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“ユルい番組”が“王道”になることへの懸念

 ひと口にテレビ番組と言っても歌番組、スポーツ番組、クイズ番組など多種多様である。報道に重きを置いたりドキュメントを追求した“硬派な番組”もあれば、旬の人物や事象を掘り下げていく“トレンドを捉えた番組”、さまざまな情報を集めて紹介する“リサーチ系の番組”もある。そんななか、漫然としたスタンスで楽しむことのできる“ユルい番組”が、いわゆるキー局において多々見かけるようになった。近年のテレビ業界に何が起こっているのか? “ユルい番組”が増殖することでスタンダードになることは本当に正しいのか?

ニッチな存在だったからこそニーズがあった“ユルい番組”

  • 『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(京都〜出雲大社編)

    『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(京都〜出雲大社編)

 テレビには“王道”というものがある。それは上述した例から挙げるならばニュースなどの“硬派”な路線でもあるだろうし、時代のトレンドが集まった、バラエティ色の強い番組かもしれない。そして、そこには多分に情報が集まっていた。それらを吟味したり、そこから刺激を受けたりすることで我々はテレビを楽しんできた。

 ところが、今や“ユルい番組”が花盛りである。情報と呼ぶほどの刺激や“引き”があるのでもなく、あっと驚く展開や興味深い事実を追い求めるのでもなく、どちらかといえばゆったりとして気持ちで接することのできる番組。代表的なものが、太川陽介と蛭子能収による『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(テレビ東京系)だ。路線バスと徒歩だけで規定の日数以内に目的地へ辿り着かなければならないという設定。そこに“旅”番組にありがちなお得な情報は出てこない。名所や名産も取り上げなければ、宿泊先の細かなデータも紹介もしない。ひたすらゴールも目指すという1点で番組は進行する。しかし、この“ユルさ”が視聴者に支持された。テレビ東京ならではの自由な番組作りが生み出した快挙と言える。同局にはこれまでにも『田舎に泊まろう!』や『モヤモヤさまぁ〜ず2』をはじめ、そうした“キー局には出せない味わい”を持つ成功例が多々ある。

 それが、ここにきてキー局が“ユルさ”を追求し始めた。これまで特番として定期的に放送されてきた『路線バスで寄り道の旅』(テレビ朝日系)が4月からレギュラー化されたのもそのひとつ。また、先に挙げた『モヤさま』や『有吉くんの正直さんぽ』(フジテレビ系)のような“あてどもなく散歩する”番組にも視聴者の目は集まっている。『志村どうぶつ園』(日本テレビ系)『トコトン掘り下げ隊!生き物にサンキュー!!』(TBS系)をはじめとする、動物をメインにした番組も多い。大がかりな仕掛けもいらなければ、出演者に頭を悩ます必要も少ない。予算など複合的な事情もあって、似たような企画が生まれやすい状況なのかもしれないが、これまでそのユルさゆえに、群雄割拠するテレビ界にあって異彩を放ってきた“ユルい番組”が王道になりそうな勢いなのだ。ある意味、ニッチな存在だったからこそニーズがあった“ユルい番組”が、テレビ界においてメインを張ってしまう今の状況とは正直どうなのだろうか。

“ユルい番組”が王道になることで、“刺激”までをも封印しかねない

  • 『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(松坂〜松本城編)

    『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(松坂〜松本城編)

 そもそも、こうした“ユルい”けれども“面白い”番組を次々に生み出してきたテレビ東京は、「予算がない分、知恵を絞りました」的なスタンスから、“ユルさ”という武器を手にした。だから、そこには“ゆるさ”とともに“尖った”部分も多々あった。東京ローカル局だからこそできる“ユルさ”の“面白さ”。『ローカル路線バス〜』も『田舎に〜』もオンリーワンの状態の時には、尖った存在だった。しかし、世の中の流れが全て同じ方向へと向かっていくと、そこにはマンネリが生まれてくる。“ユルさ”のマンネリが増幅された先に待ち受けるものは退屈でしかあり得ない。

 『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』も『路線バスで寄り道の旅』も『有吉の正直さんぽ』もそれぞれのカラーがあって面白いし、ここで“ユルさ”を全否定するつもりはない。だが、“王道”がしっかりと確立されているからこそ“ユルさ”の味わい深さが際立つのは間違いのないことだ。ユルい番組が王道になってしまったら、テレビはその“毒”や“刺激”までをも無くなってしまいかねない。つまり、“ユルさ”にシフトすることで“攻め”のスタンスが作れなくなってしまうのでは? と危惧してしまう。

 インターネットの普及により“視聴者離れ”が囁かれて久しいテレビ。王道たりうる、“時代の写し鏡”のようなソフトを提供することこそが、最大の“メディア”であるテレビの使命なのだ。

(文:田井裕規)

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