観客動員数で128万人を突破し、大ヒットしている映画『けいおん！』（公開中）。2期にわたるTVシリーズ（2009年、2010年）から今回の映画までを手がけてきた、京都アニメーションの山田尚子監督にインタビューをする機会を得た。世間話のついでに音楽の趣味について聞くと、山田監督は「音楽はUKパンクが好きですね」という答えが。『けいおん！』で主人公たちのバンド・放課後ティータイムが奏でる音楽との比較で、意外に感じるか、なるほどと思うか…。深読みしようとしたら、山田監督は「『けいおん！』をやっている3年間は一切聴かなかったんですよ。願掛けみたいなものかな」と笑っていた。

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■軽音部の5人を人としてちゃんと扱いたかった

――『けいおん！』を監督するにあたって心がけていたことは？

山田：素直に、真っ向からアニメを作ることに挑戦しようと。小難しいことは考えず。やろうと思ってもできないんで（笑）。今、出来る事を素直にできればと。

――真っ向からアニメを作るとは？

山田：こうしたら受けるとか、こうすれば萌えるとか、作り手側の都合でキャラクターを動かさないということ。そこは、潔癖でした。唯は唯として存在させたい。5人が生きたいがままに、毎日楽しく過ごしていてほしい。そんな感覚で唯たちを見守っていました。人としてちゃんと扱いたかった、という感じですかね。

――左脳ではアニメのキャラクターとわかっていても、右脳では本当に“そこに存在していて”、普通に高校生活を送っているように思えてならないくらい、愛しく思えたり。

山田：私も出上がったアニメを観ていて思う（笑）。唯たちが動いているのが当たり前に見えてくるというか。よくよく考えるとアニメだから人がキャラクターを動かしているんだけど、その一瞬の錯覚が楽しい。

■見せつけられて初めて“好き”と気づくこともある

――『けいおん！』のキャラクターの魅力的な理由は何だと思いますか？

山田：グラビアの写真だけでは満足できなかった、というところですかね。現実の女の子って、おバカなところもあるし、意外と綺麗じゃない（笑）。それでも、女の子が可愛く見えるのには、それなりの理由があるんです。世の女の子たちはその秘けつを日夜、研究しているんだと思いますが、『けいおん！』では唯たちが可愛く見える理由をしっかり描きたいと思っていました。キャラクターたちを「可愛い」と思ってもらえたら、それで十分嬉しいんだけど、その理由を挙げることができたらより愛着が沸くんじゃないかと思っていました。

――愛着というより、一方的な片思いに近い感じがしませんか？

山田：いいですね片思い、大好き片思い。唯たちは男の子のこととか、ましてや映画がヒットするかどうかとか、まったく興味ない感じで（笑）。

――結果、TVシリーズから多くのファンの支持を得たことについては？

山田：すごくありがたく思っています。一方で、制作中はファンの皆さんの声をシャットアウトして、ガンとしてブレないようにも気をつけていました。ファンが見たいものをそのまま出していては何の新鮮度もない。見せつけられて初めて“好き”と気づくこともあると思っているから。

――面白いと思うものは、たいてい予想を超えたところにあるものですよね。
　
山田：観る人の感情を引き出したいと思っていました。乗せるばかりでなくて、引き出しながら乗せていきたい、『けいおん！』の映像が呼び水になって、もっと深い感情が出てくるのが、理想だと思っていました。

――『けいおん！』が一段落して思うことは？

山田：『けいおん！』は人の心をすごく大事にできた作品。やっぱりアニメって、面白いと思いました。人が作り出したものなのに、もうそのキャラクターが実在して生きているような気がする。その感じが楽しかったので、これからもキャラクターを人として大切に描く作品に携わっていけたらいいなと思っています。