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2006年10月18日 14時00分

洋楽ヒットは邦題が決め手

「バッド・デイ〜ついてない日の応援歌」から探る
邦題発ヒットの秘訣



 今年の洋楽マーケット最大のヒット、ダニエル・パウター「バッド・デイ〜ついてない日の応援歌」は、曲のよさはもちろんのこと、タイトルについた日本語がポイントになっているとする声は多い。そのヒットに呼応するかたちで、ひと頃よりほとんどなくなってしまった邦題に脚光が集まっている。洋
 
楽マーケティングの原点回帰ともいえる、邦題にヒットの秘訣はあるのか。

一般層に訴えるための有効な手立て

 今年最大級の洋楽ヒットとなったダニエル・パウターの“Bad Day”には「バッド・デイ〜ついてない日の応援歌」というタイトルがついている。副題を伴うネーミングもさることながら、いわゆる邦題がついた曲が幅広い支持を得たのは、ちょっとした出来事だったのではないだろうか? 

 というのも、この10月に日本デビューした同じくシンガー・ソングライターのジェイムス・モリスンのリード曲には「君に逢えてよかった…」(原題“You Give Me Something”)という邦題がつけられているからだ。ダニエルにあやかりたいかどうかはともかく、このタイトルからはジェイムスの音楽をいかに日本で広めるかを思慮したあとがうかがえる。

 ここ数年の洋楽ヒットで最も有名な邦題は、昨年のO-ZONEの「恋のマイアヒ」(“DRAGONSTEA DIN TEI”)だろう。曲のノリの良さと語感の面白さをそのままタイトルにしたセンスは、おバカで楽しい勢いともども大衆のツボにハマったわけだ。しかし、例えば90年代のヒット曲、リッキー・マーティン「リヴィン・ラ・ヴィダ・ロカ」は原題をそのままカタカナ表記にしただけで、邦題がついていない。僕がこれを「あれね」と思い出せたのは、同曲の郷ひろみ版のカバーが「GOLDFINGER'99」(これも立派なオリジナル邦題)とされていると確認できたときだった。

 そう、ここ10数年の洋楽作品は日本独自のタイトルをつける習慣が減っている。かつての洋楽はまず邦題ありきで、そこから日本のファンがその音楽に接していく流れがあったが、今やそれも隔世の感がある。

 往時の洋楽文化を少しでもご存じなら、先の「恋のマイアヒ」という名前が「恋の終列車」(モンキーズ)や「恋のナイト・フィーヴァー」(ビー・ジーズ)といったオールディーズのテイストを受け継いでいることはおわかりだろう。これが示すように、邦題の全盛期は、そのまま洋楽シングル・ヒットの隆盛とかなりの部分でリンクしている。と書くと“悲しき”シリーズ辺りを思い出すご年配もいらっしゃるに違いない。

 こうして主にヒット・ソングから派生した邦題文化は、アルバム・アーティストが出てきた60年代から70年代にかけ、ロックやソウルの分野でも定着していった。この時代の名邦題にはクリームの『クリームの素晴らしき世界』(“Wheels Of Fire”)、ピンク・フロイドの『原子心母』(“Atom Heart Mother”)、など、枚挙にいとまがない。

 このように邦題は海外からの情報の少なかった時代、その作品やアーティストの本質、雰囲気を日本のファンに伝えるのに大きな役割を果たしていた。大昔は海外からの音楽というだけで何やら高いところにある、距離を感じざるをえない雰囲気があったからだ。というのも80年代以前の日本は輸入盤を買える場所が限られており、しかも決して安価ではなかった。さらに言えば海外旅行も高嶺の花の時代であり、外国の文化自体が今ほど身近ではなかったのだ。

 そんな時代の音楽文化に邦題は非常に有効だった。例えば僕自身も子供だった30年前、お昼のラジオでは「デル・シャノンの<悲しき街角>、聴いてもらいましょう」といった具合に、外国のヒット曲もスムーズに紹介されていた。仮にそのディスクジョッキーが地方のラジオ局勤務の音楽に詳しくない中年アナウンサーでも、聴く側に洋楽の知識などなくても、気軽に接することができたのだ。

 そうした邦題はその時々のレコード会社担当者の手腕にかかっていたわけだが、これが悪ふざけ気味につけられることで本質を外して紹介されたことも、はたまた単なる誤解のままにつけられたケースがあったことも多い。今もよく話題にのぼるのはビートルズの“Norwegian Wood”が「ノルウェーの森」とされたこと。逆にポール・マッカートニーの「ひとりぼっちのロンリー・ナイト」(“No More Lonely Nights”)などはツッコミが来ることを読んだ、確信犯的なものである。いいか悪いかは別として、ではあるけれど。

 しかしこうした邦題文化も80年代から少しずつおとなしくなっていく。とはいえ当時主流の『ベストヒットUSA』『SONY MUSIC TV』などのビデオクリップ番組では英語の原題の紹介がメインだったが、その一方で邦題に親しむ風潮もまだまだ残っていた。大きな転機はやはり80年代後半、J−WAVEを筆頭としたFM局が英語主体の番組スタイルに変わってからだろう。

