さだまさし『泣き所が満載の作品』

さだまさし原作の小説『サクラサク』がついに映画化された。もともとはさだの父親がロシアから若狭に引き揚げた時の記憶がモチーフ。そこに、お父さんと息子、そしてバラバラだった家族の絆というテーマが盛り込まれ、旅を通しての絆の再生が描かれた短編小説だ。さだは今回、田中光敏監督のたっての要望で主題歌も担当した。もともとシンガーソングライターであるさだの映画との関わり合い方にせまった。

ちょっと泣けるところが多い作品なんです

――完成した映画『サクラサク』をご覧になって、原作者としてはどんな感想をお持ちですか?
さだ泣き所が満載の作品ですね。号泣っていうんじゃないけれど、ほろほろってちょっと泣けるようなところが多いんです。ところが、僕は、ドラマ『かすてぃら』にも出演してくれた佐々木すみ江さんが(試写会で)席を探していたから、「ここが空いてますよ」って横に呼んだのね。それが間違い。原作者が出演者の横で泣いていたら恥ずかしいでしょ。で、泣くわけにはいかなくなって。ただ最後のシーンが素晴らしくて、これはもうダメだ、となった瞬間、今度はエンドロールで自分の歌のイントロが流れてきて覚醒しちゃいました。

「だめだ! さだまさし、もっといい曲があっただろう」とか、「これじゃ、映画に悪いな」とか考え始めたら、我にかえっちゃって。

――映画に悪いどころか、とても美しいメロディで、映画にぴったりの主題歌だと思いましたが。
さだ田中(光敏)監督の熱烈な要望があって書き下ろしの新曲を主題歌にしたんです。スタッフもすごく喜んでくれましてね。先日PVを映画スタッフが撮影してくれたんですが、その時もレールの上のカメラを押しながら助監督さんが口ずさんでくれててね。監督からも原作者じゃないと書けない素晴らしい主題歌ですと褒めていただけて。だから、主題歌の作者としては幸せではあるんですけど……。

 でも、主題歌は別の人にやってもらった方が良かったとも思いますね。作品と関わりあうというのは本当に難しいことで……。僕が原作者だけに、主題歌という石を本編に寄り添ったところに置かざるを得なかった。それが悪いわけではないけれど、常にもっと良い選択ができただろうという気持
ちとの葛藤ですね。これが自分の原作でなければ、「ほおれ、お泣き!」っていう歌にしただろうね。

――家族の再生というテーマの、大きな出来事のないほんのりと幸せを感じるような話だと思うのですが、出演しているみなさんの演技が素晴らしいので、思わず最後まで見入ってしまう作品でした。
さだ小さな話なんですよね。どこの家族にでも必ず潜んでいるような痛みの話で、命をやりとりするほどの大きな話ではないんです。そういう意味では、この小説が本当に映画になるのかなと不安にもなりましたね。

 ところが、みなさんの演技が素晴らしかったね。緒形(直人)君のおさえた、何でも受け止めてしまう演技が良かったです。また藤竜也さんの目だけで(認知症と現実の世界を)行き来する演技はすごかったですね。藤さんについては雨のシーンも凄味があったな。

 この映画はストーリー通りに撮影していってるんです。その過程で、出演者同志が本当の家族のようになっていくんですね。それが画面にあらわれているのがいいですね。おじいちゃんがお嫁さんに「昭子さん手をつなごう」というシーンがあるんですが、あれは藤さんのアドリブなんですよ。(お嫁さん役の)南果歩さんが藤さんに耳うちされたらしい。あの瞬間に出演者のみなさんも本当の家族になったんでしょうね。

――主題歌「残春」は言葉数の少ない、聞く人がさまざまに解釈できるような作品です。原作の中でモチーフとなった詩がおじいちゃんのノートの中に出てきますね。
さだ最初はあの詞にメロディをつけることも考えましたが、これはもっと父と息子が向かい合うような歌にするべきだなと。詩はあまり饒舌じゃなく、肝心なところに石を置いていくような歌で、サビは応援歌にしたいなと。「心に咲く花は季節を選ばない」という詞を思いついた時に、このラインでいこうと決めましたね。「残春」はおじいちゃんから息子への遺書なんです。で、さらにその息子に伝える遺書でもあるんです。

小説はどこでも書きます

――さださんが歌詞にするテーマと小説にするテーマの違いはありますか。
さだテーマ自体は変わらないですね。いのち、じかん、こころ、メッセージですね。そのテーマに沿わないものは書く意味がないと思っています。その中で、何を表現するのかで違ってくると思います。たとえば、『解夏』の見えなくなる恐怖感をどう乗り越えるのかという決心の瞬間は歌にはできない、だから小説なんです。『サクラサク』だって、こんな微妙な話は歌にしちゃったらきれいごとになってしまうでしょう。逆に主題歌の「残春」は“老い”というテーマに踏み込んでいて、ストーリーを排することで、小説以上の広がりがあると思います。

――シンガーソングライターとしてのさださんはよくスタジオで作詞していますが、小説家として執筆がはかどる場所なんてありますか?
さだどこででも書きますよ。逆に、ここじゃなきゃダメってところがあると、僕のような活動をしている人間は終わっちゃいますから。ただ、自分の部屋で書くのが一番楽ですけどね。というのは、大型のディスプレイを入れているので、文章を打つ時に目が楽なんですよ。肩も凝らないし。持ち歩きのMac Bookだと、肩ががちがちになっちゃうからね。ただ追いつめられれば、それこそ飛行機でも新幹線でも書きますけど。

――ところで、映画監督はかつて負債の元となった『長江』以来やってませんが、興味はいかがですか。
さだもちろん興味はあります。ただ懲りてますからね。自分の力で映画を撮るなんて大それたことしちゃダメですよ。そうだ、今度脚本集を書きますよ。映画3本分くらいの脚本を1冊にまとめて出せば、それを読んだプロデューサーの誰かが「まさし、この脚本を撮ってみない?」って言ってくれるかもしれない。誰かがそれを言ってくれないかと思っています。ただ小説は書き始めたばかりでまだたくさん書けそうですし、しばらくは書く方が忙しいかもしれません。

――シンガーソングライターとして、昨年はベストアルバム『天晴』が大ヒットしましたが、今年は?
さだまさに「今でしょ」ですね。今冒険しておかないと安定しちゃうかもしれないという恐怖心が出てきました。自分のイメージする最終形まであと2ステップくらいあると思っています。最近は先輩や後輩からも認めてもらえるようになってきた。だからこそ、今冒険したいですね。アルバムに関しても昨年人様に書いた曲がたくさんあるんです。そういう曲をセルフカバーする方法もあるのかもしれないけれど、それはいつでもできると思うんです。それより冒険してステップをあがりたいですね。狙いますよ、オリコンアルバム1位! ラージヒルに、いい風が吹いてますよ!

サクラサク

 「満開の桜がきれいだった…」壊れかけた家族は、70年前の父の大切な思い出の場所にたどりつけるのか。
 あなたはもっとも身近なはずの“家族”を、しっかりと見つめられているだろうか? 2014年春、この物語はあなたに深く問いかけ、前に進むきっかけを優しく与えてくれるだろう。

監督:田中光敏
出演者:緒形直人 南果歩 美山加恋 矢野聖人 藤竜也
【映画予告編】 【公式サイト】
2014年4月5日(土)全国公開
(C)2014「サクラサク」製作委員会

関連リンク

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さだまさしのリリース作品情報
『サクラサク』公式サイト

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