなど、錚々たるプロデュース陣が名を連ねていますが。
今井 サウンドはまず、私と布袋とディレクターの3人の中で“心躍る”がテーマで一致していまして。というのも、プロデューサー陣もほとんど私たちと同年代の方ばかりで、自分たちが大人になる80年代の、AORやUKサウンドなど素晴らしい音楽を浴びるように聴いていた世代なんですね。だから今でもあの頃の曲を聴くとみんながワクワクする。じゃあ、それをこのアルバムでやろう、とみんなの気持ちはすぐ同じ方向を向きました。

――今井さんの歌をずっと聴いてきた、リスナーにとっても嬉しいですよね。
今井 私の曲を聴いて下さるリスナーの多くは、仕事や社会、家族とか、誰かのために生きている年代だと思うんですね。そうなると、毎日の中で、若い頃のように音楽を味わってもいられない。自分自身でもそれをすごく感じるからこそ、そんな世代の人たちの心にまだついているだろう種火にまた火をつける、そんな心踊る音楽をやりたかったんです。

――日本ではなくロンドンで制作するのも、最初から決めていたんですか?
今井 最初、布袋は日本で制作したいのか、それとも日本の作家陣をロンドンに呼ぶのか、一応私に聞いてくれました。でも、今ロンドンで暮らしているのが私たちの日常なんだったら、ここで彼らと一緒に現地で制作するほうが自然だしリアリティがあるんじゃないかなって思いました。もちろん布袋もそうするべきだ、と思っていて「君にはロンドンにもう素晴らしい音楽仲間がいる。同じ時代に、すでに素晴らしい音楽の中にいた彼らが奏でる、上質なサウンドは君はとっても似合うと思う。それをやるべき」。それも私の中では“心躍る”という部分でイコールだったんですよ。

――レコーディング中も心躍りました?
今井 歌っているうちに、必死で音楽を追究していたかつての自分と結びついて、ひとりでクスッと笑ってました(笑)。3枚目のアルバムくらいからいろんなトライアルをして、音楽に浸かりっぱなしでした。あ〜こういうことをしたかったんだよねって思い出したりもしました。

今井美樹、せつなさ、迷いや不安もいっぱい……

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