 そうした場では今度は邦題が省略されるようになり、日本語のタイトルがクールに思われなくなっていった。またこの頃から外資系の小売店が台頭して輸入盤の入手が容易になり、邦題の重要性が下がったこともあるだろう。さらに海外雑誌やインターネットの普及などで外国の音楽文化に触れやすい情報化時代も到来した。都市部でライヴ会場が整備され、来日公演の数が増えたのもこの頃だ。こうして見ると80年代半ば、日本政府の方針で円高ドル安が押し進められ、舶来の文化すべてが身近になったこともひとつの転換点だった気がする。

 かくして90年代以降は日本オリジナルの邦題が激減し、原題をカタカナに起こしたもの、あるいは英語そのままのタイトルがほとんどになった。この頃の印象的な邦題といえばトム・ジョーンズの「恋はメキ・メキ」(“If I Only Knew”)ぐらいだ。ことに、いかにリアルかが重視されるようになったロックやヒップホップの世界ではこの傾向が今なお強い。

 去年のフランツ・フェルディナンドのアルバムは『You Could Have It So Much Better』だし、アークティック・モンキーズに至っては『ホワットエヴァー・ピープル・セイ・アイ・アム、ザッツ・ホワット・アイム・ノット』である。もっとも現在、現場で動いている各レーベルの担当者でも、邦題文化がかつてどんなパワーを持っていたかを知っている人自体が少ないのかもしれない。

 しかし邦題に力がないとは決して言い切れない。同じようにかつて邦題文化が盛んだった洋画界でも、絶妙なセンスのものはヒットにつながるからだ。ハリポタ・シリーズの第1作が原題のまま『ハリー・ポッター・アンド・ザ・フィロソファーズ・ストーン』とされていたら、今ほど親しまれていたか。韓流のドラマや映画に邦題がなかったら、今ほど定着したか。一般層に訴えるためには、邦題は有効な手立てなのだ。逆に考えると、洋楽のヒット曲数が減少した90年代半ば以降は、この邦題文化が沈下した時期とも見事にかぶっている。

 もし今、邦題が復権しつつあるとしたら、それはバイリンガル系のFM局にかつてほどの影響力がなくなっていることも多少関係しているのだろう。いま邦題がハマるのは「マイアヒ」のようなおバカ・ヒットとシンガー・ソングライター系を中心とした文学系のもの。それから最近『驚異/PULSE』というライヴDVDを出したピンク・フロイドのようなプログレッシヴ・ロックだ。いずれの邦題も、その音楽の魅力をデフォルメ(誇張)して伝える役目を果たしていることは間違いない。そしてそれが洋楽文化の広がりを助長するものであれば、歓迎すべきことだと思う。

 果たして「恋のマイアヒ」とダニエルが生んだ流れにより、邦題復活の動きは強まるか? そしてそれは今後の洋楽界にどんな影響をもたらしていくのだろうか。
(文/青木 優)


【邦題ともに歩んできた洋楽】
50〜60年代
洋楽黎明期の50年代から60年代にかけては、ほとんどの洋楽シングルに邦題が付けられていた。AMラジオ全盛の時代、大衆に受け入れられるためにレコード会社ディレクターは日々頭を悩ませ、邦題を格闘していた。ヒット曲には「悲しき〜」「涙の〜」のような流行言葉を使用されていたが、徐々に出始めたロック系のものには文学的要素が練りこまれたものが出始めた。ボブ・ディラン「風に吹かれて」。タイトルと歌が言おうとしているメッセージをこれ以外にはない形で命名されている。またビートルズのブレイクに「抱きしめたい」というタイトルは大きく貢献した。


70年代
洋楽のシングルがヒットチャートをにぎわせていた70年代は、原題を思い出せないほど、曲とタイトルのイメージが合致した傑作が多く発売されている。プロコル・ハルム「青い影」、サイモンとガーファンクル「明日にかける橋」など。なかでもトニー・オーランドとドーンの「幸せの黄色いリボン」はタイトルをそのまま拝借した映画が作られるほど、浸透した(内容は無関係)。また70年代には『原子心母』『電気の武者』といったアルバム邦題の全盛期が到来する。


80年代
徐々に洋楽邦題の影響力が低下しはじめた80年代だが、コピー文化が出始めたこの時期には雰囲気でタイトルを付ける傑作が多い。AOR人気の際には、クリストファー・クロス「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」のように、邦題のようで正確には邦題ではないカタカナタイトルもヒットを後押しした。そのほか、ノーランズ「ダンシング・シスター」Jガイルズ・バンド「堕ちた天使」などの傑作邦題が登場。


90年代
トム・ジョーンズ「恋はメキメキ」くらいしか目立たなかった90年代だが、オルタナティヴのアーティストではTO社のベル・アンド・セバスチャンが『天使のため息』(写真)ほか多くの文学的傑作タイトルが付けられている。






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