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安田顕『抑えられた空気がとぼけた味わいに…『アオイホノオ』で話題の個性派俳優』

巧みな演出とキャストの怪演で、漫画ファンだけでなく幅広い層をざわつかせているドラマ『アオイホノオ』。同作で、主演の柳楽優弥とともに脚光を浴びているのが、庵野ヒデアキ役の個性派俳優、安田顕。これまでにもドラマや映画で活躍している俳優であり、演技への評価も高い。安田とはどんな人物なのか。

◆『水曜どうでしょう』の“なかの人”から

 80年代の大阪芸大を舞台にし、漫画家やクリエイターたちの若き日の姿を描くドラマ『アオイホノオ』。同作で物静かななかにもほとばしる才能を感じさせる庵野ヒデアキを怪演している安田顕。どう見てもアラフォーな彼は、ほかの大学生役の俳優のなかでは浮いているのだが(38歳のムロツヨシもいるが)、ドラマを見ているといつしかそんな不自然さは消えてしまう不思議な存在である。

 『アオイホノオ』のほかにも、『ショムニ2013』『隠蔽捜査』などのドラマでたびたび見かける安田だが、そのキャリアのスタートは大学で大泉洋らと劇団TEAM NACSを立ち上げたところにあった。その後、大泉とともに出演した『水曜どうでしょう』で、安田はHTB(北海道テレビ)のマスコットキャラクター“onちゃん”(のなかの人)などを演じ、ときにはひどい仕打ちを受けて笑いと同情(?)を買っていた。

 その後、2000年代後半からは東京での仕事が増え始め、NHKの大河ドラマ『功名が辻』や、連続テレビ小説『瞳』などに出演。『どうでしょう』の“なかの人”からの出世ぶりに喜んだファンも多かった。

 また、日本テレビ系『ハケンの品格』では、篠原涼子演じるヒロインが登録している派遣会社「ハケンライフ」の社員の一ツ木慎也として登場。腰が低くおだやかで、なにかとヒロインをサポートする役で人気を博す。このキャラクターは、名前こそ変わったが『ハケンの品格』と同じく日本テレビ系の水曜10時ドラマ『ホタルノヒカリ』にも二ツ木昭司として引き継がれた。

 これには裏話がある。『ハケンの品格』と『ホタルノヒカリ』、そして『anego〜アネゴ〜』の3作品は、もともと「働く女性のリアルストーリー」というコンセプトで企画されている。そのため、作品のプロデューサーやスタッフなども共通している。安田もそんななかのひとりで、原作『ホタルノヒカリ』にはない、ドラマ版オリジナルのキャラクターとして出演することになったため、前作の一ツ木からの流れで二ツ木という名前になったとのこと。

 また、スピンオフドラマ『メンズホタルノヒカリ』では、安田が一ツ木と二ツ木の二役を演じ夢の共演(?)も果たしている。もしもまた「働く女性のリアルストーリー」が制作されるとしたら、今度は一ツ木と二ツ木に加えて、三ツ木というキャラクターでも登場してほしいものだ。

◆素顔は飲んだくれで、下ネタ&脱ぎ好き…!?

 こうしたサラリーマン役での安田は、実際に会社にいそうだなと思わせるリアリティがある。おだやかで、仕事もそこそこできて、いたって普通だけど正しくて、という役。そして、普段はあまり意識はしていないけれど、「よく見たらハンサムなのよね」と周囲のOLたちに言われていそうなキャラクターなのである。イケメンではなくハンサムというところもポイントだ。

 俳優以外の素顔はというと、TEAM NACSでの安田は、飲んだくれで、下ネタ好き、脱ぎ好き。『ハケンの品格』や『ホタルノヒカリ』の俳優として見ていると、まさか?と目を疑ってしまいそうだが、TEAM NACS内では、すっかり変態キャラとして通っている。ところがその一方では、家族思いで情に厚い面もあり、父親としてのエピソードを綴ったエッセイ『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』には、そんな一面が詰まっている。

 しかし、安田の変態性の才能に目をつけ、開花させた(?)のは、演出家の福田雄一だろう。2009年の映画『大洗にも星はふるなり』をはじめ、2010年の舞台『スマートモテリーマン講座』、2013年の映画『HK/変態仮面』、2014年の映画『女子ーズ』、そして現在放送中のドラマ『アオイホノオ』に至るまで、福田作品にとって、安田は欠かせない役者のひとりになっている。

 とくに『HK/変態仮面』では、朝ドラでのさわやかな演技が記憶に新しい鈴木亮平が演じる主人公の色丞狂介/変態仮面のライバルのニセ変態仮面として出演。劇中で、頭にパンティーをかぶり変態役に徹する安田だが、不思議といやらしさというものを感じない。それどころか、ときに仙人や紳士のような雰囲気を漂わせているのだ。なぜなら、安田はどこか老成した顔立ちと落ち着いた声をもっていて、何をやってもどんなにはじけてもどこか抑えられた空気があり、それが逆にとぼけた味わいとなる。つまり、枯れているのだ。あんなふうに思慮深そうな変態を演じられるのは、安田以外にいないだろう。

◆男性が共感するダメ男な部分が魅力

 現在放送中の『アオイホノオ』では、庵野ヒデアキ役を熱演。安田自身は、「役をいただいたとき、僕は『エヴァンゲリオン』という作品を観たことがありませんでした。庵野さんがすごい方なんだと知ったときはもう収録が進んでいて……」と、これまた独特なコメントをしていたが、こちらの作品でも、その存在感はとびぬけている。福田作品ではあるが、この作品では変態性は抑えめで、そのぶん、なにか奥に秘めたものを感じさせる。

 このコンビでの仕事はまだまだ続く。秋には、巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『三十九夜』を原作とした福田雄一演出、渡部篤郎主演の舞台『THE 39 STEPS』にも安田は出演予定だ。

 安田の所属するTEAM NACSの全員が福田雄一演出で、フジテレビNEXT等で放送の『the TEAM NACS perfect show 〜なんでこんな時に〜』に出演した際、TEAM NACSのメンバーである戸次重幸が、「福田さんからの安田への信頼ぶりは言葉にならない」と半ばうらやましそうに語っていた。これからも福田作品で、安田の魅力はいかんなく発揮されることだろう。

 しかし、ときどきは一ツ木や二ツ木のような、女性が見てほっとできるサラリーマンや上司の役を、50代、いや60代になっても続けてほしいものである。安田顕という役者は、男性が共感するダメ男な部分が魅力なのはもちろんだが、そんななかにも非常に人間的で、隠していても漏れ出てしまうような優しさがある。これから、枯れれば枯れるほどそんな部分がいい具合に見えてきて、女性の人気がさらに高まりそうな気もしているからだ。
(文:西森路代)

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