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男性ソロ歌手はなぜブレイクしにくいのか?

 ここ数年、音楽業界の関係者の間で「男性ソロ歌手のスターの不在」ということがよく話題にあがる。男性グループが華やかな活躍を見せる一方で、男性ソロ歌手は老若男女に楽曲、名前が浸透するような大ブレイクが難しいというのだ。男性ソロ歌手はなぜブレイクしにくいと言われるのだろうか?

“スター”が生まれやすい女性ソロ

  • きゃりーぱみゅぱみゅなど女性アーティストはビジュアル面での差別化が図りやすい。写真は3月発売のきゃりー新曲「もんだいガール」ジャケット写真

    きゃりーぱみゅぱみゅなど女性アーティストはビジュアル面での差別化が図りやすい。写真は3月発売のきゃりー新曲「もんだいガール」ジャケット写真

 最近はギター女子やガールズバンド、ファッションアーティストなどが人気を集めているが、女性に目を向けてみると、2、3年おきに“スター”と呼ばれる存在が生まれているように思う。若い女性のライフスタイルやリアルな言葉を徹底的に追求し、共感を呼ぶ歌詞とファッションで人気を集める西野カナ、“KAWAIIカルチャー”の代名詞として、国内外での知名度を獲得したきゃりーぱみゅぱみゅ。このほか、『テラスハウス』出演をきっかけに若い女性を中心に絶大な支持を受けているchayや実力派シンガーとして認知され始めた大原櫻子も、今後の活躍が期待される女性シンガーだ。

 しかし多彩で華やかな顔ぶれが揃っている女性アーティスト勢に比べ、男性ソロアーティストはどうしても地味で見劣りしがちというのが正直な印象だ。もちろん、KREVA、秦 基博、MIYAVIなど、個性的な音楽性とある程度のポピュラリティを共存させているアーティストは存在し、CDもある程度の安定したセールスを記録している。しかし、老若男女問わず幅広い層に楽曲と名前が浸透し、その後も人気を継続させている“スター”と呼べるほどの男性ソロ歌手は、グループからのソロデビューなどを除いては2000年代半ば頃にブレイクした平井堅以降、現在に至るまで登場していないのだ。

女性に比べて差別化を図りにくい

 男性ソロ歌手がブレイクしにくい理由としてまず挙げられるのは、「ビジュアル面での差別化」を図りにくいこと。現在の音楽シーンでは、例えばきゃりーぱみゅぱみゅなどのようにアーティスト本人に個性的なビジョンとアイディアがあり、それを具現化するスタッフワークを備えているセルフプロデュース能力の高いアーティストがブレイクする傾向がある。楽曲とビジュアルのトータルで世界観を表現するのだ。しかし、若手男性ソロ歌手はファッション面で奇抜なことがしにくいため、歌の世界観をファッションで補完しにくい。

 また、ずばり「人材不足」という理由もあるだろう。プロダクション、レコード会社などの新人発掘担当者に話を聞くと、ソロシンガー、ソロアーティストを含めて、プロを目指し活動しているのは圧倒的に女性が多いと聞く。男性が将来の夢として“音楽アーティスト”を目指さなくなってきているのだ。さらにこうした傾向は悪循環を生み、女性の場合は「あのアーティストみたいになりたい」という目標が数多く存在するが、男性の場合は「こうすれば成功に近づける」というロールモデルを持ちづらくなっている。

新たなアプローチでコツコツと人気を伸ばす男性ソロ

 しかし現在のシーンにフィットしながら、新しいアーティスト像を打ち出す男性ソロも少なからず存在している。そのもっとも顕著なケースは三浦大知。日本人の男性ソロ歌手としては珍しい歌唱力やダンスパフォーマンスは“和製マイケル・ジャクソン”とも称され、コツコツとCDセールス、ライブ動員をアップしてきている。また、投稿動画サイトで音楽活動をスタートさせた米津玄師は、映像表現を効果的に絡めながら、自身の音楽観を浸透させてきた。ボーカロイド楽曲の制作で培われた強度の高いソングライティングと緻密なアレンジメントも素晴らしいが、彼の特徴はイラスト、MVなども自身で手がけていること。楽曲の世界観と強くリンクした映像、ビジュアルを自分で作ることで、その音楽世界を大きく広げているのだ。米津の音楽が世界的な評価を得ているのも、ビジュアルと楽曲の総合的な効果と言えるだろう。

 女性アーティスト優位の状態が続いている日本の音楽シーンだが、男性アーティストの新たなスターを望む声は大きい。大きなポテンシャルを持ったアーティストがその才能に見合う評価を獲得すれば、いまの状況は少しずつ変わってくるはずだ。

(文/森朋之)

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