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期待の新人監督・真利子哲也監督インタビュー

 次代を担う俳優、クリエイターたちへのインタビュー。真利子哲也監督は、20代にして一部から“インディーズの巨匠”と呼ばれるなど、すでに国内外から注目を浴びる、今、最も将来性を期待される新人監督だ。2009年3月に東京藝術大学大学院を卒業。その修了制作として作った長編映画『イエローキッド』は、1月30日(土)より東京・渋谷のユーロスペースをはじめ、全国の独立系映画館で順次公開されることとなった。

真利子哲也監督 (C)ORICON DD inc.  

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 わずか200万円の制作費と10日間の撮影期間で作られた修了制作の作品が、いきなり全国規模で劇場公開されるのは異例のこと。これは、全国独立系映画館主たちのネットワーク『シネマ・シンジケート』(映画館大賞なども実施)が、新人監督にチャンスを与えるため企画した『New Director/New Cinema 2010』に選ばれたことによるもので、独立系映画館主たちの熱い支援で実現した。映画界が期待を寄せる真利子監督とはどんな人物なのか。『イエローキッド』とはどんな作品なのか…。

◆今回は、等身大の世代をやろうと思いました

――制作テーマは何だったのでしょうか?

【真利子】 見方によって現実は変わる、がテーマ。現実と妄想、自分と他人が入り交じった多様な見方を表現したかった。

――単純な要素が無理矢理つながっているような複雑さが、逆にリアリティがあるように感じました。現実は、無数の出来事が、微妙なところでギシギシいいながら同時に動いている。脚本も真利子監督のオリジナルですが、どういういきさつでこの物語を考えましたか?

【真利子】 今まで撮った自主映画は基本的に自分一人でやっていたので、脚本を書いたことがなかったんです。まず、脚本の書き方がわからないという状態からスタートしました。卒業制作なので、大学に脚本を提出しなければならなかったのですが、その締切が迫っても書けなくて。居ても立ってもいられなくなって、バスに飛び乗って大阪に行きました。大阪に行けば何かかけるような気がしたんです。そこで1週間過ごして、その時のことをフィクションを交えながら脚本の体裁で書いて、それをベースにボクシングとかアメコミのアイデアを加えいきました。

――大阪で何があった?

【真利子】 友達の家に泊まって、万博記念公園に行ったくらいで、本当に何も起きていないんですけど…。友達を強いボクサーの設定に変えていったりしながら、脚本を仕上げました。だいぶ変えたので原型はほぼないですね。でも、映画にできる自信はありました。人が何と言おうと、これなら“イケる”と思った。

――劇中で服部の描くマンガの元ネタになったのは、ずばりその名も『イエローキッド』。今から100年ほど前に、リチャード・フェルトン・アウトコ−ルという人物が生み出したキャラクター。なぜ、アメコミ?

【真利子】 服部のように既存のキャラクターを使って、新たなストーリーを創造するというのは、いわゆるアメコミには従来からある方式と同じことをこの日本でやってみる、というのが今回の企画の狙いのひとつでもありました。それに、ヒーローもののアメコミであれば、ボクシングのサクセスストーリーとも親和性があると思ったくらい。僕自身が、ボクシングもアメコミもそれほど熱狂的ではないので、あくまでも映画としてどう見せるか、ということを考えた。身の回りにないものを描きたかった。

――撮影に入ってからというのは?

【真利子】 撮影する前に完成したマンガ原稿が、クオリティの高いものに仕上がっていたので、それに負けないように実写も撮影しようとスタッフ、役者が熱をもって毎日取り組みました。

――主人公を自身と同世代にした狙いは?

【真利子】 自分がこの先、40代になって、20代が主人公の映画を撮ったらまた違う映画になると思うので、今回は、等身大の世代をやろうと思いました。出来上がった作品をみて、すごく自分が出ていると思いました。

◆ようやく自分が映画監督の一人であると意識しました

―——『イエローキッド』の公開が決まってからの近況は?

【真利子】 取材を受ける中で、自分の映画について話すことの重要さを感じています。

――映画監督になるのが夢だった?

【真利子】 僕としては単純に映画を撮っていることで現在に至っています。

――夢は現実のものとなりつつある、そんな実感は?

【真利子】 先日『イエローキッド』ではじめて、長編映画の監督として海外の映画祭に行って、ようやく自分が映画監督の一人であると意識しました。実際お金のことを考えると、かなり厳しいですが、またゼロから脚本を作り出したいと思っています。

――では、宝くじで1億円当たったら?

