ミュージック インタビュー&コメント

ミュージックライブレポート
2010年12月22日
LIVE REPORT
宇多田ヒカル
12年間の軌跡が詰まった、一時休止前のラストライブ!

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引退はない!おばさんになったら、ライブやろ
 2010年8月。自身のオフィシャルHPで、人間活動に専念するため、音楽活動一時休止を発表した宇多田ヒカル。一時休止前ラスト、さらに国内では4年ぶりのライブとなった12月8、9日の横浜アリーナ。それだけに、開演前から集まった観客達のテンションはいつになく高まっていた。

 360度見渡せる円形ステージが中央に設置された会場。オープニング映像が流れたあと、覆われていた幕がさがるとともに、宇多田ヒカルがステージ下からせり上がり登場。薄紫が混じるシフォンドレスを身にまとい、新曲「Goodbye Happiness」を熱唱。「みんないくぞ〜!」の掛け声で「traveling」へと流れ込む。

「今日はじつは私のデビューからちょうど12年目の記念日です。なんだか長いような短いような、不思議な12年間だったけれど、こんなに大勢の人と一緒にライブができるようになるなんて、12年前は思ってもみなかったから、すごい幸せもんだと思います。今日でこれも最後なので、やりたい放題、好きなように、燃え尽きるようにやろうと思ってるんで、みんなも好き放題やっちゃって!」

 まさにこの日は彼女の12年間の軌跡をたどるような、新旧さまざまな作品達で構成。ストリングスからバンド、デジタルテイストと楽曲に合わせたアレンジがなされ、時には巨大なライブハウスからクラシックホール、クラブ空間といった異なる演出がブロックごとに施され、改めて宇多田ヒカルが紡ぎ出すサウンドの多彩さ、枠にとらわれない自由な音楽性、オリジナリティー溢れる世界観を放つ唯一無二のアーティストであることを痛感したのだった。

 とはいえ、MCになると一転して、気さくな27歳の女性へと変貌。観客の「ヒッキー」コールに対して「私がおばさんになってもみんなにヒッキーって呼ばれるのかな?呼んでくれる?おばさんになったら、ライブやろ」とその距離感はとてつもなく近い。また「SAKURAドロップス」で中央のピアノにおもむろに腰掛けると「席が温かい(笑)マットのぬくもりが」と会場に笑いを誘ったりと、MCではあくまでも自然体な彼女。再び会場から「ヒッキー」コールが沸き起こると、「よう、聞こえてるわ、よう、見えるわ!」とすかさずするどい突っ込みが。そして、「いい会場だな、円形ステージにしてよかった」とポツリとつぶやく。「だって、一番奥の人の顔とかタオルとか全部見えるもん。よかった、よかった」と、笑顔の影で見え隠れする彼女の心情が言葉の端々から伝わってくる。

 大ヒット曲「Automatic」、「First Love」、さらに「Flavor Of Life -Ballad Version-」、「光」と壮大かつドラマティックなナンバーが続き、ついに本編ラスト1曲を残すのみとなった瞬間、「ハァ〜」とため息をつく彼女。「別に引退するわけじゃないんだけど。まだ契約も残ってるから作品も出すし(笑)。永久に引退はないんだよ。しばらく休むだけだから。ライブもできないと思うけど……「(会場から)待ってるよ(の歓声と拍手が)」じゃあ、信じる、信じる(笑)」。本編ラストは彼女が世界中の人は平等なんだという力強いメッセージを込めた「虹色バス」で幕を閉じた。

 アンコールで再びステージに登場した宇多田ヒカルは、残りわずかなこの幸せな空間を噛みしめるように、一瞬一瞬を逃さないように、1フレーズに魂を込めて歌った。 「すごくすごくみんなの愛を感じます。ここにいて幸せです〜。デビューして最初のころは大人ぶっていて、素直に可愛いことが言えなかったけど、最近になってようやく素直になれてきたのかな?まだひねくれてるけど(笑)、素直になることは気持ちいいことだよね。来年からちょっと休むっていうのはね、別に何をしていくってわけじゃないんだけど、自分を見失いかけてた時期が長いことあって、全然自分を大切にしてなかったなって。で、自分をできないのにほかの人を幸せにはできないなって。それがわかるようになってきたのが最近の私の変化でございます(笑)。私の願いはみんなも自分を大事にしてほしいなって。今日はありがとうございました。最後に15才のとき、一番最初に作った歌を一発歌うので、これにすごくすごく心を込めるのでみんなに届けばと思います」と、デビューシングル収録曲「time will tell」を披露。デビューから12年間を振り返るように、集まった1万4千人の観客一人ひとりに感謝の気持ちを伝えるように、360°に広がるステージを一周しながら、1万4千の手拍子に包まれる中、渾身の力を込めて歌った。そして、「ありがとうございました」と一礼。この瞬間をしっかりと脳裏に刻み込むように、しばらくの間、笑顔で手をふり続けていた彼女の姿が印象的だった。

 そして、円形ステージに背を向け、脇に細く伸びた花道へゆっくりと歩きだした宇多田ヒカル。そのまま立ち去ると思いきや、くるりと身を翻し、円形ステージの隅にそっとマイクを置き、深々と礼をして花道から姿を消した。いつまでも鳴り止まぬヒッキーコールと拍手。しかし、彼女の茶目っ気たっぷりの突っ込みが帰ってくることはなかった。ここに置かれたマイクを彼女自身の手でさらに力強く握る日は、必ずやくるハズ。12年前にリリースされたデビュー曲「Automatic」がこの日、あのころとは異なる包容力を持って表現されていたように、再びステージの上に彼女が戻って来るときには、間違いなくひとりの女性として、シンガーとして、人間として彼女は大きな成長を果たしていることだろう。それまでの間、彼女の楽曲に身をゆだねながら、私達もひとりの人間としての成長を果たし、より大人になった、素直になったアーティスト・宇多田ヒカルと向き合いたいと願う。
(文:星野彩乃)
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