【真利子】 貸しスタジオを作りたい。1億円の規模がよくわからないけど、打ち合わせしたり、取材を受けたり、自分で自由に使える場所を作りたい。

――自由な時間があったら何をしていますか?

【真利子】 電気店に行きます。びっくりするくらい客がいない時の大型量販店が好き。電化製品全般が好きなので、大型量販店はテーマパーク。いろいろなメーカーの炊飯器を見ているだけでも面白いし、楽しいんですとにか。

――朝起きて、最初にすることは?

【真利子】 iPhoneをいじって睡眠時間を記録しています。そういうアプリがあるんです。朝起きたら、まずそれを確認します。iPhoneがいろいろ管理して、世話してくれる感じ。

――1つだけ選ぶのは大変かもしれないけど、好きな映画は?

【真利子】 一番確かな作品として選ぶなら『狩人の夜』(1955年、チャールズ・ロートン監督)。母を殺した犯人から逃げる兄妹の話なんですが、妹がすごくのんきなんですよ。緊張感あふれるお兄ちゃんが、ふと妹を見ると横たわって寝ている。どこかファンタジーのようなサスペンス劇で、観ていて楽しかったですね。

――座右の銘はありますか?

【真利子】 中学生の時に読んだ小説にあった「すべて汝の手にたることは力を尽くしてこれを為せ」。

――どんな映画監督になりたいですか?

【真利子】 韓国ではパク・チャヌク監督がそうらしいのですが、役者とかスタッフにまた組みたいと一番思われている監督らしい。そういう映画監督になれたらいいな。現場楽しいですから、死ぬまで現場でやれていたらいいな。

★真利子哲也 まりこ・てつや
1981年7月12日生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業。同大学在学中に撮った自主制作映画『極東のマンション』『マリコ三十騎』が、ゆうばり国際映画祭で2004年、2005年のオフシアター部門で2年連続グランブリを受賞。オーバーハウゼン国際短篇映画祭で映画祭賞受賞するなど、国内外で高い評価を受ける。『パビリオン山椒魚』(2006年、冨永昌敬監督)や『クワイエットルームにようこそ』(2007年、松尾スズキ監督)等のメイキングを務める。2007年4月より、東京芸術大学大学院映像研究科入学。卒業制作として手がけた『イエローキッド』が、昨年秋に『バンクーバー国際映画祭2009』でドラゴン&タイガーアワードのコンペ部門に出品したほか、ロッテルダム国際映画祭(1月27日〜2月7日)からも招待を受けている。

★『イエローキッド』
 ボクサーを目指す青年・田村(遠藤要)は、東京の片隅で痴呆症の祖母を世話しながらも、金もなくやり場のない生活を送っている。タチの悪い先輩・榎本(玉井英棋)にそそのかされ、当たり屋で金を稼いだりしている田村が通うジムに、ある日新進気鋭のマンガ家・服部(岩瀬亮)が現われる。新作『イエローキッド』のキャラクターモデルとして、高校の同級生で元アマチュア世界チャンピオンの三国(波岡一喜)を取材するためだった。
 榎本は田村をそそのかし、服部の財布を盗ませようとするが、田村は財布ではなく、マンガ原稿を盗んでしまう。服部に謝罪する田村。しかし服部は『イエローキッド』のファンだと言う田村に興味を持つ。こうして両者は急接近し、服部は田村を主役『イエローキッド』のキャラクターモデルにする。やがて、服部が描いたマンガと全く同じことを田村がし始めて…。

監督・脚本:真利子哲也
出演:遠藤 要 岩瀬 亮 波岡一喜 町田マリー 玉井英棋
製作・提供:東京藝術大学大学院映像研究科
配給:ユーロスペース
1月30日(土)より東京・渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー 

関連写真

  • 真利子哲也監督 (C)ORICON DD inc.  
  • 真利子哲也監督 (C)ORICON DD inc.  
  • 真利子哲也監督、長編デビュー作『イエローキッド』 1月30日(土)より東京・渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー 
  • 映画『イエローキッド』より/ボクサー志望の青年・田村を演じた遠藤要は今作が映画初主演。映画デビュー作は『クローズZERO』(2007年) 
  • 映画『イエローキッド』より/漫画家服部役は岸田國士戯曲賞受賞作家の三浦大輔率いる劇団『ポツドール』の舞台でも活躍する岩瀬亮 

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